~未来に飛ばされたけど戻れなそうなのでこの時代で頑張ってみる~
プロローグ
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君たちは未来を想像したことがあるだろうか。
先に言っておけば、私は想像することに長けている。
明日の予定、週末の娯楽、果ては将来の職種まで実に様々なことを想像してきた。
何なら、ひと際目を引くあの子の思い人が自分であればとか、遠縁の親戚の遺産が転がり込んできたらなんて、もはや妄想の域にまで考えを巡らせてきた。
目立たず日陰者であった私が、作家などとたいそうな看板をかかげていられるのも想像することに長けていたからだ。まさに、想像する事が私という人間の本域であり、何よりの娯楽であったのだ。
ありもない世界で主人公たちは励み、恋をし、試練を乗り越え、成長していく。
私は思いつく限りの劇的な光景を片っ端から文字に起こす。
そんな日々を送っていると知ったらかつての級友たちは一体何を思うだろうか。
周囲からひょろながのもやしと揶揄され一念発起し道場の門を叩き、一週間で逃げ出した私が、まさかこのような職業についているなど夢にも思わないと驚くだろうか。
いや、そもそも私に対する興味などとっくに失われているだろうか。
年を重ねても、私の風貌や立ち振る舞いは当時と遜色ないほど凡庸を保っている。
恐らく再会を果たしたところで、当時と同じく凡庸という印象しか彼らには残らないであろう。
人の記憶とはそういうものであり、物語の主人公とは裏腹に私自身は劇的とは言い難いのだ。
あの日突如として未来に飛ばされるまでは、それでも一向にかまわないはずだった。自分自身が劇的でないことも平凡な日常も「想像」済みのはずだったのだ。
「いい年して恋人の一人もいない者は、いくら時が流れようと平々凡々と日々を過ごしていくのだ」とは私の談であり、積み重ねた経験によって導かれた答えに私は自信を持っていた。
自分の持つ想像力は架空の中だけでなく現実においてもその効力を発揮し、きっと自分の想定通りに物事は進んでいくのだと信じ込んでいた。この先も私の日常は変化するはずがないのだと天狗の鼻を伸ばし、自分の力を本物の神通力かのように過信していたのだ。
実に早計であった、たった少しうまくいっただけであたかも未来の全てが見通せるかのように勘違いに陥っていたのだ。まるで翼が溶けることを知らないイカロスのように「それ見たことか」としたり顔で仮初の全能感に包まれていたのだ。
これから自分に起こることを何も知らずに翼を広げるその様は、太陽から見ればさぞかし滑稽で程度の低い見世物に見えたに違いないだろう。
天狗のように神通力も持たずイカロスのように使命も持たない自分には、当然選択肢なんて与えられず只々流されていくしかないのだから。
ならばせめて、今後起きる出来事の全容を何一つとして「想像」出来なかった哀れな自分に、ありったけの皮肉を込めて言ってやりたい。
「え、年号ですか?令和ですけど、てかお客様この紙幣っていつのですか?ニセ札?」
「・・・・」
一人の想像力では太刀打ちできないほど未来というものは大きく変化するのだと。
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