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逃避行。  作者: DUO APPLE
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時は放課後。

夕日が差して静まり返る学校に、何故か俺のクラスの教室は騒がしさを残していた。

「なんでここの『Can』って『できる』って意味じゃないんですか…」

「先頭に持ってきてるのに加えてIが主語やから…」

凪咲の質問に対して、柊木先生が真摯に答えてるのを見て、教卓にうつ伏せに寝る。

国語教員のくせして、この手の話にはあまりついていけないのだ。

文系より、理数系の方が得意な俺は、出来ないわけではないが、『英語』という科目が好きではない。

できないわけではないが。

「稲久楽先生…」

「ん、何?」

気怠そうに返事をすると、凪咲は僕の方を見て文章を読み始めた。

「Can I lie down too?」

「えぇ…」

「lie down」の意味が分からず、一瞬頭がこんがらがったけれど、すぐに意味を理解できた。

だって、語尾に「too」が付いていたから。

「No, you can't.Because It's my privilege(特権)to do so...」

「おぉ…国語の先生だ…」

「当たり前。」

「けど、私も寝そべりたかったな…」

小言を溢しつつ、もう既に凪咲は机に寝そべっていた。

「こら…」

軽く注意をしようとするけれど、何せ、俺も彼女と同じ状態だ。

何も言えない。

「ふふっ、じゃあ俺も…」

唯一注意できる側の柊木先生も、俺の隣でうつ伏せになる。

何だか、馬鹿みたい。

そう思っているはずなのに、自然と口角が上がってしまった。

「もー…柊木先生まで…誰か来たら怒られますよ?」

「まぁ、その時はその時やろ。」

「あ、柊木先生が先生じゃなくなった…」

笑いながらそう言う凪咲に、柊木先生は、そっと自分の口に人差し指を置いた。

大人なのになんだかズルい。

いや、大人だからこそなのかもしれない。

彼の無邪気さが、余計に心臓に悪いのだ。

暫くこうしているうちに、眠気が襲ってきてうとうとしてしまう。

「稲久楽先生?」

凪咲がこちらを見て、心配そうにすると、俺は体を起こそうとする。

「もう5時過ぎか…職員室戻らな…」

頭の中では分かっているのに、体が少しも動かない。

心が言う、このまま寝てしまいたい、と。

また目を瞑っていると、廊下から足音が聞こえた。

焦って体を起こそうとしたのも束の間、扉が勢いよく開かれたのだ。

驚きの声も上げれず、扉を見ると、そこには平林先生の姿があった。

「稲久楽先生、柊木先生…こんな時間まで何してるんですか?増してや、凪咲ちゃんも…」

笑いながら話す彼女の目には、壮大な怒りを抱えていることを隠しきれていない。

どうしよう、このままではきっと怒られる。

口を開けずに黙っていると、柊木先生が喋り始めた。

「青柳さんに、英語を教えていたんです。」

「それだけじゃ、ここまで時間は過ぎないでしょう。それに、何故稲久楽先生も?」

「凪咲が来る前に、教室で柊木先生と話していたんですよ。その流れで…。こんなに時間が経ってしまったのは、その後に雑談をしていたからです。」

事実を話すけれど、平林先生の疑いの目は晴れない。

気不味そうに平林先生から目を逸らすと、今度は凪咲が話し出した。

「先生達の仰ってる事は本当です。私が話したくて、先生達を引き止めたので、何か非があるなら謝ります。」

「非がある、って訳ではないんやけどね…」

平林先生は、暫く躊躇った後、凪咲に心配そうに見つめて話し出した。

「もっと同じクラスの子とかと話したらどう?きっと…そちらの方が…」

「…なんで、そこまで貴方に決められなきゃいけないんですか。」

凪咲は、平林先生を睨みつけると、口を大きく開いた。

「全員が全員、クラスの子達と楽しく会話できる訳じゃないんですよ。私にとっては…今、稲久楽先生達と話してる方が余っ程楽しい。駄目ですか、これじゃ。」

「けど、クラスの子達との関わりは必要なんよ?今だって、体育祭の準備時期でしょ?」

「平林先生。」

思わず止めに入ると、平林先生は、俺に嫌そうな目を向ける。

分かってる、平林先生の言い分も。

けど、今の彼女に伝えたとて、凪咲の気持ちが変わることはないのだ。

「凪咲も…平林先生が心配してる気持ち、きっと受け取ってくれてます。だからこれ以上は…」

「駄目です、今言わないと…」

「何もわかってないんですよ、平林先生は。」

それだけを言い残すと、凪咲は足早に荷物をまとめて帰っていった。

気不味い空気だけが、俺達の間に残されて、沈黙が続いていく。

凪咲が居なくなったせいか、平林先生も興味を失ったように教室から出ていった。

柊木先生と二人きりになると、俺は教卓にうつ伏せになった。

「稲久楽先生…」

心配そうな彼に甘えて、つい愚痴を零してしまう。

「僕…どうすればよかったんでしょう。」

「…ごめん、俺も分からへん。」

苦しそうにそう呟く柊木先生に、俺の胸まで苦しくなる。

このままじゃ負の連鎖だ。

分かっているのに、何も出来ない自分が悔しくて。

苦しそうな凪咲を観る度、心を痛めて。

自分の無力さに苛つきを覚えるけれど、結局は何も出来ない自分が憎くて、一番嫌いなんだ。

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