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売れっ子ブイチューバーは崖っぷち!? ~陰キャ声優の苦難~  作者: 縁藤だいず
1章 陰キャ声優、白なめくじ
8/85

1-7 にこたまブルームの価値

 スタジオホライゾン。

 一年前に設立されたブイチューバー事務所だ。


 バックについているのは白鳥出版。


 出版事業から発展し、映像やゲーム、インターネット広告など幅広い事業を手掛ける大手企業だ。


 その新たな事業開拓の中で立ち上がったのがホライゾンだ。


 にこたまブルームもそこに所属している。


 とはいえブイチューバーはまだベンチャービジネスだ。


 シームレスアニメーション技術の発展により、誰でもブイチューバーを始められる時代になったが、専業でやっていけるのは上位の一握りだけ。


 マイチューバー自体も当初は個人で始めるのが一般的だったが、近年では企業が配信周りのサポートや企画・宣伝を行うケースが増えている。


 当然、広告収入や投げ銭――いわゆるスペシャルチャットは折半となるが、そのぶん個人より質の高いコンテンツを提供できる。


 ホライゾンはそんなブイチューバーたちの総合サポートを行う、芸能プロダクションと言ってしまってもいいだろう。


 事務所はより多くのライバーを求めている。


 抱えるライバーの数が増えればコラボ動画も作りやすく、どんどん楽しい雰囲気が醸成されて行く。いわゆるハコ推しと呼ばれる事務所全体応援するファンも現れる。


 ブルームはそんなホライゾンの二期生としてやってきた、新人ブイチューバーなのである。



 ……だが、ブルームはその中でも異例の成長を遂げていた。


「えっ、ブルームってデビューして半年なのか?」


「そうだよ! 有象無象のライバーを蹴散らし、現在チャンネル登録は七十万人さ!」



 有志が作ったブイチューバー全体のランキング集計サイトがある。


 そこででブルームは現在ランキング五位に入っている。


 そもそもブイチューバーは既にプロアマ含めて二万人以上がデビューしており、トップ三十に君臨するライバーは軒並み三年以上配信を続けている猛者ばかり。


 それを半年で五位、というのがどれだけ異常なことかよくわかる。



「ブルームの動画は子供にもわかりやすいので、たくさんの人が見てくれるんです」


「ガキンチョはうんこの話でもしとけば笑うからチョロいぜ」


「……やめてね、本当に。ブルームのせいで両親には仕事を説明できないんですから」


 なにそれ、つら。


 まあこんな見目麗しい娘さんが「このカレーうめえええw違ったあああああww」なんて騒いでたら俺が親でも卒倒する。


 世の中には知らないほうがいいこともたくさんあるのだ。



 だがどうしても理解できないことがある。

 ブルームは現在人気絶頂のライバーだ。


 そんな人気ライバーの演者を変更する理由が、なにひとつ見つからない。


 紗々は自分をコミュ障、コラボできない、プロデューサーに好かれないなんて理由に挙げていた。


 仮にそうだとしても、莫大な数字を叩き出してる演者を変えるなんてリスクが高すぎる。




 この業界でも度々、議論されてきたことだ。


 いわゆる()()()に問題が生じて配信が困難になった際、引退させるか、それとも新しい声を用意するかだ。


 だが新しい声を用意しても、リスナーに受け入れられるケースはほとんどない。


 リスナーだって本気でアバターが喋っているなんて思っていない。中の人はそれなりに意識して視聴している。


 そして中の人を想像する自由があり、また中の人だって自分の性格がキャラクターに反映されてしまうのは避けられない。


 つまり演者が変われば、キャラクターは別人になってしまうのだ。


 ブルームの新しい演者が寿司嫌いだとしたら、同じように好きであるように振る舞えない。仮に寿司が好きなんて言ったとしても違和感はどこかに表れる。


 自分の家族が翌朝、別の人格に変わっていても受け入れられるだろうか?


 私たち、入れ替わってるー!? なんて騒いでも戻ることがわかってるなら面白いかもしれない。


 でも元の人格が二度と帰ってこないとしたら、その新しい人格をこれまでのように愛すことができるだろうか?



 無理だ。

 元の人格に二度と会えなければ、その人は死んでしまったのと同じだ。


 むしろ同じ顔の人を見て、のうのうと生きている新しい人格に嫌悪感さえ示すだろう。……現に、俺はその事例を知っている。



 もう同じような悲劇は見たくない。

 これが依頼でなかったとしても、この件を見過ごすわけにはいかない。



「それに紗々が降ろされると、もっと最悪なことが起こる」


「……最悪なこと?」


 俺は黙って頷く。


「いままではブルーム本人がしゃべっていたのに、今度から別人に演じられるようになる。それはつまりブルームの印象が、他者に上書きされるということだ。魂の上書きが行われれば――ここにいるブルームはこの世から消滅する」



 キャラクターの設定変更、それは魂の上書き。


 いままでの魂を消滅させ、新しい魂を生み出すこと。


 人の手で作られた存在にとって、一番恐ろしい行為だ。



「だから今回の件は、俺としても見過ごせない」


 ブルームを殺すわけには行かない。

 俺にとっては二次存在も三次に生きる人間も、等しく会話ができる生きたヒトだ。


「初代の魂が、一番いいに決まってる」

 これが俺の掲げる信念だった。

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