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シャンテル王女は捨てられない〜虐げられてきた王女はルベリオ王国のために奔走する〜  作者: 大月 津美姫
1章

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35 視察に向けた段取り

 夕日が顔を出す頃、お茶会はお開きとなった。シャンテルが最後までお茶会に参加したのは始めての事だった。


 別れ際、キャロリンとイメルダは名残惜しそうにシャンテルと会話を交わした。


「お話ししてみるとシャンテル様が噂とは随分違う方だと分かりました。また、仲良くしてくださいね」

「どうかアンジェラ様をよろしくお願いします。シャンテル様もまたご一緒にお茶をしましょう」


 アンジェラを含む三人は、シャンテルを“王女”ではなく“様”と呼ぶ程には仲良くなった。シャンテルもアンジェラ“嬢”ではなく、アンジェラ“様”と呼び、彼女と少し距離が近付いた気がした。


 トラブルはあったものの、アンジェラたちのお陰で楽しく過ごすことが出来たシャンテルはサリーと別れると、カールとエドマンドを引き連れて再び自身の執務室へ籠った。


 まだ手付かずだった自分に割り振られている書類と向き合う。何枚か書類を裁いていると、来週からの視察に関する資料が顔をだして、「あっ」と声を漏らす。


 そう言えば、10日間かけて外出の予定をニックに組んでもらっていたんだったわ……


 視察の目的は以前行った日照り対策のその後や、シャンテルが関わった公共対策の現場視察に加え、街の様子を窺うことになっていた。治安の確認や農業、漁業の様子を観察することも主な目的の一つだ。


 当日のシャンテルの護衛は勿論カールと第二騎士団から選んだ数名にお願いしている。だが、この件はエドマンドにはまだ伝えていない。彼は国賓でもある為、着いて来るか本人の意思を確認するのもそうだか、そもそもルベリオ王国として着いて来てもらって問題ないかを含めて考える必要がある。


 後でお伝えしなければいけないわね、と考えながら資料を読み込んで再確認する。


 来週は書類仕事を裁くことが出来なくなるから、今週中になるべく片付けておかなくてはならない。国王には悪いがその間は、自力で頑張って貰う必要がある。ジョアンヌも普段よりは書類仕事が増えるだろう。


 年に4回ほどシャンテルは視察で長期間城を開けるが、シャンテルが城に帰ってくると、いつも書類が溜まっている。自分の分は勿論だが、国王の書類も溜められてしまっているのだ。

 視察の報告書も纏めなければならないため、視察後は疲れていても中々休めないのがお決まりのパターンだった。


 一度、『お姉様ばかり視察だなんてずるいですわ!』とジョアンヌに言われて、役割を変わったことがある。


 ジョアンヌは視察先で振る舞われる肉や魚、作物の特産品を使った料理やデザートに夢中になったり、街の様子を伺う視察で買い物に夢中になっていたと聞く。

 それ自体は悪くない。それに街の雰囲気を知るためには必要なことでもある。シャンテルも書類仕事を溜めなくて済むし、自分で報告書を書かなくて済むと考えていた。だが、楽しむだけ楽しんだジョアンヌの報告書はただの感想文と化していて、殆ど使い物にならないと、ニックを含め官僚たちが嘆いていた。


 ジョアンヌの視察に同行していた第三騎士団の副団長も視察の報告書を提出する。その為、二人の報告内容には差が生まれていた。副団長が記してくれた報告を官僚たちが確認し、二人の報告に大きな矛盾が認められる場合はシャンテルが再び赴くことになったのだ。

 以降も二度手間にはなるがジョアンヌのご機嫌を取るために、彼女にも王都周辺の視察公務が入る。結局、一度で済む視察公務を再び行なっているため、ジョアンヌの視察公務は手間を増やしているだけだった。


 今回の視察には遠い地方が含まれているため、普段より長い日程が組まれていた。

 国費を使用した日照りや干ばつ対策が3箇所。一年前の川の決壊による橋の補修工事及び、被災地域の視察が1箇所。


 これは半日掛かりそうね。


 その他、ランダムに選ばれた街の視察が3箇所。最後に、ジョアンヌが視察した王都の追加視察。意外にも王都とその近隣の視察箇所は3箇所だった。前回ジョアンヌは6箇所を回っている。彼女の視察の半分は特段問題なかったらしい。


 国賓が滞在している時に城を開けるのは少々気掛かりではあるが、この視察は夜会が行われる前から準備していたことだ。今更、日程ごと変更するという大きな予定変更は出来ない。


 ひとまず城を空ける前に国賓の皆さまには一言ご挨拶しておかなくちゃ。


 シャンテルが考えを巡らせていると、ノックの音がした。


「シャンテル様、ニックです」


 丁度いいところに来てくれたわ! と、入室を許可するとニックが数枚の紙束を手にしていた。


「こちら追加の書類です。それから国王陛下とシャトーノス侯爵令嬢の婚儀の招待リストに関して、完成版をお持ちしました」


「ありがとう」と答えて、シャンテルは手渡された書類を確認する。


「シャンテル様の考えられたリストに、アンジェラ嬢のご友人と関係者が5名ほど追加されたものになります」


 ニックの言葉の通り、アンジェラ側の関係者が足されているようだ。そこには今日のお茶会で会ったキャロリンとイメルダの名前もある。


「わかったわ。招待状の文面は陛下とアンジェラ様がお考えになるのかしら?」

「その件に関して、私は特に何も聞かされておりません」

「では確認後、文面に関してこちらに一任されるようなら、招待状の作成に取りかかって貰える? 過去の文面を参考にして、ニックの部下に作成をお願いしていいかしら?」 

「畏まりました」

「それと、来週の視察の事だけれど──」


 シャンテルは先程考えていたエドマンドの護衛の件や出発前に国賓の王子たちへの挨拶について相談し、段取りを決めていく。ついでに出来上がった書類をニック渡した。


「では王子の皆さまには、各国の従者を通じて私から話しておきます」

「ありがとう。助かるわ」


 ペコリと一礼して、ニックが執務室を後にする。

 ふぅっと、シャンテルが一息ついて窓の外を見ると、すっかり日が落ちて暗くなっていた。

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