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シャンテル王女は捨てられない〜虐げられてきた王女はルベリオ王国のために奔走する〜  作者: 大月 津美姫
1章

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19 新たな護衛騎士

 その後、シャンテルは不本意ながらアルツールと昼食を共にした。


 あれこれ聞かれると思っていたが、廊下でのやり取りで、彼の聞きたかったことは聞き終えていたらしい。

 静かに食事を共にし、シャンテルが安心しきった所で最後の最後に明日からも昼食を共にする約束を半ば強引に取り付けられて、アルツールと別れた。


 一度部屋に戻って騎士服に着替えたシャンテルは、訓練所に向かう。


 訓練所の開けた場所が見えてくると、何やら騎士たちがざわついているのが視界に入る。


「何があったのかしら?」

「昨日の試験で新人が入りましたからね。入団直後の騎士たちを囲んで騒いでいるのではないでしょうか」


 カールがシャンテルの呟きに返す。


 先程、アルツールとの会話に出てきたレオのこともそうだが、恐らくカールはシャンテルに尋ねたい疑問が山程あることだろう。それでも、彼は護衛騎士の立場で知ったことを追求しないでいてくれる。


 私は良い護衛騎士に恵まれたわね。


 そんな風に思っていると、シャンテルたちが来たことに気付いた第二騎士団の騎士たちが、続々と騒ぎの中心から身を引く。


「やっと来たか」


 そんな声と共に、騒ぎの中心にいたその人物は立ち上がった。


「えっ!? エドマンド皇子? どうしてこちらに!?」


 シャンテルとの手合わせにより、エドマンドは周囲から納得してもらう材料を揃えた上で、騎士団の入団試験を不合格となった。


 だから、彼が訓練所に来る理由は無いはずだ。それなのに、エドマンドとその従者であるクレイグがここにいる。


 シャンテルの問い掛けに、エドマンドはにこりと笑みを浮かべた。胡散臭さが混じったそれは、シャンテルに嫌な予感を過ぎらせる。


「ルベリオ王国の国王陛下より、滞在期間中、正式にシャンテル王女の護衛騎士として認めて頂きました」


 その発言に驚いたのはシャンテルだけではない。シャンテルの護衛騎士であるカールと共に、二人は「ええっ!?」と声を上げた。


「お、お父様が認めた……? 何かの間違いでは!?」


 そう尋ね返すシャンテルにエドマンドが「いいえ」と首を横に振る。


「午前中、謁見の間に呼び出されまして。国王陛下はご自身に相談もなく話が進んでいたのが気に入らなかったようですが、俺がシャンテル王女の護衛騎士になりたいのなら、構わない(・・・・)と」

「なっ!?」


 お父様は一体、何を考えているの!?


「そんな筈は──」


 言いかけたシャンテルに被せてエドマンドが言葉を続ける。


「この件は俺の従者であるクレイグや国王陛下の側近が何人も聞いている。間違いはありません」


 午前中ということは、丁度シャンテルがニックと話をしていた頃だろうか?


 火消しの話をしていた頃には、国王とエドマンドの間で話が纏まってしまっていたらしい。

 シャンテルは内心、頭を抱えたくなる気持ちをぐっと堪える。


「これで、俺がルベリオ王国に滞在している間、沢山シャンテル王女のそばにいられますね?」


 含みのある微笑みにシャンテルは背中がゾクリと震える。デリア帝国の第二皇子が、長時間そばにいるなど、落ち着くわけがない。しかもあの剣の腕前、いつでも命を狙われ放題だ。


 そんな風に考えていると、エドマンドがシャンテルの目の前で恭しくお辞儀する。


「シャンテル王女の安全はこのエドマンドが命がけで御守りします」

「デリア帝国の皇子様に命を懸けられてしまわれると、困るのですが……」


 苦笑いで、それでも今シャンテルにできる精一杯の笑顔を浮かべる。何しろエドマンドの身に何かあれば、即外交問題に発展するからだ。だが、目の前の彼は自信満々に口を開く。


「そんな事態は起きないし、仮に起きたとしても俺とクレイグがいれば問題ない」


 確かに、シャンテルは手合わせでエドマンドに手加減されたのだ。この国で彼と渡り合えるのは、恐らく第一騎士団団長のラルフぐらいだろう。


 エドマンドをシャンテルの護衛騎士に国王が認めたこともあって、“凄いことになったぞ!”と、騎士たちが盛り上がっている。


 もはや皇子であるエドマンドの願い出を無下にできる雰囲気ではなくなっていた。


 シャンテルがちらりとカールを見ると、難しそうな顔をしていた。無理もない。自分の役目を取られたのだ。しかも、エドマンドが護衛騎士になると言っても彼は国賓だから、カールは護衛騎士の役目を丸投げするわけにもいかない。


 つまり、カールはエドマンドのご機嫌を伺いながら、実質は後方でシャンテルとエドマンドの護衛を務めることになるのだ。それはとても気を使う立場だ。


「分かりました。ですが、エドマンド皇子に訓練の様子をお見せするわけにはいきません。訓練中は別の場所で待機して頂けますか?」

「仰せのままに」


 そう言うと、エドマンドはクレイグを連れて訓練所から出ていく。

 シャンテルは近くにいた使用人に声をかけて、エドマンドに待機してもらう控室の準備と案内を任せた。



 ◆◆◆◆◆



「本当に……よろしいのですか?」

「勿論。俺が言い出したことだ」


 気が引けると思いながら、シャンテルは執務室前の廊下にエドマンド皇子とクレイグを残して扉を閉めた。


 訓練終了後、シャンテルはカールと共にエドマンドたちを控室まで迎えに行った。護衛対象が騎士を迎えに行くのも変な話だが、仕方ない。


 大人しく待っていたエドマンドに驚きながらも、執務室を目指して公務の続きに戻ろうとしたシャンテルはハッとする。


 エドマンドは国賓だ。国の機密に関わる書類があるシャンテルの執務室に彼を入れるわけにはいかないのだ。


 それで、廊下で待ってもらう事になるが良いか? と確認して、今に至るというわけである。


 流石にエドマンドを廊下に何時間も立たせるわけには行かない。だから、執務室にあった椅子をカールに頼んで廊下に二脚運んでもらった。


 エドマンド皇子を長時間お待たせさせないようにしなくちゃ! と、慌てて仕事に取り掛かろうとしたシャンテル。だが、カールが椅子を運んだ際にクレイグから伝え聞いた話だと、エドマンドの護衛騎士としての仕事は朝食後から夕食の少し前までと国王陛下から言われているらしい。


 どう頑張っても公務がそれまでに片付く気がしない。それならば慌てる必要もないか、と落ち着いて公務に取り掛かる。


 そうして室内を夕陽が照らし始めた頃、ニック訪ねてきた。



「火消しの件、間に合わずに申し訳ありませんでした」


 執務机の前で、開口一番に謝罪するニックに首を横に振る。


「ニックのせいじゃないわ」

「エドマンド皇子におかれましては、早速護衛騎士の務めをなされているようで、驚きました」

「そうなのよ。ただ廊下で待機させることになってしまって……何だか、申し訳ないわ」


 答えて、シャンテルは確認を終えた書類を自分の分と国王に渡す分とを整理した状態でニックに手渡す。


「こちらは追加の書類とセオ国の王子殿下方からのお手紙です」


 シャンテルは二十枚程の紙束と手紙を受け取る。


 一通の手紙の差出人はロルフ第一王子とホルスト第二王子、二人分の名前が記されている。


 ジョアンヌとお茶会をした彼らが、シャンテルに手紙を出したのはきっと社交的なものだろうと考えた。


 恐らく、次はシャンテルも一緒にどうか? と書かれているに違いない。


 のこのこ誘いを受ければ、そこでシャンテルは彼らにジョアンヌを虐げていることについて問い詰められるのだろう。


 勿論、シャンテルがジョアンヌを虐げている事実は無いが。


 シャンテルは手紙を開封して中身を読んでいく。


「……意外だわ」


 シャンテルの呟きに「何がです?」とニックが尋ねる。


「手紙の内容は予想していた通り、お茶のお誘いだったのだけど、私はてっきりジョアンヌもまた誘われると思っていたの。でも、手紙にはロルフ王子とホルスト王子の“3人で”と書かれている」

「あぁ、そう言うことですか」


 ニックが納得した声を上げる。


 いつも、シャンテルがご令嬢たちからお茶会に誘われる時は、ジョアンヌも一緒だった。

 そして、そのお茶の相手が事前にジョアンヌと一度夜会やお茶会で接触していた場合、シャンテルは途中から問い詰められるのが大抵の決まりなのだ。


 “何故ジョアンヌ様にあのようなことを?”

 “ジョアンヌ様に仰ったことは事実なのですか?”


 これは、シャンテルが社交的な場が苦手な理由の一つである。


「ジョアンヌから私のことを何かしら聞いた筈なのに、何故私だけお誘いされるのかしら? 私を問いただしやすくするため?」


 虐げられている本人が居ない方が、加害者が本性を現して話し出すと考えられている可能性はある。


 だとすると、やはり私を問い詰める為に?


 ネガティブな想像をぐるぐると巡らせるシャンテルに、ニックが柔らかく声をかける。


「シャンテル様、セオ国の王子様方は純粋に見極めたいのではないでしょうか?」

「見極める?」

「シャンテル様とジョアンヌ様、どちらが未来のルベリオ国王に相応しいのか。片方の言葉に惑わされる事なく、ご自身での目と頭で確かめたいのだと、思います」

「……」


 いつも貴族令嬢たちはジョアンヌの話しだけを聞いて、社交界で噂を重ねていた。


 もしもニックが言うように、セオ国の王子たちがそう思っているのなら……


 嬉しい、かもしれない。


 ほんのりと温かな感情が、シャンテルの心に広がっていく。

 シャンテルが表情を綻ばせると、彼女の心境が変わったことを理解したニックも表情を柔らかくした。


 もしそうなのだとしたら、早めに返事をしたい。

 だけど、シャンテルは先にジョセフから誘いを受けている。答えるのなら、ジョセフからの誘いを先に果たすべきだろう。


 ジョセフから送られた手紙を引き出しから取り出したシャンテルは、セオ国の王子たちの手紙と並べる。


 そして、現在残っている公務を確かめる。

 今受け取った新たな書類と、ここ数日で処理して残り少なくなった溜め込んでいた書類。それから国王の婚姻に関するもの。招待する貴族や国賓のリストアップと式場やパレードの警備。こちらに関してはまだ手つかずだ。


 それでも明日あさってもあれば、溜めていた分は片付くだろう。会議や騎士団の訓練もあるが、少しは婚姻関係の仕事にも手を付けられる筈だ。


 確か、ジョセフ公子の手紙には庭園の花々を鑑賞して、お茶をしようと書かれていたわね。


 最近は就寝前以外、殆ど息抜きなく働いているシャンテル。良い気分転換になりそうだと、少し心が弾む。


「ロルフ王子たちの前に、まずはジョセフ公子とご一緒しなくてはね」


 シャンテルが呟くと、ニックが申し出る。


「では、私の方からロマーヴリフ公国の使用人を通して、ジョセフ公子とセオ国の王子たちのご予定を伺っておきましょう。手紙でやり取りするより、その方が予定も早く組みやすいでしょうし」

「ありがとう。頼んだわ」


 にこりと微笑んだシャンテルに、ニックは恭しく一礼すると執務室を後にした。


 さぁ! 王子たちと交流するためにも、公務を少しでも多く片付けましょう!


 気合を入れ直すと、シャンテルは公務の続きに取り掛かった。

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