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シャンテル王女は捨てられない〜虐げられてきた王女はルベリオ王国のために奔走する〜  作者: 大月 津美姫
1章

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2 騎士団の訓練

「シャンテル様!? そのお顔はどうされたのですか!?」


 カールに連れられた医務室で治療を受けたシャンテルが訓練場所に向かうと、第二騎士団の騎士たちが心配そうに彼女を囲った。


「少しドジをしてしまっただけよ。気にしないで。そんなことより訓練を始めましょう」


 はぐらかすように話題を逸らす。そして訓練用の剣を手にするとシャンテル指揮の元、第二騎士団の訓練がスタートする。


 第二騎士団の訓練内容は日によってまちまちだった。体力や筋力を付けるために、走り込みや腕立て伏せなどのトレーニングを行う日もあれば、素振りや手合わせを行う日もある。またある日は体幹を鍛えるため、乗馬をしながら訓練することもあった。


 今日は剣を腰に下げた状態や剣を手にした状態で走り込みを行う訓練からスタートだ。

 実際の戦場で手ぶらなんてことはあり得ない。実践を想定した訓練を行うことで、いざという時に普段通り動けることを目的としていた。


 その後は素振りを行い、簡単な手合わせを行う。勿論シャンテルも例外ではない。女の体ではどうしても筋力差は出てしまうが、それでも剣を握れば、第二騎士団の団長として実力を発揮する。


 手合わせで昨年入団した騎士と対面したシャンテルは剣を構える。

 開始の合図とともに走り込んできた騎士を相手に、体を斜め右に倒した。体の靭やかさと身軽さを武器にしながら相手の剣をいなす。


 シャァァァァッと剣と剣が擦れる金属音を響かせて攻撃を交わすと、相手がバランスを崩した。その隙にトンッと横へ飛び退くと、寸での所で倒れるのを回避した騎士が振り向く。


 だがその瞬間、決着が付いた。


 シャンテルの剣先は騎士の喉元に突き付けられている。


「ま、参りました……」


 流石はシャンテル様! と沸く周囲をよそに、シャンテルは戦っていた騎士に手を差し伸べる。


「フランク、以前よりも剣の重みが増しているわ。お陰で私は今腕がビリビリしているところよ。踏み込みも良かったし、随分成長したわね」

「ありがとうございます。シャンテル様」


 形式的にシャンテルの手を取ったフランクは、彼女の力を借りずにスッと立ち上がる。


「この調子で頑張って」

「はい!」

「だけど、無闇に相手に飛び込む癖は直しておいた方がいいわね」


 そんな会話をしていると、少し離れたところから「お姉様ったら、野蛮だこと」と声がして、シャンテルは振り向く。


「ジョアンヌ、貴女も第三騎士団の訓練に来たのね」


 先程、ジョアンヌはバーバラと共に訓練所とは反対方向に去って行った。だからジョアンヌは今日の訓練所に顔を出さないだろうと思っていた。


「えぇ。ですが、王女が剣を振り回すなんて端ないですわ」

「別に。私は好きでやっているの。貴女に真似をしろとは言わないわ。だから放っておいて頂戴」

「ですけど、来週は夜会があるのですから、怪我はしないでくださいね? 傷を作った姿なんてみっともないですし、そんな姿で夜会に現れたら王家の恥になりますわ」


 扇子で口元を隠しながら、ジョアンヌが白い目でシャンテルを見る。


 来週は王家主催の舞踏会が行われる予定だ。今回の夜会はルベリオ王国に二人いる王女の婚約者候補を探すことを目的としていた。その為、国内の貴族は勿論、周辺諸国からも一部の貴族や王族が招待されている。


 けれど、私には殆ど関係ないわ。


 どうせジョアンヌがちやほやされるのだ。そして、シャンテルは妹のジョアンヌを虐めている姉として蔑んだ目で見られる。それがいつものお約束だった。


 だけど、今回の夜会は少し引っかかることもあった。国王が何時になく積極的に夜会の詳細を確認し、部下に指示を出しているからだ。


 流石の国王も娘たちのために、親心で結婚相手を用意しようと考えてくれているのかしら? と、シャンテルは考える。


 ルベリオ王国の王位第一継承者はシャンテルで、第二継承者はジョアンヌだ。この国には王子がいない。つまり、王位を継いだ王女の婿となる結婚相手は、この国の未来の王配殿下となる。

 女王を支える伴侶となる存在だ。故に婚約者候補には、人柄の他に家柄も重視されることになるだろう。


 ルベリオ王国は代々、赤い瞳の王族が国を治めてきた。その点で言えば、シャンテルは赤い瞳でジョアンヌは青い瞳だ。だが、シャンテルは王位継承順位こそ一番目で赤い瞳の持ち主だが、後ろ盾が全くない。


 ギルシア王国はジュリエットの死後、ルベリオ王国と交流を計るどころか、互いに国境付近を睨み合っている。しかも、たまに小さないざこざも起きるような状況だ。


 国境付近に配置している騎士では、事態の収集が付かなくなることがある。そんなときはシャンテルが第二騎士団を引き連れて現地に赴く。

 大抵はそれと平行してギルシア王国に使者を送り、国境付近でのギルシア側の抜刀に抗議すると、第二騎士団が刃を交えて数分で、ギルシアの騎士や兵が撤退していく。

 ギルシアの言い分としては、武功を上げたい一部の人間による暴走なのだそうだが、こうも毎回とは怪しい限りだった。


 そんな母の祖国に後ろ盾なんて望めない。それに、そんなことをすれば“ギルシアにルベリオを乗っ取られる!”と、瞬く間に国民の批判を買うのが目に見えていた。


 一方のジョアンヌには母、バーバラの実家であるベオ侯爵の後ろ盾がある。ベオ侯爵は国内でも権力のある有力貴族だ。

 国王はシャンテルには無関心だが、側妃バーバラのことは気にかけているようで、バーバラやジョアンヌにはたまに贈り物をしている。そうなると貴族たちにとって、どちらの王女に着けば甘い汁が吸えるかは明白だった。


 今回は権力者が沢山参加する夜会だ。国外から遠路遥々やって来る賓客もいる。その中にはそろそろ到着される方もいるだろう。


 ジョアンヌは夜会当日のことで頭がいっぱいのようだが、シャンテルはそれ以前の国賓への対応で頭がいっぱいだった。


「分かっているわ。心配してくれてありがとう」


 シャンテルは心にもない礼を述べる。


「ふんっ」と、そっぽを向いたジョアンヌは侍女を連れて訓練所の更に奥へ向かう。そこには副団長指揮のもと訓練を行う第三騎士団の姿がある。


「シャンテル様っ!」


 第三騎士団団長の存在に気付いた騎士が声を上げると、他の騎士たちがサッと動く。テーブルを運ぶ者や椅子を運ぶ者。そしてジョアンヌをエスコートする者。残ったものは片膝を付いて、ジョアンヌを敬う。

 そうして机の準備が終わると、連れていた侍女が運んでいたお茶とお菓子を机に並べていく。


「……」


 いつからかジョアンヌやバーバラが訓練所にやって来ると、こうすることが第三騎士団では当たり前になった。


 ジョアンヌが第三騎士団団長に就任した頃、「どうしてお茶の準備が出来ていないのっ! わたくしが来たのだから、早くテーブルを用意しなさいっ!!」と癇癪を起こした。


 戸惑った騎士たちは慌てて準備に走ったが、予想していなかった事態に机や椅子の用意に手間取った。後からバーバラがジョアンヌにそれを聞いて、騎士たちに罰を与えたという。


 こんなことは訓練の時間を割いてまで騎士がやることではない。訓練を眺めながらお茶がしたいのであれば、侍女やその他の使用人に準備させれば良い。だが、ジョアンヌがそれを良しとしなかった。


 第三騎士団の騎士たちには申し訳ないし、可哀想ではあるが、これがジョアンヌの騎士団の方針だ。だから、シャンテルが口を挟むわけにはいかない。


「では、訓練を続けて頂戴」


 ジョアンヌが告げると、騎士たちは訓練の続きに戻っていく。シャンテルも気持ちを切り替えると、第二騎士団の訓練に戻った。

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