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アラフォーだけど異世界召喚されたら私だけの王子様が待っていました  作者: 温井 床


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「はぁ、た、助けられて良かった。本当に」

 里菜は城の王太子執務室へ戻った途端にへなへなとその場に座り込んでしまった。

 心臓はバクバクと激しく、指先は小刻みに震えており動揺が露わとなっている。

 だって怖かった。

 突然魔王の影が現れ、自分も脅かされ、大事な人を失うところだったなんて恐怖以外の何でもない。

 ヴァイツェンの青白い顔を思い出してゾッとする、間に合って本当に良かった、むしろ頑張った自分を褒め称えたいと思う。

 震えが落ち着くまでひと息ついてから思い出したように見渡すと荒れたままで、ガラスや調度品が残念な状態であちらこちらに転がっている。

 ソニアスや他の魔導師の姿もない。

 勢いで戻って来た里菜だったが、散らばった残骸を一人で片付けられそうにない、気力を振り絞って立ち上がり、誰かいないかと探しに廊下へ出たが誰もいなかった。

 仕方なく騎士隊隊舎の方へ向かおうとした時、誰もいなかったはずの背後から声がかけられた。

「おや、こんな所でどうしたんだ?」

 聞き覚えのある声に驚き、慌てて振り返る。

「え、えっ?どうしてここに?」

「今それを聞いたのは僕の方だよ」

「あっ、ごめんなさい。レイニード……お兄様」

 そこにはヘーゼルナッツ色の髪と新緑色の瞳を持つ美丈夫、ドゥーベ家の兄であるレイニードが優しく微笑んでいた。

「謝らなくてもいいさ。言ってなかったかな、僕は城で働いているんだ。リナが殿下に軟禁されている事も知っているよ」

「えっ、なん、軟禁なんて・・」

「まったく、そんな方法しか取れないとは先が思いやられる。安心して任せられないな。リナ、いつでもドゥーベ家へ戻っておいで歓迎するよ」

「え、はぁ。ありがとうございます」

 どうやら心配をされているらしい。

「ところでどうしたんだ、部屋を出て良いのか?」

 部屋から出ないで欲しいとヴァイツェンから言われているが、それは誰でも知っている事なのだろうか?

 一応身内の人だから言ってくれてたのかもしれないわね。

 その部屋がぐちゃぐちゃでと言おうとしたが、その台詞から察するにもしやこの兄は魔王の影が現れた事を知らないのではと、はたと気付く。

 もしそうなら、言わない方が心配をかけずに済むのかもと考えた里菜は誤魔化す事にした。 

「えと、散歩を、しようかなぁ、なんて」

「散歩?一人で行くのか?」

 レイニードは笑顔を崩さなかったが、里菜を捉えたその瞳が鋭さを増した気がした。

「き、気晴らしに少し歩こうかなと、思いまし……て」

 自然と語尾が小さくなる。

 どうしよう、やっぱり本当の事を言った方が良かったかしら。ああ、でもこの人はどこまで知っているの?、全部話すとなるとオーガストさんの事も言わなくてはならないわよね、それは絶対ダメ。あ、私今首輪してないけど、魔法を封じられていた事って知られているのかしら、そこから言わなくてはならないのなら……やっぱり脱獄したなんて言えない。それとも部屋に戻る振りをしようかと逡巡していると、目の前にエスコートの腕が差し出された。

「では僕とお茶などいかがですか?」

 おどけるようにレイニードは誘ってくる。

「え?」

「城の中とはいえ歩き回るのは賛成できないからな。さ、おいで」

 否を言わせない強引さに諦めてその腕に手を乗せると、そのまま連れて行かれたのは少し離れたところの一室。

 里菜が初めて訪れる部屋だ、客間だろうか、それとも彼の部屋だろうか、ある程度の地位があれば個人の部屋があると聞いた事がある。

 華美な物はないが質の良さそうな調度品で揃えられた部屋はどこかドゥーベ家の屋敷を思い起こさせる。

 テーブルセットに腰掛けたタイミングでお茶とケーキが運ばれて来たが、執務室をそのままにしてしまい、ソニアスの事も気がかりで仕方ない里菜は早々に立ち去る方法ばかり考えていた。

「安心しろ、殿下の部屋は片付けさせている。ソニアス殿も無事だ」

 里菜は口に含んだお茶を吹き出しそうになる。

「んんっ⁉︎」

「驚かせたか、すまない。どこから話そうか、ああ、この部屋はドゥーベの人間が代々使っている部屋だ。城の中にあるがこの部屋で起こる事は全てドゥーベに一任されている、実家にいるようなものだと思ってくれ」

 レイニードから発せられた言葉にポカンとしてしまう。

「僕は全てを知っている、そういう立場なんだ。オーガストの牢の鍵を開けたのも僕だ、まあそれを頼んできたのは別の人間だがな。殿下はまだ少し未熟な所がある、今回もそういう周りの働きがあって殿下もリナも無事でいられた」

 レイニードの口調は重く真剣だ。

 確かに魔法封じの首輪が外れなければ殿下の命は助からず、自分も魔王に殺されるか拐われるか無事ではいられなかっただろう。

 それを改めて考えると血の気が引いた。

「だからリナには話しておこうと思ったんだ。我々第六騎士隊の事を」

 第六騎士隊?

「え、騎士隊は五つって」

「うん、ごく限られた、それなりの立場の者にしか知らされていないが本当は六つある」

 隠されているって事よね、自分がそれを聞いてもいいのかしら。 

「第六騎士隊は代々ドゥーベ家の者が率いる隊、お前も養女ではあるがドゥーベの人間だ無関係ではない。だが重く受け止める必要はないし何かあった時に頼れる所があると覚えておけばいいよ」

「はい」

 第六騎士隊は表立っては出来ない任務を請け負っており、汚い仕事もあるが諜報が中心で、騎士達は招集された時のみ第六騎士隊として任務を遂行するが、普段は別の仕事をしている。第六の騎士はそう名乗らないからどこにもいない、が、どこにでもいる。

 騎士として鍛えてもいるから討伐などの際には監視と情報収集を兼ねて同行しているそうだ。今回の討伐にも然。

 オーガストを牢から出したのも依頼があったからそうしたとレイニードは平然と述べる。

 誰が依頼したのか気になり聞いてみたが、教えては貰えなかった。

 あまり深く突っ込まない方が良さそうだ、笑顔だがそんな雰囲気をレイニードは持っている。

「魔王の出現はまだ大っぴらには出来ないのでね、殿下の部屋周辺は人払いをしてある。無防備なまま移動するのは危険だ、護衛が迎えに来るまでこの部屋で休んでいなさい」

 一人で歩き回るのは諦めるしかなさそうだ。

 ソニアスも無事でヴァイツェンの部屋も片付けてくれているのなら、里菜が無理に動く必要はない。

「わかりました、ありがとうございます」

 なんだか急に疲労感がやってきた身体も重い。

 ふぅ、と息を吐く、その小さなため息を兄は見逃さなかった。

「疲れた顔をしているな。奥の部屋にベッドがある、少し眠るといい」

 同じ笑顔だが雰囲気が柔らかくなり、少しホッとする。

 促され奥の部屋に行きベッドに横になると、やはり疲れていたのだろうストンと意識は落ちた。

 薄れゆく意識の中で優しく頭を撫でられた気がして、その手つきを懐かしく感じるも夢か現実か区別はつかなかった。

 


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