14 入団試験の合否とエドマンド皇子のお願い事
その後、全受験者との面接が修了した。それぞれの団長と副団長は会議室で円卓を囲み、入団試験の合否と合格者をどの団に入れるか話し合いを進める。
まずは貴族枠の選定から始まり、議論を重ねていく。そして一般参加の枠に入るなり、その場にいた第一騎士団と第三騎士団、そしてジョアンヌの目の色が変わった。
「シャンテル王女、ジョアンヌ王女。エドはぜひ第一騎士団に入団させたいと考えます。国王陛下や妃殿下を御守りする盾として、是非とも彼の力を発揮してもらいたい」
「駄目よ。あんなにも腕が立つ上に、とっても整ったお顔立ちですもの。エドはわたくしの第二騎士団に入れますわ」
ラルフが王女たちにお伺いを立てると、ジョアンヌがすかさずそれを跳ね除ける。どうやら二人はエドの正体がエドマンド皇子だと気付いていないらしい。
直接顔を合わせていないと思われるラルフはともかく、ジョアンヌが気付けていないのは少々問題がありそうだと、シャンテルは内心ため息をつく。
「エドったら、とっても控え目なんですの。わたくしが『ぜひ第二騎士団に入って頂戴』と言ったら、『私ではジョアンヌ団長殿の期待に応えられません。勿体無いお言葉です』なんて言うの。今季一番の実力者なのに。謙遜しちゃって。きっと自分に厳しくしているのね」
はぁ~っと、ジョアンヌがうっとりしたため息をこぼす。
恐らくだが、エドはジョアンヌの騎士団には入りたくないのだろう。何しろ、夜会で“ジョアンヌへの興味がなくなった”と言っていたくらいだ。
「とにかく、本人が特に希望していないなら、エドはわたくしの団に入れますわ」
ふふっとジョアンヌが上機嫌に笑うと、ラルフが少し悄げたように眉を下げた。
王女の言葉には逆らえないため、「分かりました」と返事をするラルフ。だけど、私は「待って」と一言止める。
「なんですの? お姉様は今まで黙っていらっしゃったのに! またわたくしに意地悪されるなんてっ! 酷いですわっ……」
シャンテルを見たジョアンヌが、話しながら瞳を潤ませていく。その場にいた全員が“また始まった”と、内心ため息を付いた。
「意地悪でもなんでもないわ。本人が第二騎士団を希望したの」
シャンテルが告げると、「っ!? 嘘よ!!」とジョアンヌが叫ぶ。
「いや。しかし、思い返してみると、エドを第一騎士団に誘ったとき『第二騎士団に興味がある』と彼は言っていましたな」
ラルフが言うと、ニックが「シャンテル様のお言葉に間違いはありません。私も一緒に聞いていましたから」と付け足す。
「だけど……」
言いかけて、シャンテルは口にすることを躊躇う。
これは、言ってしまっていいのかしら? けれど、エドマンドから特に口止めはされなかったわ。それに、ルベリオ王国の騎士団にデリア帝国の皇子を入れるなんて前代未聞よ。
他国へルベリオ王国騎士団の情報が漏れてしまうわ! そんなの絶対に駄目よ!
心の中で葛藤するシャンテル。そこへ「何か気になることがあるのですか?」と、不思議そうに尋ねてくるラルフの声がして意を決する。
「エドとクレイグを合格にすることはできません」
その場の全員が驚いた顔でシャンテルを見た。
「なっ!? どうして!? それに、何故クレイグの名前が出てくるの!?」
ガタッとジョアンヌが椅子から立ち上がる。それに比べてラルフはすぐさま落ち着きを見せると、顎に手を当てて冷静に口を開いた。
「クレイグといえば、彼もかなりの実力者でした。それなのに合格に出来ないとは、何故ですか?」
「エドがエドマンド皇子で、クレイグはエドマンド皇子の従者だからです」
シャンテルの一言でカール以外の全員が再び驚いて、一瞬言葉を失った。
「っ、エドが、……あのエドマンド皇子ですって!?」
ジョアンヌがブルブルと腕を振るわせる。エドマンドとエドのことを思い浮かべて、同一人物かどうか脳内で比べているのだろう。
「エドが、……デリア帝国第二皇子のエドマンド殿下!?」
ラルフはというと、第一騎士団の副団長と共に顔を青ざめさせていた。
恐らく、二人はエドマンドだと知らずに接触した時のことを思い出しているのだろう。
「ですから、エドとクレイグを合格にするわけにはいかないのです。お分かり頂けましたか?」
「しっ、しかし! ……誰から見ても優秀だったあの二人、……特にエドを不合格としてしまうのは、色々と不自然ではありませんか?」
第一騎士団副団長が恐る恐る発言する。
彼が言う通り、事情を知らない他の騎士や受験者から見れば不自然だ。彼らは一般参加から今回の入団試験を受けている。
“庶民は実力があっても、何らかの理由で試験で簡単に落とされる”などと、一般参加者からあらぬ噂を立てられる可能が非常に高い。
「エドがエドマンド皇子だったなんて……」
ヘナヘナと真っ白な頭で椅子に座り込むジョアンヌ。
その他の者はみな一様にどうすべきかと、頭を悩ませて黙り込んでいた。
その時、会議室の外がなにやら騒がしくなる。
そうしてノックの音がしたあと扉が開かれた。そこに現れたのは、会議室の前を警護させていた第一騎士団の騎士だ。
「入団試験合否会議中に失礼いたします。デリア帝国第二皇子のエドマンド殿下が、皆さまにお話があるとのことでして……」
騎士が言い終わる前に「失礼する」と声がした。そうしてエドマンドが室内に入ってくる。彼の後ろにはクレイグの姿もあった。
「っ! エドマンド殿下!!」
まさに今、悩みのタネとして話題にしていたご本人の登場に、騎士たちが慌てる。ジョアンヌはというと、一度屈辱的な思いをさせられているため、居心地が悪そうに顔を歪めた。
「皆さんが我々のことでお困りではないかと思い、押し掛けてしまいました」
エドマンドが申し訳無さそうに笑う。だが、その笑顔はシャンテルに言わせれば、胡散臭く見えた。
そう思うのなら、こちらとしては最初から騎士団の試験に参加しないでほしかったのだが。一体、この皇子様は何を考えているのか……と、全員が疑問に思ったことだろう。
「私とクレイグは入団試験不合格で構いません。その代わり、お願いがあるのです」
何やら怪しげに口の端を持ち上げると、エドマンドは“お願い”とやらを語り始めた。




