21話 門出の日②
保育園から帰って来たジェルミさんと値段のバーコードシールを貼る。
由美さんは、朝ご飯を家族一緒に食べないから息子さんに何をしてるか、探りを入れられたらしい。
今のところバレてないからもっと不審に思われる前に朝食時間の7:30には家に帰るそうな。お疲れさま。由美さん。
それを聞いたジェルミさんが眉をひそめる。
「この街の人間はどこかイビツです。……まあ、だからワタシが働けてるんですけどね。料理したり、簡単な仕事で働くことのどこが悪いんですカネ!」
「はいはい、ジェルミさん。コンテナにお弁当箱詰めて」
「……たっくんは、ブレませんね。いい子です」
お弁当箱をコンテナに入れて中庭まで乗って来たワゴン車の後部座席をフルフラットにして、コンテナを一つずつ入れる。一つのコンテナに48個のお弁当が入ってコンテナ5つ分に収まった。折り畳める台車を後部座席に入れて医大に向け、出発だ!
ジェルミさんのポヨポヨボディーがドライバーズシートに収まると、この車狭かったっけ?といつも思う。
僕は戸締まりをしてから助手席に乗り込んだ。
医大は、割りと家から近い。
10分程のドライブで裏門に到着、通行証を警備員さんに見せると青い光の懐中電灯を通行証に当てていた。すると大学のエンブレムが浮かび上がり、警備員さんは僕たちの車を通してくれた。
業者さんの搬入口から、台車にコンテナ5個を重ねて移動。大学内に入る時と直売所に着いたときに通行証を確認された。
直売所の従業員さんが、僕のお弁当を置く場所に案内してくれた。
この直売所、フラワーガーデンのお惣菜売り場とお弁当売り場を合わせたくらいある。圧巻の広さとオシャレさ。
その隅っこに僕のお弁当スペースがあった。吉川さん場所知らなかったんだろうな。
知ってたら、裏から手を回しそう。ふふふ。
お弁当をジェルミさんと並べていると、隣り合わせのスペースの人が台車を転がしてやって来て5000円の高級お弁当を並べ始めた。
そして並べ終わると僕たちの作ったお弁当を見て1種類づつ、お買い上げされた。
馬鹿にするどころか、どこか嬉しそうだった。
「ありがとうございます!」
「また買うよ!頑張ってね!」
そうか!派遣社員さん達は家庭料理に飢えてるのかも!
その推測は当たっていて品出しに来た人達のほとんどが、肉じゃが弁当や、のり弁、シャケ弁などのあっさりした和食お弁当を買って行った。並べたので、従業員さんに声を掛けるとチェックに来た。
「サンドイッチが要冷蔵ですから、サンドイッチとおにぎりのお弁当は、冷蔵ケース行きですね。こちらです」
コンテナに再び20個余りのお弁当を入れ、レジカウンターの横にあるサラダ、サンドイッチのショーケースに並べられる。一つだけお弁当で悪目立ちしている。
これはちょっと考えた方がいいかも。
おにぎり、冷えたら固くなるよな?サンドイッチと分けた方がいいかも。
「15:00には直売所を閉めますので、それまでに残ったお弁当を取りに来て下さいね」
「はい、ありがとうございます」
医大からの帰りにマルチパックに寄ってサンドイッチ用のパックと、おにぎり用のお弁当箱を購入した。とりあえず200個づつ。
営業許可証のコピーを持って来たので0.1割、割引してもらえた!やった!
業○用スーパーと隣接する直売所により、安い物を仕入れる。キュウリとダイコンが安かったので、大量に購入した。
魚はアジをまとめて買った。エビフライのエビは冷凍物のブラックタイガーを4箱買う。
1度帰宅して僕が魚介類の下処理をしている内に、ジェルミさんが由美さんと匡史さんを連れてお肉とお米の買い物に行ってくれる。
助かる。アジを3枚下ろしにして皮を剥ぎ、細かい骨を抜くのが、慣れないから時間がかかるのだ。
由美さんが手伝おうかと、言ってくれたけど由美さんがいないと何も出来ない僕ではダメだ。
由美さんも息子さんにバレたら来られなくなるだろう。
毛抜きでアジの小骨を取りながら、ため息をつく僕だった。
※※※※※医大のお昼休み
「吉川!いつまで弁当買わない気だよ!どれでもいいだろ!」
「今日から狩野の弟がお弁当を出品してるはずなんだ。安い弁当を探してくれ」
「ああ、あっちの窓際にメッセージ付きの安い弁当売ってたけど、すごい人気だったからもう無いかもな」
「チッ、見てくる!」
「あ、吉川~!」
その場所にはお弁当がすでにもうなかった。ガッカリしながら、本格的中華のお弁当を何となく買い物してると、サラダのカップに埋もれて見覚えのある三角の海苔おにぎりが!買ってみるとほんわかメッセージの熨斗紙が、ついている。
【元気出して】
「ふふ、癒されるな」
中華のお弁当は後回しにして、おにぎりの弁当を開けるとサンドイッチとから揚げが2つとポテトサラダが入っていた。温かいお茶を買い、おにぎりを頬ばる。おいしい!今日の具は昆布の佃煮だった。もう一つは鮭。
冷えて固くなってるのが、惜しい。
サンドイッチは良いけど。洸くんに今度会ったときに言おう。
※※※※※とある医大生
ああ、今日も課題が山のように出た。毎日毎日キチガイになるくらいこなしてるのに!
弁当屋の配達員が今日もお弁当を大学内のお弁当売り場に置いている。
お弁当選んでリフレッシュするか。
しかし、どれもこれも食べ慣れた店の弁当で食指が動かない。ん?あの隅っこにある弁当何か書いてある?
好奇心に駆られて早足でその隅っこの弁当を積んである、場所に着くと、そこはあふれるような応援のメッセージが熨斗紙に書かれていた。
【頑張ってるね!知ってるから】
何年かぶりの涙がこぼれる。おかずもロクに見ずそのメッセージ付きお弁当を買うと1500円という信じられない値段だった。
から揚げ弁当は、から揚げというより、フライドチキンに近いスパイシーでそれでいて懐かしいような味付けで箸休めの副菜とご飯と交互に食べた。あっという間に食べ終えると、包装してあるマフィンを出して食べた。
「食べ慣れない物ばかりだったけど、美味しかった。ごちそうさま」
熨斗紙を写メで撮って医大内のSMSという電子伝言板に画像とコメントをアップする。
【俺氏、お弁当の包み紙に励まされる】
反響は大きかった。皆、見知らぬ誰かに励まされたいのだ!夜食にお弁当を買って行こうかと思っていたら、メッセージ付きお弁当は完売していた。
「また、明日買おう!」
お弁当売り場のスタッフに朝、何時くらいに、メッセージ付きお弁当が来るのか聞いて取り置きを頼んだ。既に先客が何十人かいるようで、本格的な予約用紙に書いていた。
「メッセージは何になさいますか?」
「おまかせで、頼む!」
※※※※※お昼過ぎの狩野家
「はい、……はい、では、10時までに納品します!連絡ありがとうございます!」
通話を切って呆然とする。
「200個じゃ足りないって、マジか」
医大内の直売所【グルメ市場】から連絡があった。買ったお弁当の奪い合いが勃発して騒ぎを納めるのに、大変だったからお弁当をもっと増やしてほしいと、学生達から直訴があったらしい。
明日はラムレーズンのパウンドケーキで、小さなパティスリーで使われるミキサーを買って、早速使っている。
順調にパウンドケーキを焼いているとジェルミさんと由美さんと匡史さんが買い物から帰って来た。
「仕事場の冷蔵庫に入れておいたから!」
「ありがとう由美さん。助かります!あのね、大学から連絡があって、お弁当もっと増やしてほしいって」
「やった!でも、幾つ増やす?」
「…ですよね?」




