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アラフォーだけど異世界召喚されたら私だけの王子様が待っていました  作者: 温井 床


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 騎士団は国と王に忠誠を誓うと聞いている、その長たるリンガルが殿下と同等に扱うと言ってくれたのだから、これ以上の味方はないわ。

 里菜は元より護衛対象であるが、その立場が明確にされたのだ。

 ヴァイツェンやオーガストのように跪いたりはしていないが、こんなにも優しいリンガルの声を聞いたのは初めてだった。

 だから、聞いてみようと思った。もう一つの気掛かり、ソニアスの事だ。

 兄のレイニードからは無事だと聞かされてはいるが、本当に大丈夫なのか気になっていた。

「あの、ありがとうございます。何かあった時は頼りにさせて貰います。それと、聞きたい事があるのですが」

 纏う空気を和らげた偉丈夫は頷き、先を促す。

「何なりと」

「ソニアスさんは無事なんでしょうか。あの時、転移魔法が出来たのもソニアスさんのお陰なんです。でもその視界が変わる瞬間に倒れたように見えたので心配になって」

 その一瞬、リンガルが固まったように感じたのは気のせいだろうか。

「魔導師長殿の事であれば、問題はない。しかし、なるほど、昏倒した理由はそれか。気になさる必要はない、明日には復帰するだろう」

「よかった」

 ソニアスが里菜の元に駆けつけて来た時には既に満身創痍のように見えた。

 でも大丈夫そうだ。

「あの、お見舞いに行きたいのですが。お礼も言いたいし」

 あの時、彼が来てくれなければヴァイツェン殿下は助からなかったかもしれない。

「殿下のお許しがあれば案内いたしましょう」

「私が何だって?」

 いつの間にかヴァイツェンがトレイを自ら持ち、戻って来ていた。

 卓上にトレイを置くと、里菜の顔を覗き込むように身を屈ませる。

「聖女殿は魔導師長殿の見舞いに行きたいと」

「うん?見舞いに行きたいのか。リリエナはソニアスを随分と気にかけているのだな」

 ヴァイツェンの声が急に不機嫌になる。

「殿下の危機に駆けつけられたのは魔導師長殿の助力によるものだそうで、礼がしたいと申されているのです」

 珍しくリンガルがフォローするのにヴァイツェンは片眉を上げた。

「そうか、なら私も礼をせねばならんな。私も一緒に行く、それなら許そう」

「はい」

「その前に、朝食を食べよう。お腹はすいてないか?」

「お腹すいてます」

「そうか、ではこれを」

 とヴァイツェンがトレイの蓋を開ける。

「あ、おにぎり」

 以前よりマシではあるが崩れ方が同じで、明らかに同じ人物が握ったと思われる三角もどきのおにぎりが鎮座していた。

「さあ、食べて」

 そう言うヴァイツェンの真剣さに、里菜はまさかと顔を見上げた。

 まさか、この王子様が作ったとか?まさかね。

「作法を気にしているのか?ここには我々だけだ、気にするな。それは手づかみで食べるものなのだろう?」

 全く違う気遣いだが、何と言っていいのかわからない里菜はそっと手を伸ばす。

「いただきます」

 はむっと頬張る。

 ん~、やっぱり塩なしか。

 前と同じで塩はついてなかったが、米好きな里菜は白米だけでも十分美味しく食べれるので、もぐもぐと咀嚼する。

 幸いにもこちらの米も美味しいのだ、貴族などはあまり食べないが平民の間ではよく食べられているらしく、品質改良に力を入れている農家もあると聞いている。

 この城でもリゾットのようなものは出ていたが、おにぎりはヴァイツェンが持ってきた時以外見ていない、なのに何故この人はおにぎりを知っていたのか不思議である。

「こちらのお米も美味しいです」

「そ、そうか」

 ヴァイツェンの緊張していた表情が少し解ける。 

「ただ……」

「ただ?な、なんだ」

 やっぱり塩味が欲しいかもと、小さく呟いたのをヴァイツェンは聞き逃さなかった。

「塩?いや私としたことが。すぐ作り直してこよう、少し待っていてくれ」

 作り直す?これ捨てちゃうって事?

 トレイを掴んで足速に出て行こうとするのを慌てて引き止める。

「え、待って、待って下さい。もったいないし、だから塩だけ持ってきてもらえれば大丈夫ですっ」

「そ、そうか。すぐに用意させる」

 ヴァイツェンが扉の向こうの誰かに頼むと、すぐに皿に盛られた塩が届けられた。

 里菜は、小皿ではあるがこんもりと魔除けのように盛られているそれを天辺からひとつまみ掴むと、パラパラとおにぎりにふりかけてかぶりついた。

「おにぎりとは塩をふりかけて食べる物だったのか、気付かなくてすまない」

 ヴァイツェンが申し訳なさそうに呟く。

「えーと、握る前に手の平に塩をつけてから握るんです。あ、でも順番が違うだけで塩味は変わりませんから、これでも大丈夫です。美味しいですよ、殿下も食べて下さい」

「ああ、いただこう」

 ヴァイツェンは戸惑いながら手掴みし、口に運びパクッと齧り付き咀嚼しながら頷いた。

「うん、塩が良い具合だな。そうか、次こそは完璧なおにぎりをリリエナに贈ろう。チャンスをくれないか」

 あぁ、また垂れ耳と垂れ尻尾が見えるようだわ。

 この甘く整った顔でお願いされると、嫌とは言えない。

 いや、断るような事でもないし、おにぎりは嬉しいから勿論返事は「はい」なんだけども。

 本当に作り方がわかっているのか不安だわね、だったらいっそ。

「もちろんです。でしたら殿下、私も一緒に作ります」

 そうよ、一緒に作れば作り直さずにすむし、私だけじゃなくて殿下にも他の人にも食べやすいようにバリエーションがつけられるわ。

「私の為に用意をしてくれたその気持ちが嬉しくて。だから殿下にも私が作ったおにぎりを食べて欲しいんです。おにぎりの交換しませんか?」

 ここぞとばかりの会社員として培った営業スマイルで提案をしてみると、分かりやすくヴァイツェンに笑顔が戻った。

「私の為にリリエナが?うん、いいね。そうしよう、それはとても楽しみだ」

 ブルーグリーンの瞳に愛おしそうに見つめられた里菜は、それに答えるように少し恥ずかしげに見つめ返した。

 しばらくそうしていたが、恥ずかしさがピークになったところでサンドイッチとフルーツが追加で用意された為、里菜は漸く目を逸らし黙々と空腹を満たしていった。

 過分に満腹になり、お茶が出されひと口飲んだ所でヴァイツェンが神妙な面持ちで口を開いた。

「リリエナ、これからの事だが」

「はい」

「いや、その前に聞かなければ。転移魔法を使ったと聞いた、高度な魔法だが以前のリリエナは使えていたものだ。もしかして何か思い出したのか?」

 記憶がもどりつつある事は誰にも話してはいなかった、それはあまりに中途半端な記憶だったから。

 それに、記憶が戻ったと分かったら過度な期待をされるかもしれないと思ったから。

 ふと、元の世界に戻る直前のヴァイツェンの泣きそうな顔が脳裏に浮かんで、目の前の心配そうな表情と重なる。

 この人は私をちゃんと見てくれる、大丈夫、話してみよう。

「ぜ、全部ではありません。ですけど、思い出してます。この世界に来た事、魔王と戦った事」

「では、私の事はっ?」

 食い気味でヴァイツェンが聞いてくる。

「魔王討伐で一緒に戦った事は、それ以外はまだ……すみません」

「植物園での事は?」

「植物園?ですか、わかりません」

「そう……か、いや、いいんだ」

 反応がなかったのも仕方ないな、と小さく呟いたのを里菜は聞き取れなかった。

「え?」

「いいんだ、それより何かきっかけでもあったのだろうか」

 里菜にも理由は分からないが、記憶は魔王の影が消滅した後に突然湧き出るように思い出している気がする。

 ヴァイツェンにもそれを伝えると、魔王の影を討伐したおおまかな時間などを聞かされた。

「タイミングは合っているように思います」

「そうか、何故かは不明だが、リリエナの記憶は魔王が持っているという事か。ならば魔王を倒せば記憶が戻るだろう、私は必ず魔王を倒しリリエナの記憶を取り戻す」

「私も思い出したいです」

 なによりヴァイツェンの事が思い出せないのが悔しかった、大切な思い出だったはずだから。

 目の前の大切な人を見ると、真っ直ぐな視線にぶつかる。

 急に意識してしまい、顔が熱くなる。

 ヴァイツェンの瞳が優しく細められ、里菜の頬に触れようと右手が伸ばされたが、到達する前に下げられてしまった。

「この間は、すまなかった。君に酷い態度を取った事を謝りたい、オーガストに嫉妬した挙句にリリエナに八つ当たりをしてしまった」

「え、嫉妬?ですか?」

 確かに酷い態度だったし、腹も立ったけど、嫉妬って、え、どこに嫉妬したの?

「あいつに一緒に逃げようと言われたのだろう?フラれたと聞いてはいるが、リリエナがやけにあの男を気にするのが我慢ならなかった」

 里菜はポカンとしてしまった。

 あの時、確かに自分はオーガストさんの状態が気になっていた、怪我の心配はしていたけど、でもそれは話が聞きたかったからで、五年前の私と殿下の話を。

 それをこの王子様は勘違いして嫉妬したのか、綺麗な顔を恥ずかしそうに赤らめて、目を逸らしているこのイケメンは。

「ふ、ふふ、うふふふっ」

 可愛いやら、嬉しいやら、くすぐったいやら、ともかく幸せだと里菜は思った。

「リ、リリエナ?」

「ふふふっ、はぁ、オーガストさんから聞きたい話があったんです。私が知らない私と殿下の話を、だから話が出来る状態なのか知りたかっただけなんです」

「そうなのか、そうか」

「はい、そうです」

 ヴァイツェンに笑顔が戻り、里菜も笑顔を返し、しばらく微笑み合っていた。

 その時、ゴホンと咳払いがひとつ聞こえた。

「殿下、これからのことを聖女殿に」

 と、本題になかなか戻らない事に呆れ顔の騎士団長が促したのだった。

 


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