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アラフォーだけど異世界召喚されたら私だけの王子様が待っていました  作者: 温井 床


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 半分程開け放たれた窓から柔らかな風が入り、頬を撫で薄紅色の唇から漏れる寝息を攫っていく。

 里菜は質の良いリネンに包まれて健やかな呼吸を繰り返しており、そのベッドには花の装飾が施された天蓋が付いている。

 お伽話のお姫様が寝ていてもおかしくない程可愛らしい寝具である。

 目覚めが近いのか、里菜が少し身動いだ。

 それを合図にベッド脇から腕が延ばされその指先が前髪を掬う。

「起きたのか?リリエナ」

 その声に覚醒を促され里菜は目を覚ました。

「え?」

 知らない天井と誰かの手が視界に入り、理解が出来ず身体が強張る。

 ゆっくりと右側へ移動する手を目線だけで追いかけ、息を飲んだ。

 二十歳くらいだろうか、整った顔立ちに金髪、緑がかった青色の瞳が微笑んで自分を見ている。

 こんなに綺麗な男の子人生で初めて見たわ。

 日本人じゃないわね、白の詰襟に金の刺繍なんて服装も顔も引っくるめて王子様みたい。

「大丈夫か?」

 アッこの声だ、さっき聞いたのと、夢の中と声の主はこの人だったんだ。

 返事をしない里菜を心配そうに見つめ、また呼びかけてくる。

 現状を把握しようとして思考に夢中になっていたのが変に思われたようだ。

「どこか痛いところでもあるのか?」

 耳に心地良い優しい声とその顔で心配されるなんて、癒されるわ。

 なんて呑気に考えていると、彼は椅子から立ち上がって里菜に覆い被さるように顔を覗き込んできた。

「リリエナ、どうした?具合が悪いのか?医師を希望するか?」

「殿下、近づき過ぎです。もう少し距離をお取り下さい」

 もう一人いたのか、美青年の背後から別の声がした。

「だが返事もしないし動きもしない、どこか悪いのかもしれないじゃないか」

「落ち着いて下さい、医師はすぐやってきますよ。殿下はその方から離れて下さい」

 そう言われて渋々といった感じでようやく彼は元の椅子に座り直す。

 圧迫感が無くなったところで里菜は身体を起こし、金髪美青年に向かい、大丈夫ですと返事をした。

「驚いてすぐ言葉が出なかっただけなんです。すみません」

 金髪美青年がほっとした表情をする。

 もう一人、こちらも美形で茶髪、瞳は赤くて白の詰襟に赤いライン、ファンタジーの騎士が着ているような衣装を身につけた彼も里菜を優しい表情で見ていた。

「あの……」

 聞きたい事が山ほどあったがドアをノックする音に遮られた。

「医師が到着したようです」

「君は大丈夫というけれど、念の為医者に診て貰った方がいい、かまわないかい?」

「はい」

 美青年に優しく言われてしまえば頷くしかない気がする。

 白衣の初老の男性が女性を伴って入って来ると、騎士っぽい人が美青年を引っ張りながら部屋から退室する。

 医師は簡単な問診と脈拍を測り、何か気になるところはないかと尋ねてきた。

 その時になって自分が着ているのはスーツではなくネグリジェのような寝間着になっていると気付いた。

 身体の事を聞いているのは分かっているけど、私の脳内は疑問だらけだ。

「ここは何処ですか?それにここに居た男性が私の事をリリエナと呼んでましたが、人違いなんです」

 ずっと呼ばれている名前が気になっていて間違ったままお世話をされてるなら申し訳ないし、何より早く帰りたい。

 医師の後ろにいた女性が「まぁ!」と驚き、医師も少し困ったように眉を下げた。

「身体は大丈夫のようですね、お嬢様の疑問は先程のお方がお答えになるでしょう」

 お嬢様?言われ慣れない言葉に居た堪れなくなる。

 ん~、説明してくれるのなら待った方がいいのかな、でもそれって私がリリエナだったらって事よね。

「何もお分かりになられてないと伝えておきましょう、もう少しお休み下さい。では、失礼します」

 二人が部屋から出て行くと、里菜は力が抜けたように大きく息を吐いた。

 どこぞの異人館で見たような洋館の部屋だわ、近くにこんなお屋敷あったかな、あれ、そういえば私の荷物は?

 ショルダーバッグとスイーツの入ったコンビニ袋を持っていたはずで部屋を見渡すがその姿は無く、スイーツを食べ損ねた事にため息を漏らす。

「ああ、もう。誕生日のささやかな贅沢だったのに」

 よっぽどスイーツが食べたかったのかガックリと肩を落とした時、派手な音を立ててドアが開いた。

「覚えていないというのは本当か?」

 不躾に現れたのは顔を青くした金髪美青年だった。

 そして、ようやく彼から説明を聞く事が出来たのである。

 ここはピルスナいう国で彼は王太子のヴァイツェン殿下、一緒にいるのは騎士団の副団長オーガストさん、二人は召喚の儀式でこの世界に招かれた聖女を保護する為にこの屋敷のある領地に来ていた。

 そして、森の中にある聖なる泉に現れた私を保護し、領地の当主であるドゥーベ辺境伯家の屋敷に連れて来たと言う。

 私の事をリリエナと呼ぶ理由は、五年前にも召喚されここに私が来ており、その時にリリエナと名乗っていたそうだ。そしてある日姿消してしまったらしい。

 ここが自分のいた世界じゃないというのは何となくもう分かる、でも来た事なんて無い。

 私では無いと否定すると、ヴァイツェン殿下はブルーグリーンの瞳を翳らせながら真っ直ぐ私を見つめてきた。

「君だ。私が間違えるはずがない、覚えてなくとも君はリリエナだ」

 そんな目で見ないで、だって私は知らないもの、異世界召喚が本当なら私は間違って来てしまったとしか思えない、それにこんな年増の聖女なんていくらなんでもと思う。

「辺境伯当主からも話があるそうだ、着替えて応接の間までおいで、待っている」

 ドアの向こうに「入れ」と指示を出し、お仕着せの若い女性二人と入れ違いに殿下達は出て行った。

 深々とお辞儀をし、挨拶をしてくれた二人はそれぞれアリーさんとサラさんという名前だそうで、懐かしそうに私に笑顔を向けてくる。

「再びお世話をさせて頂けるなんて、光栄です。時間が無いようなので湯浴みは夜に、では着替えをいたしましょう」

 クローゼットから淡いクリーム色のドレスが出される、襟と袖口にはレースがついており、よく見ると裾に花柄の刺繍も入っていてとても可愛らしいドレスに里菜の顔が固まる。

 こういう服装をする世界だとは理解したけど、え、まって、アラフォーにそのドレスは無いわ、無理無理。

「お気に召しませんか?」

 アリーが首を傾げる。

「いえ、とても可愛いと思います。でも私には似合わないというか、無理があるというか」

「まあ、お可愛らしいリナ様にぴったりですよ、ほら」

 と、アリーがドレスを里菜の身体に当て、サラが全身鏡を目の前に持って来た。

 無理矢理の若作りの自分が見えるはずのそこには、ドレスがよく似合っている二十歳過ぎくらいの女性の姿があった。

 その顎がゆっくりと下がり、これでもかというくらいポッカリと口を開け、微動だにしなくなる。

 これは誰?いえ、私ってことは分かってるのよ、この顔は私だもの。

 この鏡がおかしいのかしら、異世界召喚するくらいだから魔法とかありそうだし。

 間違いなくこれは私、でも今この姿が映るのはおかしい、こんな年齢を逆行するなんてありえない。

「リナ様?やはりお気に召しませんか?」

 アリーが心配そうに聞いてくる。

「ねえ、私っていくつに見える?」

 衝撃のあまり返事の代わりに、女性の面倒くさい質問上位にくるようなセリフを吐いていた。

「以前いらっしゃった時は十六歳とお聞きしてますから今は二十一歳でしょうか、でも十代でも通りそうなほど肌がお綺麗ですね」

 アリーは嫌な顔をせず答えてくれた。

 念の為、本当に二十一歳に見えるか聞いてみると、二人とも頷いた。

 どうやら鏡は嘘をついていない、私は今推定二十一歳という前代未聞の若返りを果たしているということだ。

 私、とんでもない事に巻き込まれてるんじゃ……。

 急に顔色が悪くなった里菜をアリー達が心配し、当主に会うのを明日にしてはどうかと提案してきたが、こうなったら早く話が聞きたいと支度することにした。

 着替えは一人でしたかったが、侍女が手伝うのが普通だと説得され結局お願いすることになり、着せ替え人形の如く頭から爪先まで整えられた。

 お世話をされながら彼女達が自分の名前を正しく呼んでいるとふと気づき、人違いではないのかもしれない、と里菜の目は遠くを見つめる事しか出来なかった。

 


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