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5-2 大先生の横暴仕事術

『あ、もしもし? 社長久しぶりです。夢見降魔です』

「…………えっ、夢見くん? 本当に!? 久しぶりだね!!」


 電話口で速水さんのはしゃいだ声が聞こえる。


「急にどうしたんだい? しばらくは表舞台に立たないって聞いたけど」


『そうだったんですけど、どうしてもお願いしたいことがありまして』


「他ならぬ夢見くんの頼みだ、なんでも言ってよ」


『はい。いまから明日までに追加シナリオのプロットを送るので、読んでおいてください』


「追加の……プロット?」


『追加シナリオ書くことにしたんで。あと声優も増えるので、スタジオをプラスで確保しといてください』


「ち、ちょっと待ってくれ、追加シナリオ? 声優の追加!? 発売まであと四か月だよ?」


 電話口の速水さんは混乱している。

 当然だ、まだ速水さんにその話は伝えていない。


『そんなの知ってます。でもどうせだったら妥協のない作品を作りましょう』


「そ、そりゃ僕だってそうしたいけどさ……」


『オレ、覚えてますよ。速水社長がスケジュールとか予算とか関係なく、満足のいくゲームが作りたいって話してたの。だからオレは原作提供したんですよ?』


「く、くぅ……、わかった、そこはなんとかする。……それで声優の追加っていうのはアズサの件かい?」


『それとは別です、詳細はプロットと一緒に送ります。それではまた』


 そう言って降魔は一方的に電話を切る。




「お、おい、降魔。いくらなんでも雑過ぎないか?」


『黙れ』


 降魔は取り合わず、また電話をかけ始める。


 スマホに表示されている名前は……小清水猛。



「……はい、小清水です」


『以前”夕暮れ、彼らは”でお世話になった夢見降魔です。ご無沙汰しております』


「ああ、こちらこそどうも。ご無沙汰しております」


 無感動に小清水が応答する。

 ……こいつ、小清水の番号まで知ってるのか。


 小清水は以前、ゲーム部門に配属されていてユーグレラの仲介に入っていたという話だ。その時になんらかの接触があったのだろう。


 だが、いまさら当時の担当に連絡して、なにを話そうって言うんだ?



「今日はいったい、どんな御用で?」


『まず、お礼を言わせてください。御社のにこたまブルーム、そして五十嵐薫さんの仲介、ありがとうございました』


「……五十嵐、参加すると決めたのですか?」


『はい、快く受けてもらえるそうで』


「そうか、それは良かった……」



 ――おい、降魔!

 ――薫はまだ受けるなんて言ってない! 勝手に話を進めるな!


 ――知ってる。いいから黙って聞いてろ。



『で、今日お願いしたいのは、御社ホライゾンのブイチューバーに、追加出演をお願いしたいんですよ』


「ほう、それは気前のいい話ですね。で、誰を希望ですか?」


『全員です』


「……全、員?」


『はい。御社のブイチューバー全員を声優として起用したいんです』



 は?

 ホライゾン全員って、全部で二十人近くいなかったか?



「……えっと、ちなみに収録等はいつをご予定で」


『年明けすぐにでも収録を進めたいです。四月の発売延期はしないので一ヶ月以内には収録を終える予定です。なので演者のスケジュール調整を――』


「ちょ、ちょっと待ってください!」



 ゴリゴリに話を進める降魔を、小清水が慌てて押しとどめる。



「ご商談、感謝します。しかし一度、三厨ディレクターの判断を仰がないことには……」


 意外にも、小清水は冷静だ。


「各々、演者にもスケジュールがあります。調整のつかない演者もいるでしょう。我々も出来る限りご要望にはお応えしたいとは思いますが――」


『あのさ。断わられたら困るから、お前に頼んでるんだけど?』


 降魔が威圧的に言う。


『この話は全員がいなきゃ成り立たないの。現場単位で断わられたら困るから小清水トップに頼んでるの。その辺わかってくれないかな?』


「いや、その……申し訳ないです」


 小清水が、委縮している。


 ……夢見降魔は本社の庇護下、よもや白鳥出版の取引先ともいえる存在だ。役職持ちとは言え、一介のサラリーマンである小清水は降魔に強く出られない。


『あと言っとくけど小清水さん。勘違いされたら困るから言いますけど、オレはあなたにチャンスを与えてるんですよ?』


「……チャンス、と言いますと」


『ユーグレラにブルームが参加する話、三厨さんに独り勝ちされてるらしいじゃないですか』


 降魔がまるで内緒話をするかのように言う。


『ブルームをユーグレラ採用したのは、オレが三厨さんが懇意だからじゃない。単純にブルームの実力を買ったからだ。でも本社はその一連の騒動を三厨さんひとりの評価にしている。知ってました?』


「……いえ。本社とか評価とかの話は存じません」


『そうですか。結論から言うと来期、三厨さんはプロデューサーに昇格し、小清水さんは降格になります』


「な、なんですって!?」



 小清水が素っ頓狂な声を挙げる。

 

 ……なんの話をしてるんだ降魔は。

 目指す話の矛先がわからないし、さっきから語ってることはウソ八百だ。



『やっぱ知らなかったんですね~。これは執行役員《桑田さん》に聞いた話なんですが、事業の発展に寄与した三厨さんには抜擢人事がされるそうです』


「そ、そんなっ。三厨が評価されるのはまだしも、なぜ私が降格に」


『さあ、そこまでは知りません。でも小清水さんの仰るように私も降格はやり過ぎだと思います。だってオレはブルームの実力と、ホライゾンのブランド力を買っただけなんですから』


「あ、ありがとうございます」


『だから先ほどのホライゾン全員参加の件、小清水さんの手柄にしてください』


 降魔はくつくつと笑いながら、楽しそうに舌を滑らせる。


『小清水さんの提案で一人の出演が二十人に増えた。……これって三厨さん以上の大金星だと思いません?』


「よ、よろしいんですか!?」


『構いませんよ、なにか疑問でも?』


「疑問というわけではありませんが……三厨は夢見先生の元アシスタントと聞きました。身内の昇格話を潰すようなことして、よろしいのかと」


『ああ、気にしなくていいですよ。最近チョーシに乗ってて、ウザかったから』


「は、はあ、ウザかったですか?」


『あの人、ちょっとエリートウーマン気取りじゃないすか? だから一回くらい凹ましときたくて。小清水さんも同じようなこと思いません?』



 降魔がそう言うと、小清水もつられてくつくつ笑い出す。



「……いい働きはしてると思いますが。少し鼻につくとこはありますね」


『はは、やっぱみんな同じこと思うんですねえ』


「夢見先生の方こそ、少し意外でした」



 そう言って降魔と小清水はくつくつと笑い合う。


 どうやらこれで、商談成立ということになったらしい。



『じゃ演者のスケジュール調整はマストで頼みます。パワハラって言われない程度に上手くやってください』


「わかりました。色々お気遣いありがとうございます」



 ――おい、二代目。小清水との電話切るぞ。

 ――なにか、言っておきたいことあるか?


 ――じゃあ、一言だけいいか?



『……小清水さん、最後にひとつだけいいですか?』


「はいはい、なんなりとお伺いしますよ。夢見先生」


「――今度、紗々をいじめたらブッ殺すからな?」


 吐き捨てるように言い、返事を聞かずに電話を切った。

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