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考えの纏まらないまま私は施設を出て、脇に併設されたカフェに入っていった。脳細胞が高速回転でデータを解析しているのに何も浮かばない。考えすぎて頭が空白になっている。
エスプレッソが飲みたい。客は一人もいないのに考えなしに狭い店内の直射日光に晒されたテーブルにつく。しかし眩しくも暑くもない。厨房から出てきたピンクのエプロンをした中年の女性にあるわけのないエスプレッソを頼んでみる。
「コーヒーでいいですか?」
挑戦は失敗に終わったがカフェインがあればいい。言葉が通じただけで合格だ。
「どこからいらしたんですか?」
カフェの店員は外国人観光客に慣れているらしく片言の英語で話しかけてきた。
「スペインから来ました。」
データ解析に行き詰った脳には違う刺激が薬になるかもしれない。私は会話を楽しむことにした。愛想よく返事する。
「まあ、遠くから。映画の影響ですか?」
「え?」
「映画を観た人たちが実際の舞台になったところに来られるんですよ。日本中から。最近は外国からもいらっしゃいますよ。お客さんも観られたんじゃないんですか?そうでなきゃこんな辺鄙なところ誰も来られんですよ。」
店員の高らかな笑い声が天井にぶつかった。
「ああ、ええ、そうなんですよ。映画の舞台を実際に見ようと思って来たんです。宿の人に聞いても教会の場所がわからなくて、やっと昨日見つけました。」
「まあ、それはご愁傷様でした。宿の人って年寄りでしょう?年寄りは外国語を知らんですから。」
私はこの陽気な中年の女性に小夜のことを聞いてみることにした。狭い島なら何か知っているかもしれない。
「原作者の方が亡くなられた原因ってご存じですか?映画では生きていたから、昨日亡くなっていると知って驚きました。」
女性の瞬きが多くなり話しながら厨房に消えていった。
「ああ、そうですね、映画は嘘ですから。フィクションっちゅうやつですわ。」
コーヒーカップを載せたトレイを持って出てくると私の前に置いて話を続けた。
「病気ですよ、病気。なんていう病気かは知らないですけど。若かったのにね・・・あの時は私もまだ高校生でしたよ。」
赤の他人が病気で死んだ時のことをなぜ覚えているのだろう。有名人でもないのに。小さい島の情報は全員が共有しているのだろうか。私にはさらに情報が必要になった。
「詳しいことを伺える方はいないでしょうかね?」
「詳しいことって?」
「あの・・・原作者のこととか・・・」
「そうねえ、鳴瀬さんとこは本島から越して来られたから、この島に親戚はおられんし・・鳴瀬のおばさんはもうずっと入院しているしねぇ・・まりあちゃんは小さい時のことでもう覚えていないだろうし・・それにフィクションだから、嘘の話ですよ。嘘、嘘・・・」
何かを急に思い出したようにフィクションと言い出したようにみえた。隠さなければならない何かがあるのだろうか。私の疑いすぎだろうか。




