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「行きましょ。」


ラウラが立ち上がり動かない私を見下ろす。立ち上がらなければいけない。呼吸を整えて下半身に力を入れる。


「ああ、行こう。」

「どうしたの?大丈夫?」


私の様子はおかしいのだろうか。ラウラにどう映っているのかわからない。ここで慌ててはいけない。余計な詮索を妻にちらつかせることになる。何もやましいことがないのに自ら悪事を作り上げてはいけない。私は口角を上げる筋肉に指令を出す。


「ああ、大丈夫だよ。あまり面白くなかったな。」


なぜ嘘をつくのか自分でもわからない。こうやって冤罪が生まれるのか。自白など当てにならない。


「そう?私は面白かったわ。女性向けの映画なんじゃない。・・・さっきダフネを見かけたのよ。まだいるかしら?」

「ロビーに行けばいるだろう。」


話題を変えてくれたことに感謝した。私は誰にも日本に行った若い時のことを話したことがない。この映画の話はきっともうこの先二人の会話には出てこないだろう。ラウラの細い腰に手を当ててロビーに向かう。


まずはフアンを問い詰めよう。奴が何か企んでいるに違いない。雑踏と化したロビーの中央にフアンがシャンパン片手に立っている。問い詰めたいがいきなり捲し立てたら奴の罠にみすみすはまるようなものだ。ここは役者になろう。


「やあ、フアン久しぶり。どうしてた?元気だった?」

「アウグスト、元気か?」


フアンの演技はみごとに自然だ。


「ああ、何とかやってるよ。」

「新作完成したって聞いたよ。」

「そうなんだ、今少しのんびりしているよ。」

「新作の映画化は無理だろう?大作らしいじゃないか。」

「四年半かかったよ。」

「恋愛物の脚本書かないか?いい企画があるんだよ。」

「そのうちな。考えておくよ。」


演技がうまい。なぜ今見た映画の話を始めないのだ。きっとこちらから触れるのを待っているに違いない。墓穴を掘らないように進めなくてはならない。


「この映画結構いい映画だったな。」

「よかったよ、アウグストにそう言ってもらえれば安心だ。正直俺の好みじゃないからな。」


牽制して私の出方を伺っているのか。


「そうか、お前の好きそうな映画だと思ったけどな。」

「いや、よくある話だろう。日本でヒットしたから買い付けることにしたんだけど、もう俺も年かもな。若い連中はいいって言っているよ。若年層にうければ取り敢えず利益は出るからな。」

「じゃあ、俺はまだ若いってことだな。」

「はは、そういうこと。」


フアンには何の魂胆もないのか。この映画が私の話だと知らないのか。鎌をかけてみる。


「この映画のことはよく知らないのか?」

「ある程度は知っているよ。仕事だから。」

「原作は小説なんだろう?」

「ああ、小説がベストセラーになって映画になったっていうお決まりのコースだよ。」

「原作者は生きているのか?」

「どうだったかなあ。実際そんなに関わってないんだ。若いのに任せたからそこまで知らないよ。」


本当に何も知らないのか?諦めるか。


「そうか、じゃあ、奥方によろしく。また飲みに来いよ。」

「そうだ、オドネル通りにいいバーができたんだよ。今度一緒にどう?」


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