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『「どういうことか説明なさい。」
「・・・」
「相手は誰なの?」
「・・・」
「大きなお腹で卒業式に出るつもり?」
「・・・」
「沙羅、私は怒っているわけじゃないの。あなたの気持ちを知りたいだけ。あなたが辛い思いをしているのが辛いの。」
「・・ごめんなさい。大丈夫。私、子供が欲しいの。大丈夫だから。」』
嘘だ。フィクションに違いない。小説だ。小夜が妊娠しているはずはない。これは映画だ。それに私の話だと決まったわけじゃない。新作のプロモーションの一環かもしれないのだ。
最初の妻がよく言っていた。男は絶対に責任を取りたくない、と。小さなことからすべてなんでもすぐに自分は悪くないと言う。最初の妻の持論だ。いつも怒られていた。煙草の火を消さずにいることを注意されると俺じゃないよと即座に言い返し、何倍にもなった妻の小言の散弾銃に倒れた。
一度ならず繰り返されたが息絶えることはない。男の本性は簡単には変わらない。しかし煙草の火どころの話ではない。私はそんなに無責任な男ではない。小夜からは返事がなかった。振られたのだ。振られたと思った。携帯電話などない時代だ。あまり責めないで欲しい。自分で十分責めている。会いに行くことはできたのだから。
『「よく頑張ったわね。沙羅にそっくりの凛々しい眉毛の女の子よ。」
「ありがとう、生まれてきてくれてありがとう。」
「名前は決めたの?」
「うん、マリア様のまりあにしたいの。いい?お母様が反対なら考えるけど。」
「反対なんてしませんよ。この子はきっとみんなを幸せにしてくれるわ。」』
大樹は戻って来なかったし、子供のことも知らない。それなのに沙羅はずっと大樹を愛していた。カトリックだから中絶できなかったのか。これはフィクションだ。小夜は本当に子供を産んだのか。私は無言で絶叫した。館内に誰にも聞こえない私の狂気の声が響く。
成長した娘と40くらいになった沙羅の笑顔を背景にスタッフロールが流れ始め、背景は黒に浸食される。漢字の羅列が呪文のようだ。呪いがかかったのか私の足は血が通わず動かない。種明かしはないのか。混乱した脳細胞を制御できない。




