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『「母から言付かってまいりました。奈留島の松瀬です。吉野神父様はいらっしゃいますでしょうか。」

「あぁ、沙羅ちゃん?大きくなってわからなかったよ。あの時は五歳だったもんねぇ。僕が吉野だけど覚えていないよね。」

「はい、すみません。」

「いやいや、いいんだよ。まだ小さかったから。今は高校生?」

「はい三年です。もう卒業です。」

「そうか、早いなあ。卒業したらどうするの?」

「母と天主様の教会をお守りするつもりです。」

「そうなんか、もう決めたようだね。」

「はい、あの・・母から・・天主様の額というのは・・・」』


ラウラの手が私の手を摘まみ上げてお気に入りのロロピアーナに擦り付ける。何をするのか。汗ばんだ私の手のひらが嫌われたのだ。本体が嫌われる前に対処する。素早く映画から抜け出してもうすぐ50のアウグスト・ヘルナンデスに戻る。よき夫は足を組み替えて態勢を変え座席から静かに映画を観る。


このフェリーも道路も山も海も灯台も空も私がいたときと同じだ。油断すると映像の中に引きずり込まれる。そして頭の中の自主製作の映像が寸分の違いなく重なる。


『「大丈夫ですか?しっかりして!聞こえますか?」

「・・・うん・・・たぶん大丈夫・・・たぶん・・・」

「歩けますか?私の家がすぐそこだから、そこまで頑張って。」

「いや、このままでいいから・・・」

「ここにいたら駄目です。潮が満ちてくるから。今日は満月だし。」

「この辺は狼男でも出るの?」

「違います。もう暗くなってきたし。海は危ないから。」』


私も旅の途中で倒れたことがあった。遠い記憶が白い砂にまみれて上映される。沙羅が助けたこの青年のように波打ち際で気を失ってしまったのだ。若さに過信はつきもので、旅行費用を抑えるためにろくに食べもせず、自転車を漕ぎ続け、暑いと海に入っていた。栄養失調と疲労のせいだろう。地元の人に助けられた思い出がある。


日本人は恥ずかしがり屋で人見知りだと聞いていたが、島の人たちはちょっと違っていた。外国人の私が珍しいのか興味津々で近づいてくる人もいた。押し並べてみな優しかった。そして明るく陽気で面白い人が多かった。言葉が通じないことが足枷にはならずおもちゃになった。私を楽しませようとしてくれていたのかもしれない。日本人にエンターテインメント性があるとは予想していなかった。島の晴れた気候が作り出した性格だろう。


しかし隠れキリシタンの歴史に興味を持って訪れた私には解せない部分もあった。彼らの笑顔は仮面なのだろうか。この疑問が終始付き纏っていた。



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