40 シャンテル王女は密かに国民から慕われている
視察は順調に過ぎていく。
国費を使用した日照りや干ばつ対策は、新たに切り開いた農地の土壌の状態や作物の出来栄えを確認した。
シャンテルたちはその土地で育った野菜を使った食事で歓迎してもらった。また、騎士団からも人を派遣して造った用水路の確認も怠らない。
三箇所の地域を周り、作物の実り具合に多少の差はあれど、どこも問題はなさそうだった。
「シャンテル様が騎士団の方々を派遣して、自ら手伝ってくださったお陰です」
二ヶ所目の訪問先で、シャンテルは村の長から感謝の言葉を述べられた。
「私は最初の二日間しか参加していないわ」
「それでも王族の尊い姫君がワシらのために、あそこまでしてくださった事が嬉しかったのです」
「ルベリオ王国の食を支えているのは、皆さんのような農家の方々です。私はそれを支えるために支援したにすぎません」
日照りや干ばつ対策をした地域では「シャンテル様」「シャンテル王女」「カール様」と、シャンテルや第二騎士団に対する感謝で溢れかえった。
その後、シャンテルたちは途中で街の視察を二つ行なってから、一年前の川の決壊によって被災した地域へたどり着いた。流された橋の補修工事は住民たちの仮住まいや家の補修を優先したために、着工が遅れて為にまだ終わっておらず、今も職人たちが修繕している。
その様子を見学し工事の進捗を確認した。少し遅れはあるものの、あと三ヶ月あれば完成する予定だ。
被災した地域ではようやく仮住まいから移った人が元の生活を取り戻し始めているところだった。
ここでもシャンテルは国民に囲まれる。
被災地域の復興支援として第二騎士団は交代で1ヶ月、この地域に滞在していた。シャンテル自身も災害発生後に三日間、そして、三週目に二日間、この周辺地域に滞在した。
この地域は早朝に城から馬で駆けて、夕方ごろにやっと着く地域だ。辺鄙な地域に王女が支援に来ると思っていなかった住民たちは、最初とても驚いていた。
「シャンテル様、遠いところお越しいただきありがとうございます。この通り、少しずつではありますが家は勿論、畑も復旧しております」
「シャンテル王女様がまた来てくださるなんて! 夢みたいだよ!!」
「シャンテル様! 私、約束通りお姉さんになったよ!! 妹の面倒も見てるよ!」
老若男女問わず、ここでもシャンテルは歓迎された。皆、口々にシャンテルに話しかけている。
「シャンテル王女は意外と国民から慕われているんだな」
一言余計です! と、言いたい所だったが、エドマンドの言う通りだった。
これまで回った孤児院や日照り、干ばつ対策の地域、それから川の決壊で被災した地域など、シャンテルが自ら手を差し伸べた地域の人々は彼女にとても好意的だ。皆が歓迎してくれた。と、言っても彼らも最初からそんな反応だったわけではない。
シャンテルの名前を出すと、最初はトビーのように疑いの眼差しや嫌悪の眼差しを送る人々が殆どだった。だが、シャンテルが町や村の為に自ら赴き、汗を流す姿を見ていた彼らは、シャンテルが噂に聞く傲慢で野蛮な王女とはかけ離れた人物であることを知るきっかけになった。
「まぁ、私が関わった人たち限定ではありますけどね」
ランダムに選ばれた街の視察では、やはりシャンテルの名を聞くと、嫌悪の眼差しを向けられる。
予め騎士団の名前で宿泊の予約をしていた宿で、第二騎士団とその団長であるシャンテルが泊まりにきたと分かると、受付の従業員が顔をひきつらせたからだ。
その他、騎士団の服装で活動するシャンテルの姿を見かけたものたちは、「あれが噂の……」と怪訝そうな顔をしたのだった。
◆◆◆◆◆
視察の日程も七日目に差し掛かった。今日は最後の街の視察を行い、それが終わればおよそ三日かけて王都への帰路へ付く。そして、途中で王都近隣の視察を終えれば、全日程が終了となる。
どの街でもシャンテルたちは路地に貧しい人や子を見つけると、騎士団として保護し、それぞれ教会や孤児院を紹介した。
視察で行うことはそれだけではない。街の様子を探るため、時にシャンテルたちは騎士であることを隠して買い物をする。
特にシャンテルは王女とバレるとまともに対応して貰えない為、こう言うときは旅人の装いに変装していた。
今回の視察では前回の視察とは別の街を回ったが、その時ときよりも商品が高値で販売されている街が2つもあった。一つはセレナルド、そしてもう一つはタールムだ。
セレナルドはトラスー伯爵領、タールムはワテナム子爵領にある。
店主に尋ねてみると、どうやら半年前ごろから税の徴収が倍に増えたらしい。店主たちは「商売上がったりだ」と口を揃えて嘆いていた。
ルベリオ王国はここ五~六年、国防費を確保する為に国費を増やす方向で動いている。税金の引き上げを検討するよう、地方の領主たちに働きかけていた。だが実際の国防費はここ一、二年それほど変化していない。寧ろ少し下がってしまったくらいだ。
でもそれは日照りや干ばつ、それに川が決壊した被災地域の支援に当てたり、被害があった地域の税金徴収を一時的に引き下げたからだ。
物価はどうしても都市部の方が高くなる傾向にある。それなのに、何故王都から離れているたセレナルドやタールムの街でこれ程の値段になっているのか? 仮に同じ領地内でも都市部と農村地域で物の値段に差はあるだろうが、一般的な街でこれだとすると、領地の中で最も栄えている街では一体どれ程の差があるのだろうか。
城に帰ったら各領主の税収報告を確認しなくてはいけないようだ。ルベリオ王国では領地税収の何割かを領主が納めるような仕組みになっている。それが国費だ。だから税収が増えていれば、報告の金額も時間を掛けて増加し、国費も増えるはずだ。
「難しい顔をしているな。気になることがあったか?」
馬車まで歩いて戻る途中、右隣を歩くエドマンドが尋ねてくる。
「えっ? ……えぇ。少し」
一瞬、どう答えるか迷ったシャンテルだったが、エドマンドに誤魔化しは聞かないと観念して、濁して答える。
「なんだ。エドマンド皇子は分からなかったか? デリア帝国と言えど、第二皇子殿は呑気なものだな」
ふは、と勝ち誇ったように左隣を歩くアルツールがニヤリと笑ってエドマンドを挑発する。
ギルシア王国の王太子として公務をこなすアルツールはシャンテルと街の視察を共にしたことで、何か感じたのかもしれない。
もしかして、ルベリオ王国の財政状況がバレてしまったかしら?
そんな不安がシャンテルの頭を掠める。
「税金の徴収が増えた地域と、そうでない地域で物価の差が大きかったことぐらい俺でも分かる。問題は何故地方の地域でこれ程の差が出ているのかだろう」
そう。問題はそこ、なのだけれど……
「……。最後の視察、お二人は馬車でお留守番していてください」
察しが良すぎる二人に警戒心が膨らむ。もう今更かもしれないが、これ以上二人にルベリオの財政をひけらかす訳にはいかない。
あと、国防費が嵩んでいる原因は、ギルシア王国が小競り合いを仕掛けてくるのが悪い。
シャンテルは恨めしい視線をアルツールに送っておいた。




