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最終回

タクシーを降りるともう夜が始まっていた。突き出た岬の灯台の手前に少し高くなった丘がある。月の光でぼんやりと光る真っ白い十字架がぽつんと立って海を見ている。私は驚かさないようにゆっくりと近づいて行く。Naruse Sayoと掘られた墓石は静かにただ静かに波の音を聞いている。


「小夜、遅くなってごめん。」


夜の空気を壊さないように傍らに座った。巻かれたゼンマイがいつまでももたないように私の力が小夜の墓の前で細くなって止まった。力のない私を取り残して思考だけが大騒ぎしている。


冬休みに私が再びここに来ていたら、小夜はまだ生きていたかもしれない。私の一つの選択であれからの30年がどう動いて形を成していったのかと考える。これを後悔というのか、無駄な妄想というべきか。


この世は決められているのだろうか。私が小夜の一生を壊してしまったのだろうか。つまらない見栄を張って恰好をつけるために会いに来なかった私が悪いのだろうか。忘れようと思い出のラベルを張り付けてしまいこんだ私が無情なのか。私の罪なのか。


小夜を愛していた。その事実は傷つくことも濁ることも消えることもない。今ここで差し出して見せることもできる。そして墓前に供えても無意味なこともわかっている。


岬へ走って行く前に小夜に差し出さなければ意味はない。この空間のまま25年前の時間がここにあったら、小夜の足を止められたかもしれない。小夜と見た同じ夜空の下で堂々巡りの想いを飽くことなく繰り返す。遅れても私は小夜の愛を受け取れたのだろうか。


私には抱えきれないほど小夜の愛は大きく深い。私は小夜の愛に値するほどの愛を持っているのだろうか。小夜の愛は透き通り重く密で気高い。私は小夜に愛されたことを誇れるほどの男なのだろうか。


私にはただ愛することしかできない。手遅れの愛を持って生きていく。小夜と見た星は変わらず私を頭上から見下ろしている。私と小夜の幾通りものシナリオを見せてくれもせず黙って光り続けている。


 過ぎた跡を振り返らなければ、どういう柄が織り上げられているのかわからない。わかったところでもう織り直すこともできない。その上、私が見ていた模様はまやかしだった。今本当の模様を見せられてどうすることもできずに呆然と見ていることしかできない。


初めから私には何の力もなかったのだ。私は自分の足で歩いてきたように傲慢にも思っていただけだ。自分の思い込みで作り上げた世界を自力で歩いている幻想をみていただけだ。自分がただのちっぽけな駒だと気づかずに。歩いてすらいないことに気づきもせずに。


手紙の束を十字架の前に置き小夜を見つめる。私の愛した小夜が仮面を外し微笑みかける。30年前の光が今やっと地上に届いた。私は目の前にある30年前の光を見ている。遠い恒星の光。小夜の光は30年かけて私に眩い輝きを放つ。


この世に確かなことなんてない。

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