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「恵子さんを責めないでやって欲しいんだ。彼女ももう十分苦しんでいるから。」


目の前の紙の束に愕然とした。束ねられた封書には私の名前がある。私が送った手紙の束だ。そして小夜が私に送った手紙。30通以上はあるだろうか。束ねられた手紙はどれも封を切っていない。


「夫もなくして、小夜までいなくなるのは耐えられなかったんだろう。許してやってくれ。小夜だけが頼りだったから、あなたのところに行かせたくなかったんだろう。恵子さんも鳴瀬が亡くなって心を病んでしまったから。どうか許してあげてください。」


片山は私の目を見ずに両手を両ひざに置いてしばらく頭を下げた。


「え・・・どういうことですか?これ僕が送った手紙です。それに僕宛ての小夜の手紙じゃないですか。僕は小夜の手紙を一通も受け取ってませんし・・・小夜も僕の手紙を読んでいないということですか?」

「すまない。どうか許してやってください。」


片山は一度上げた白髪頭をまた深々と下げた。私の耳に片山の声がかすかに届いていた。虚空に囲まれて耳をつんざく沈黙が片山の声を遮る。


「小夜が亡くなった後、恵子さんは話すこともできない状態になってしまって、私たち夫婦が鳴瀬の家の片づけをしたんです。その時に恵子さんの箪笥から手紙の束が見つかって。小夜のノートの内容がどういうことかよくわかりました。小夜はあなたに何度も手紙を送り、あなたからの手紙を待っていたんです。返事がないから諦めたようでしたが、心のどこかでいつもあなたが自分を迎えに来てくれるんじゃないかと・・・あなたのことを死ぬまで思っていたんですよ。」


 私と小夜の運命がこんなにも簡単に軌道を変えられていた。人生は行く先を間違えることがあるのか。神様は小夜が死んだ後に私をこの島に連れてきたのか。なぜ30年も経ってから。どうしてあの時に私をこの島に連れてこなかったのか。残酷な人生の仕打ちを恨むことしかできない。


「小夜が亡くなる半年ほど前に吉田君と縁談が持ち上がって、小夜にとってもいい話だとみんな思いましたよ。吉田神父は誠実だし信者からも頼られる存在で、まりあもなついていたしね。恵子さんも亡くなった私の妻も喜んで進めようとしていたんですよ。まさかそれが小夜を追い詰めてしまったとは誰も気づきませんでした。小夜の中にいるあなたの存在を誰一人知りませんから。小夜の本心を知る者はおらんかったんです。そろそろ結納の日取りを決めんといかんという頃でした。小夜が私に箱を預けに来たのは。」


 何も私の空洞からは出てこなかった。神を呪う不信心な情熱さえ冷え切って固まっている。人間の形をした空っぽの塊は片山の続く話を抵抗できずに聞いている。力というものが体のどこにもない。抗うことも防御することもできず片山の言葉に被弾し続ける。


「小夜はあなたに出会ってから一生あなたを愛することができて幸せだったと最後に書いています。それだけは忘れないでいてやってください。」


 私は涙が零れるのを構わなかった。もうどう見られてもどう思われてもよい。愛されることが苦しいと初めて知った。そして悲しい。私が悪いのか。私はまた責任の所在を探して逃れようとしているのか。


私が小夜と出会い愛したことは嘘ではない。後悔もなかった。これまでは。私が愛したことが罪になるのか。私の愛が小夜を死に引きずり込んだのか。私の愛した小夜は命懸けで私を愛してくれていた。


終わった恋として記憶の奥深くにしまっておいた想いが血を滴らせて差し出される。瑞々しく鼓動している。蘇った想いはもう同じ形状ではいられない。新たな衣装を着せて違う場所にしまわなければならない。


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