第四話 愉悦
いかにもテンプレなキャラが出てきましたね
「・・・ルス・・・ケルス!」
いつの間にか、隣を歩いていたシルフィアの顔がケルス目の前にあった。ケルスが回想に浸っているあいだ、反応が鈍くなったことに心配になったらしく、心配そうな眼差しを向けている。
「あーすまん。ちょっとぼーっとしてた。」
「どうしたの? なにかあった?」
「いや、ちょっと昔のことを思い出してただけだ。」
「そっか。」
それ以上シルフィアはなにも言わない。シルフィアはケルスと別れたあとに、ケルスになにかあったのは分かっていた。しかし、ケルスがなにも言わない以上、自分にできることは無いんだろうなと思い、なにも聞かないでくれているのだ。
ケルスはシルフィアに気を使わせてしまったことに苦笑いを浮かべる。
一瞬気まずい雰囲気が流れたが、それを払拭するようにシルフィアが話題を変える。
「そういえばケルスは選択講義はなににするか決めた?」
この学院では必修講義とは別に、一年の時点で選択講義を決める必要がある。文官志望だったら政治・経済、軍人だったら剣術や魔導学など、将来必要になるスキルを学べるカリキュラムが個々に用意されている。
「もちろん私は剣術だけど」と、にこやかに言うシルフィアの顔には、もしなにも決まってなかったら剣術に強制連行しよう!という意図が見て取れる。
もっとも、ケルスは正規ルートではあるものの、少々特殊な入学方法をしているので選択講義はもう既に決まっていた。
「ああ、精霊学だ。まあ元々精霊術師枠試験で入学したからそこ入んなきゃ駄目なんだけど。」
シルフィアが口を開けて驚いている。ケルスは無理もないだろうと思う。
精霊術師は強力であるものの、数自体が少なくこの国、否、世界中で重宝されている。試験に精霊術師枠があることからもどれだけ貴重な存在かが分かるというものだ。
「へえー、すごいねえケルスは。今年の精霊術師枠は三人しかいないって聞いてたけど、そのうちの一人だなんて。」
「まあな・・・にしてもあの試験内容はどうなんだ? 精霊出してちょっとした質問されて合格だったぞ? まあ精霊術師が貴重なのはわかるが・・・。」
ケルスは自分の世代の精霊術師のレベルが分からなかったので、比較的若い火種の精霊イグジーニスを出したのだがそれでも驚愕の表情をしていた。だがあれは、召喚した精霊よりケルスが召喚したことに驚いていたようにかんじた。まあ、孤児院出身という経歴が無いにも等しい奴が精霊を召喚したことにおどろいていた、ということでケルスは一応の納得をした。
それからあれやこれやと思い出話をしながら自分たちの教室に向かう。運のいいことに二人は同じクラスになれた。この学院は何事にも効率を求めるため入学式などは存在せず、教室で簡単なガイダンスを受けるだけだった。
どちらにしろ聞く気のなかったケルスは、話を聞いているふりをしてぼーっとしている。するといままでなりをひそめていた精霊たちの声が聞こえてきた。
『精霊王さまぁ、聞かなくていいんですか?』
「・・・いいんだよ、どおせシャーナが覚えててくれんだろ。」
『おまかせください我が君。』
『適当だなあ。それよりさっきの娘は何なんだよ? お前が森を取り込む前にであった娘だろ?』
「・・・うるさい黙れ。」
めんどくさい話題が出始めたので無視するケルス。精霊たちはケルスの中から直接頭に話かけることができるのだが、ケルスからなにか伝えるときは声を出さなければならないので、周りからはケルスが独り言を言っているようにしか見えないのだ。実際今も、周りに聞こえないよう小声で返事をしたのだが、内容までは聞こえないものの、なにかぶつぶつ言っているのが聞こえて、ケルスの方に訝しげな顔を向けている生徒が何人かいる。思わずケルスの口からため息が漏れ出てしまう。
長ったらしい話が終わると、次は選択講義の説明に移るようだ。どうやら実際に選択講義の様子を見てまわるらしいが、入学の時点で決まっているケルスたち精霊学組は別行動になった。
教室を出る際、シルフィアが手を振ってきたので振り返してから教室を出た。すると教室を出た直後に嫉妬の混じった声で誰かが話かけてきた。
「君がもう一人の精霊術師枠の生徒かい? 成り上がり剣姫と随分仲がよさそうだったけど・・・、覇気のない顔をしてるねぇ。」
ケルスが肩越しに振り返ってみると、どこか見下したような顔でこちらを見ている少年がいる。少しカールのかかった髪に太めの眉毛、みすぼらしい印象はないがあまりいい男というかんじはしない。見た目からしてどこかの貴族だろうか。
「・・・精霊術師枠の生徒ならもう一人いるが?」
ケルスが二人の会話を歯牙にもかけずに廊下を歩くもう一人の少年を見やる。こっちはがたいがよく髪を短髪に切り揃えている。どこか屈強な戦士を彷彿させる男だった。
「彼のことは知っているからね。家柄も実力も十分な精霊術師だから。同世代の精霊術師は一通り調べておいたつもりなんだけどねぇ。」
「そういうあんたは誰だよ。」
「おっと、これは失礼。ボロプターテム伯爵家が次男アレン・フォン・ボロプターテムだ。」
「・・・ケルス・サルヴァトア。」
「おっとケルス君? 僕は貴族だよ? もっと敬意を払ったどうだい?」
「あいにくと俺は自分より弱いやつに敬意を払うつもりは無くてな。下僕探しなら他をあたってくれ。」
そうケルスが言うとアレンの眉がぴくっと動く。どうやら癇に障ったらしい。
「礼儀がなってないねぇ。あれかな? 彼女が孤児院出身だったことを考えると君も同じ孤児院出身かな?」
「そうだが?」
「ここまで言ってやっているのに察しがわるいねぇ。貴族を敵にまわしたらどうなるかもわからないのかい?」
「べつにお前程度だったら大丈夫だろ。うちの孤児院はエレジビレオ家がシルフィアを引き取ってからエレジビレオ家が支援してるからな。お前らにそこに手を出す度胸があるか?」
エレジビレオ家は公爵家で、ボロプターテム家は侯爵家だエレジビレオ家の反感を買えば跡形もなく消されるのは目に見えていた。加えてシルフィア自身も世間から人気があることから手を出す可能性は少ない。
アレンはチッと舌打ちをするとすぐさま立ち去ってしまった。しかし、立ち去り際にアレンの口元が吊り上がっているのをケルスは見逃さなかった。大方ケルスへの嫌がらせでも考えているのだろう。「まあでも、問題ないか」とケルスは思う。ケルスは普段こちら側にいないし、同じ精霊術師でケルスに勝てる者などいないのだから。
初日から面倒なことになったなぁとおもいつつ、同じ精霊術師である以上同じ教室へ行かなくてはならないので、ケルスはアレンの後に続くのだった。




