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シャンテル王女は捨てられない〜虐げられてきた王女はルベリオ王国のために奔走する〜  作者: 大月 津美姫
2章

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43 エドマンド皇子の笑顔

 店が並ぶ通りをエドマンドに手を引かれながら、シャンテルは歩いていく。

 何やら、キョロキョロと探している様子のエドマンドに、彼には目的のお店があるのだとシャンテルは知る。


 何を探しているのかしら?


 疑問に思っていると、目的の場所を見つけたらしい。躊躇うことなくエドマンドは店に入った。


 入ったお店はカフェだった。流行っているらしく、テーブルは満席に近かい。店内は落ち着いた雰囲気で、庶民の娘からお金持ちのご令嬢まで。年齢も身分も幅広い客層がターゲットになっていた。


 カフェに初めて入ったシャンテルにとっては全てが新鮮だった。複数並んだテーブルは少し離れて配置されており、装いの違った別の客が座っている。少しお茶会にも似ているが、ここでは貴族のようなマナーなど存在しない。その分、客は気楽にお茶やデザートを楽しんでいるようだ。飲み物とデザートをお供にして、会話を楽しむ客の話し声があちこちから聞こえてくる。


 エドマンドが出迎えてくれた店員と言葉を交わすと、シャンテルたちは二人席に案内された。サリーたちはそのすぐ隣の四人席に付く。

 物珍しい光景にシャンテルが店内を見回していると、エドマンドが話しかけてくる。


「シャンテルはこういった店は初めてか?」

「は、はい。……エドはあるのですか?」

「あぁ。祖国で何度か城を抜け出して、気になる店によく入っていったものだ」


 それを聞いてクレイグはさぞかし苦労したのだろうと、シャンテルは苦笑する。


 店員がメニューを運んできたので目を通す。そこには美味しそうなデザートの名前が並んでいて、その種類の多さにシャンテルは目を輝かせた。


 イチゴとベリーのスコーン、エッグタルトにワッフル、スポンジケーキのシリーズにはイチゴ、オレンジ、レモン等々、種類も豊富だった。

 デザートの名前の下には、簡単にどんなフルーツが使われているか紹介文も書かれている。


「こんなにたくさん……凄いわ」

「好きなものを選ぶといい」

「ふふっ、迷ってしまいますね」

「気に入ったか?」

「えぇ!」


 シャンテルが頷いて顔を上げると、驚いた顔のエドマンドと目があった。ハッとするシャンテルだったけれど、一足遅く、「ふ」とエドマンドがまた微笑んだ。


「そんなに喜んでもらえるとはな」

「う……」


 羞恥で一瞬言葉に詰まる。確かにシャンテルは嬉しかった。だけど、エドマンドに“そんなに”と言わせるほど、今の自分は顔が緩んでいるのかと思うと恥ずかしくて仕方がない。


「……どうしてこのお店を?」


 早く話題を変えようとしてエドマンドに問いかけると、「シャンテル王女と初めて顔を会わせたときのことを覚えているか?」と逆に尋ね返された。


 それは夜会の為に各国から王族を迎え入れていた頃のことだ。エドマンドが王女たちと話したいから、とお茶会の席を希望してきた。


「あの時は、うちの料理人にデリア帝国で流行っている菓子を作らせて贈ろうと言ったが、ルベリオ王国では材料が足りなくて諦めていたんだ。これはそのお詫びだな。甘い物なら何でも好きだといっていただろう?」


 エドマンドが言うように、シャンテルは好きなものを聞かれて、『甘い物なら何でも好きです』と答えている。


「覚えていらっしゃったのですか?」

「あぁ。お前のことだからな。宝石よりも甘い物の方がいいだろうと思った。実際、この前のお茶会でも小皿いっぱいに甘い物を取っていただろう」


 そう指摘されると、シャンテルが食いしん坊みたいで別の意味で恥ずかしさを覚える。


「私、そんなに食い意地は張っていません」

「あぁそうだな。それは甘い物限定だろう。お前は昼食を取ることを忘れるからな。あぁ、夕食も忘れることがあったな?」


 その件に関しては否定できない。何しろ、執務室で書類と向き合っていると知らない間に時間が過ぎていくからだ。

 シャンテルはむぅっと黙り込む。それが可笑しいのか、エドマンドは楽しそうに笑っていた。


 その後、各々食べたいものを決めると、エドマンドが慣れたように店員を呼んで注文してくれた。

 暫く待つと、暖かな紅茶とともに注文したスイーツが運ばれてくる。


 シャンテルはワッフルを頼んだ。付け合わせでワッフルの隣にクリームが添えられており、その上にはイチゴジャムがかけられている。更にトッピングとして、赤いイチゴが乗せられていた。


 ワッフルの出来立てのいい匂いに、シャンテルは無意識に「わぁっ」と感嘆の声を漏らしていた。直ぐに気付いてハッと前をみれば、やはりエドマンドがシャンテルを見て笑っている。


「シャンテル王女もそんな顔をするんだな」

「そ、そんなとは、どんな顔です?」

「子どもみたいな顔だ」


 くつくつと笑うエドマンドにシャンテルはムキになる。


「バカにしてます?」

「いいや?」

「バカにしていますよね!?」

「ほら、冷めない内に食べてみろ」


 話を逸らされた。

 エドマンドはオレンジのスポンジケーキを頼んでいて、それを優雅な手付きで口に運んでいく。


 シャンテルはこの歳になって初めて子ども扱いをされてしまい、変な気分だった。だけど、心の底から嫌と言うわけではない。

 そんな言葉にできない不思議な心地を飲み込むように、フォークとナイフを手に取ると、食べやすい大きさにワッフルをカットして口に運んだ。


 ふんわりと広がる甘さに、焼きたてのふんわりとした温かさが口の中に広がる。いつも食事は毒味だなんなだと、シャンテルの元に食べ物が運ばれてくる頃には冷めてしまっていることが多い。その為、紅茶などの飲み物以外は温かいものを口にする機会がなかった。


 口の中が多幸感でいっぱいになる。


「美味しい……!」


 お城で出される食事やデザートは間違いなく高級品で、それを作るシェフも一流だ。だけど、それに負けないくらい街で口にする食べ物の温かさは特別だった。 


「それはよかった」


 幸せそうな顔のシャンテルにエドマンドもまた幸せそうな笑みを浮かべていた。だけど、ワッフルに夢中のシャンテルがそれに気付くことはなかった。

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