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アラフォーだけど異世界召喚されたら私だけの王子様が待っていました  作者: 温井 床


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「まったく、あの人は。揶揄(からか)って楽しんでるのかしら」

「殿下のアレはリリエナ様に少しでも近付きたいという男心の現れでしょう。私だって……」

「え?」

「あ、いえ。本気で嫌な時はお知らせ下さい。殿下であろうと排除致します」

「は、はい。あ、本持たせっぱなし、すみません持ちます」

 里菜は本気で嫌な訳では無い、それをオーガストに知られるのが恥ずかしいので話をずらした。

 オーガストは自分の仕事だからと貸出手続きを済ませ部屋まで運んでくれた。

 そのまま午後は読書をして過ごしていたが、夕食前になりヴァイツェンが部屋に訪れた。

 北の森にある村が魔物に襲われた、と。

「どうやら大型の魔物のようだ、討伐には私が出る事になった。リリエナ、君の祓いの魔法が必要になるかもしれない。陛下からの要請もある、が、行くかどうかはリリエナが決めていい」

 少しの間静かな時間が流れ、里菜の深呼吸の音が見守る二人の耳にもよく聞こえた。

 決して急かさない美形二人の気遣いがありがたいが、里菜の返事はもう決まっている。

 危険な事に巻き込まれるのだからと、勿体ぶってみただけだ。

「連れて行って下さい。祓いの魔法もコントロール出来るようになったし治癒魔法も使えるようになったんですよ」

 短い期間ながら軽度の怪我なら治せるようになっていた。

「いいんだね」

「はい」

「ありがとう。リリエナは呼ぶまで後方にいてくれればいいから、オーガストの側から離れないでくれ」

「分かりました」

「出立は急だが明朝、日の出と共に出る」 

 明日の朝ですって?準備って何をしたらいいのかしら、服装だってこんな重たいドレスじゃ動きにくいし。

 里菜のクローゼットにはドレスしか用意されていない、普段はその中から地味めなものを選んで着ているのだ。

「あの、ドレスじゃなくてもっと動きやすい服ってありますか?」

 ここの女性でパンツ姿の人は見た事ない、侍女さんのメイド服が一番動きやすいのかも。

 と思っていると。

「それなら聖女用のローブがある、生地も丈夫で軽い。それを用意しよう」

「ありがとうございます」

 聖女用か、気乗りしないフレーズが出たがそれを着るしかないようね。

 準備は特に無く、里菜は身一つで良いと言われたので夕食後はすぐにベッドに入った。

 魔物が出たのは王都より北にある森の小さな村で、今までは獣型の魔物が時々出るくらいで村人だけで何とか退治が出来ていたが、突然村人で倒せない大型の魔物に襲われ、二人喰われたところで森に消えたそうだ。

 また襲われてはたまらないと、村長から討伐依頼が出された。

 すぐにでも対応が必要とヴァイツェンが判断し早々の出発となり、今里菜を乗せた馬車は北の森に差し掛かろうとしていた。

 里菜は用意された白いローブを着ている、首まで詰まったロングワンピースにケープが付いていて、シンプルなデザインで動きやすいものだ。

 馬車には一人で乗っており、オーガストが馬で並走し時折声を掛けてくれる。

「リリエナ様、もうすぐ北の森に入ります。揺れが酷くなると思いますが、村までは止まりませんのでご辛抱下さい」

「わかりました」

「リリエナ、森に入れば何があるか分からない。私かオーガストが声を掛けるまで扉を開けてはいけないよ」

「え、殿下?はい、分かりました」

 馬車は隊列の後方にあり、先頭にいたはずのヴァイツェンの声がして驚いた。

 自分の為に後退してくれたのだと思うと胸がほっこりして、こそばゆい。

 リズムの違う蹄の音が遠ざかって行く、ヴァイツェンが先頭に戻ったようだ。

 何があるか分からない……。

 森に入れば討伐対象の魔物や他の魔物がいつ現れるか分からないという事だ、自然と周囲を探ろうと耳を澄ましてしまう。

 聞こえるのは車輪が地面を転がる音、規則正しい蹄の音、鎧が擦れる音、風の音、木々の葉が揺れる音、変な音が無いのでまだ大丈夫ね、多分。

 しばらくそんな時間を過ごしていたが急に馬車が止まった。

「え、もう着いた?オーガストさん?」

「村の近くですが、魔物がいたのかもしれません。確認してまいりますのでリリエナ様はそのままでお待ち下さい」

 馬から降りたのか、オーガストの足音が遠ざかり、すぐに周囲が慌ただしくなった。

「リリエナ様、討伐対象の魔物が出たようです。徒歩で移動しますので扉をお開け下さい」

 里菜が言われた通りに内鍵を開けて外に出ると、騎士二人が残っているだけだった。

「馬はここに置いて移動します。殿下達が魔物を弱らせますので動きが止まったらリリエナ様は祓いの魔法をお願いします。対象より少し離れた場所に待機しますので私から離れないで下さい」

「分かりました」

 オーガストを先導に森の中を歩くと獣のような唸り声と金属音、それにヴァイツェンの声が聞こえた。その開けた場所の全容が見える位置まで来ると、禍々しいオーラを纏う巨大な塊を騎士達が囲んでいた。

 足が何本もあり、その先端には鋭い爪も見える。象ほどの大きさで蜘蛛のような姿だった。

「うっ、気持ち悪い」

「蜘蛛は苦手ですか?もう少し離れておきましょう」

 オーガストが里菜の肩をそっと押し後退させる。

 基本的に動物が好きな里菜だが、昆虫の特に多足類は少々苦手だ。

 しかしそうも言ってられない。

「オーガストさん、大丈夫です。私はやらなければいけませんから」

 目の前で殿下や騎士達が戦っている、蜘蛛は足をばたつかせて騎士を薙ぎ倒そうとするが剣を盾に後退り回避した。魔導師が魔法を使ったのか炎が蜘蛛を包んだが暴れ、発動者を蹴り上げた。

 飛ばされた魔導師は木に衝突し気絶したようだった。怪我をしているかもしれない。

「あっ、癒さなくちゃ」

 里菜は駆け寄り癒しの魔法をかけ、他に怪我人がいないか戦っている騎士達に近づこうとした。

 その時、今まで感じたことがない程腕を強く掴まれ、強引に引っ張られた。

 殆ど引き摺られるように最初の位置まで戻らされた里菜は戸惑い、振り返る。

「オ、オーガストさん!どうして」

「すみません、貴女を守る為です」

 らしくない、と感じたものの彼の責任感の強さとも思え、里菜は視線を騎士達に向けた。

 蜘蛛は所々青い血を流し、足の動きも鈍くなってきているがヴァイツェンからの指示はまだ無い、まだ近づいてはいけないのだろうか。

 遠目にも怪我人が出ているのが確認出来る、早く治してあげないと。

 里菜も責任感から焦っていた、目の前のものしか見ていなかった、だから不意を突かれたのだ。

 カチリ、と音と共に首に違和感を感じ、同時に背後から延びた手で口を塞がれ、お腹に回された腕が里菜の身動きを封じた。

 悲鳴を上げる間も無く、その場から連れ去られようとしていた。

 え、何が起こっているの。後ろを振り向けないがこの腕はオーガストさんだ。

 足掻いてみるがびくともしない、助けを求めて騎士達を見るが当然ながらこちらを見ている者などいない。だがどんどん離れていく。

 何か魔法で知らせられないかと考えたが、魔法は何も発動しなかった。

 私どうしたらいいの!誰か助けて!殿下!

 互いの視界から完全に消える直前、ヴァイツェンが振り向いた。

 その瞳を見開き、こちらに体を向けた瞬間、蜘蛛の足がヴァイツェンを蹴り飛ばし宙に舞ったところで里菜達は完全に姿を消した。

 


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