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Sayo小夜という名が不意を突いた。小夜。


頬を叩かれて目が覚めた。気を失った私を起こしてくれた小夜。この映画の主人公沙羅と同じくらいの年頃だった。記憶が頭の中の映写機を回す。


栄養失調の私は小夜の家で休養を取らせてもらった。脱水症状と過労で二日は起きられなかった。小夜の父親は彼女が幼い時に亡くなっていて母親と二人で暮らしていた。教会の管理をしていたと思う。


小夜は沙羅なのか?そんなことがあるはずもない。頭の映像を一時停止して映画に集中しよう。デジャブにしては長過ぎる。海馬のいたずらか。どれが映画で何が思い出か錯綜している。50になるにはまだ半年以上あるというのに年を取ったということなのか。


『「沙羅、お父様の寝間着が箪笥の一番下に入っているから持ってきて。」

「はい。」

「すみません。もう大丈夫です。」

「大丈夫そうには見えないわよ。よかったらゆっくり休んでらっしゃい。何も気兼ねすることないから。これも天主様のお計らいです。」

「はあ、ありがとうございます。」

「はい、これどうぞ、お父様のだけど。」

「あ、ありがとう。」

「おやすみなさい。」

「おやすみなさい。」』


サッカー生地の藍色の寝間着。白い細い線が入っていた。私が借りた寝間着だ。覚えているはずもない昔の一コマが何故か生地の凹凸になって蘇る。


気味が悪くなってきた。ホセとフアンが結託して何か企んでいるのか。悪ふざけにもほどがある。冗談にしては大掛かりな仕掛けだ。一体なぜそんなことをするのだ。


沙羅の父親は生きているのだろう。小夜という名が飛び交って私の胸に留まった。名前は文字だけでなくその周りに血肉をつけている。私にはただの文字ではない。


『「ご馳走様でした。ありがとうございます。お腹一杯になりました。」

「よかったわ。お口にあったかしら。そうだ、まだお名前も伺っていなかったわね。学生さんなの?どこからいらしたの?」

「お母様、そんなにあれこれ伺っては失礼だわ。」

「いいえ、いいですよ。何も隠すこともないし、大した話もないです。僕は木暮大樹と言います。東京から来ました。大学二年です。夏休みなので。」

「そう、じゃあゆっくりしていってください。沙羅に島を案内させましょう。半日もあれば島全部を見終わってしまうけど。」

「ありがとうございます。でもこんなにしていただいて。」

「大丈夫です。私も夏休みだから。時間あるし・・」

「大樹さん、これも天主様のお導きです。遠慮なさらないで。」』


倒れたのは日本人の青年だ。スペイン人ではない。だから私のはずがない。長い間放置していた欠片には時間の砂が日ごとに覆いかぶさって目視できなくなっていた。気にも留めなくなっていた。


しかし強い海風が吹けば砂は飛び去りその姿をまた鮮明に表す。澄んだ思い出をスクリーンで共有するなんて考えられない。私だけのものだ。大衆に晒して変色させ濁らせたくない。大樹が日本人でひとまず安心した。



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