表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃避行。  作者: DUO APPLE
1/4

1


Prologue.


「全部のことから逃げられればいいのに。」

曇った表情で、叫ぶかのようにそう言う彼女に、目を大きく見開く。

けれど、これは動揺なんかじゃない。

寧ろ、求めていたはずの言葉。

そんな彼女のたったその一言で、僕はおかしくなってしまった。

小刻みに震える彼女の手を迷いなく取って、まるでこうするのが当たり前のように、言葉を発した。

「なら、逃げようよ。」

これは、面倒くさがりな僕と、全てから逃げてしまいたい彼女の逃避行だ。

何時だって、僕の人生はつまらない。

ほぼレール通りの人生、サボれる時にサボって遊びまくる。

今だって、少し前に取った教員免許に縋って、公務員と言った安定した職を選んでいる。

授業だって早いところ確立させて、楽した日々を送りたいのに…

「教師って、なった後が大変ですよね…」

「あはは…そうやね。」

こんなことなら教師を選ぶんじゃなかった。

市役所の役員とかになっていれば、もう少し楽して働けたんだろうな。

「でもさ、稲久楽(いねくら)先生めっちゃ頑張ってるよ。やから、少しだけでも休みや。」

「ありがとうございます。」

柊木先生は、僕にカフェオレを差し出した後、ニコッと微笑んで自分の席へと着席した。

何であの人は、キャリアを十年も積んでないで、あそこまで安定して働けるんだろう…

謎で仕方ないけど、頑張って彼の背中を追えるように、とりあえず今は仕事に集中しないとな。

そうすればきっと楽に…

「忙しいところごめんなさい、稲久楽先生。ちょっといいですか?」

パソコンを開いたと同時に、後ろから声を掛けられてびっくりする。

後ろを振り向くと、見えたのは平林先生。

何かやらかしたかな…なんて思いながら、元気よく返事をして、彼女の後ろを追いかけた。


――


「それで…話って何でしょうか?」

「んーと、青柳のことです。」

「青柳……あぁ、凪咲のことですか。」

青柳(あおやぎ)凪咲(なぎさ)…。僕によく話に来てくれる生徒だ。

話の内容は様々。

ゲームの話だったり、本の話だったり。

何かと趣味の合うことが多いので、たまに俺の方からも話し掛けたりしている。

「はい。最近、彼女が学校に来る頻度が減ってきているのを知ってますか?理由を知りたいんですが、私が聞いても、青柳は『何もない、心配しないでくれ』の一点張りで…青柳と仲の良い稲久楽先生なら何か知ってるんじゃないかな…って。」

「僕も、特に何も聞いてないですね。」

「そうですか…凪咲ちゃんって、基本学校では独りじゃないですか。だから、よく話をしている稲久楽先生なら、何か知ってると思ったんですけどね…」

「うーん…あっ、良ければ聞いときましょうか?」

「ほんとですか?そうしてくれると助かります!」

「わかりました、さらっと聞いておきますね。」

「はい、お願いします!」

先程の不安な表情に変わり、嬉しそうに微笑む平林先生。

顔には出さないけど、また面倒くさい仕事を増やしてしまった嫌悪感に心が包まれた。


――


次の日、凪咲のクラスでの授業後に、彼女に話し掛けに行ってみた。

「凪咲、つい最近解禁された、あのゲームのイベントマップ見た?」

最初は普段通りの会話を心掛ける。そっから徐々に、だ。

「見ました!めちゃくちゃ綺麗でしたよね!あんなところを探索できたら、めっちゃ楽しいんやろうなぁ…」

「分かる、心浄化させるよなぁ…」

「えへへ…」

「…ところで、凪咲。ちょっと聞きたいことがあるんやけd… 」

「あっ、次の授業音楽なんで、もう行きますね!」

「えっ…ああ…行ってらっしゃい…?」

例の話題に触れてみようとした瞬間、凪咲は俺を避けて音楽室へと向かっていった。

いや、避けられたのは偶然…?

分かんないけど、とりあえずもう1回…



「凪咲!昨日授業で配ったプリントのことなんやけど…」

「すみません、今恋春に呼ばれてるんで!」



「凪咲、柊木先生が…」

「直接、柊木先生のところ行ってきますね!」



「凪咲!」

「…ニコッ」

「さ、避けられた…?」


――


「はぁ…」

「お疲れ様。」

「柊木先生…ありがとうございます。」

この前と同じく、柊木先生はカフェオレを差し出して俺に微笑んでくれた。

「授業進行とか、行き詰まってるん?」

「あ、いや…授業は思ったよりうまく進んでるんですけど…」

「じゃあ…やっぱり、青柳さんのことかな?」

「…当たりです。」

「そっか。」

柊木先生は、急に立ち上がって僕の手を取った。

「こういうときは、息抜き!渡り廊下行こうか」

「…!はい。」


――


久しぶりに立ち止まった渡り廊下(このばしょ)は、いつだって、心を和ませてくれる。

心地よく靡く風に、季節を知られてくれる木々たち。

一瞬だけでも、嫌なことを忘れてくれるこの場所が、僕は結構好きだ。

「どう?ちょっとは落ち着く?」

「はい、すっごく。やっぱり、僕、この場所好きだなぁ。」

「ふふっ。良かった。…ところで、青柳さん、どうしたんやろうね?ずっと絵描いてて、大人しい子なんだろうなと思ってたけど、やっぱり、一人じゃ寂しかったんかな。」

柊木先生が急に話し始めると、僕も聞く耳を持って真剣な顔をする。

「一人は…多分、嫌いじゃないと思います。案外、凪咲は一人を楽しんでますよ。」

一人でいる時の凪咲は、たまに少し哀しい顔をするけど、基本苦ではなさそうだ。

絵を描くことだって、好きそうだし。

「それに、誰かと話したければ、クラスを抜け出して紗菜(さな)のところへ行くでしょうし。」

紗菜とは、おそらく、凪咲の一番仲の良い友人。

昼休みに、一緒にいるところをほぼ毎日見かける。

「それはそうか…でも、何で?」

「そこです。僕もそこが分かんないんです。」

彼女は、基本、何事も器用にこなせてると思う。

友達がいないだけで、人との接し方、勉強、運動も、人並み…あるいは人並み以上に出来てる。

なのに、何が嫌で、逃げているんだろう。

「話してほしいです、僕は。」

「うん、そうやね。どうしたら話してもらえるんやろう。」

きっと、今までの方法じゃ駄目だ。休み時間に話し掛けても、何かと理由をつけて逃げられるだろうし。

「…逃れなくしたら、いいんちゃう?」

「それ思いました。でも、どうやって…」

「うーん…あっ。個人面談のあと…とか?」

「えっ。」

個人面談…説明は省くけど、この学校では、テスト前などに生徒と2人になって、放課後に教室で話をする。

「稲久楽先生のクラス、生徒に負担掛けたくないからって、テスト期間より大分前だけど、もう終わるよな?」

「は…はい。」

「なら、稲久楽先生も空き時間あるだろうし…凪咲を捕まえることができるんじゃない?」

「…確かに!」

自分ではなかった発想に、思わず、目を大きくして驚いた。

早速試してみようと思い、平林先生に話し掛ける準備をした。

「相談乗ってくれてありがとうございます、頑張ってみます!」

「いーえ。頑張ってね。」

「はい!」

勢いよく走り出すと、職員室前の廊下で、佐々木先生に声を掛けられる。

「おい、廊下は走るなよ。」

「ごめんなさい!」

深呼吸をすると、速歩きをして、再び職員室を目指しだした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ