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売れっ子ブイチューバーは崖っぷち!? ~陰キャ声優の苦難~  作者: 縁藤だいず
4章 夢見降魔の浸食
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4-16 二年

『いまは冬か、寒いな』


 ポケットから二代目のスマホを取り出すと――画面ロックが勝手に解除される。


 すっげ、顔認証じゃん。

 二年目にはめずらしかった技術も、いまのスマホには標準装備のようだ。


 日付を確認、十二月二十三日の十六時。

 予定よりだいぶ早く体を取り返すことに成功した。


 ついでに前々からウワサされていた新しい元号も確認する。……なんかパッとしない名前だ。とはいえ古臭い感じもしないが。


 オレはその場でスマホを操作し、二年の間に世界がどれだけ変化したかを確認する。



 情報が欲しい。


 もし当時と世界のルールが変わっているのなら、以前の生き方と同じではうまく生きていけないかもしれない。


 人生なんて、ゲームみたいなもんだ。


 この世界では強いのは武器か、魔法か、それともレベルか金か。


 そんな情報も知らず行き当たりばったりで進めていたら、ゲームを有利に進めることなんてできない。


 自分のやりたいようにではなく、この世界で勝てるやり方で動かなければいけない。



 だが色々調べた結果、世界は大きく変質はしていないようだ。


 しかもDSはいまだに売り上げを伸ばしており、最新刊の単行本までアニメ化されているらしい。


 まだ夢見降魔の名前で、便利に生きていくことはできそうだ。



 さて、これからどうしようか。

 とりあえず以前のスマホデータが欲しい。


 そのためにはこのスマホを初期化し、クラウドからデータの復元をする必要がある。


 とはいえ、Wi-Fiと充電環境がないと心許ない。

 一番近くのネカフェは……徒歩十分ほど。


 ちょうどいい。

 しばらくはそこで寝泊まりし、落ち着いてから新しい生活を考えるか。


 久しぶりの自由な生活だ。


 読みかけだったマンガの最新巻も出てるだろう、しばらくそれでも読んでのんびり過ごしてやろうじゃないか。



 オレはそんな軽い気持ちで、二年ぶりの一歩を踏み出す。


 ……が、足に違和感。

 なにか後ろから引っ張られるような、妙な感覚。


 この体を操作するのは二年ぶりだ。

 うまく動けないのも仕方ない。魂と体が上手く定着していないのかもしれないしな。


 だが、どうにも足が突っ張って歩きづらい。

 そこでオレはジーパンの後ろポケットに、なにか入っていることに気付く。


『なんかゴツゴツしたのが入ってんな』


 俺は後ろに手を回し、入っていたものを取り出す。


 そこに入っていたのは、変哲もない小石だった。



『――っ!!』



 それを手にした瞬間、全身に激痛が奔る。

 その場にはとても立っていられず、また石塀にケツを預ける。


 ……なんだ、なんなんだこの石は!?


 なにかヤバいものなのかもしれない、早く捨てないとマズい!!

 だが石を握る腕は見えない力に掴まれ、ピクリとも動かせない。


 なんだ、どうなってるんだよ、この体は!?



「……それを捨てるなんて、とんでもない」

 心の内から、声が聞こえる。


「人生はゲームみたいなもんだ。……だったらわかるよな、”だいじなもの”が捨てられないことくらい」


 手に握っているのは、どう見てもただの小石だ。


 ゴミと言ってもいいような、その辺に落ちてる石となにも変わりがない。こんなものがだいじなもの……?



「降魔には、わからないよな。心配してくれる人を他人としか呼べないヤツには」


 口が勝手に動き、オレではない人物が喋っている。


「そんな石ころでもな、俺にとっては大事なモノなんだ。同じように大事にしてくれるヤツがいる限り……俺は絶対に消えるわけにはいかないんだよっ!」


 全身から、力が抜けていく。


 体から自由が失われ、体を蝕んでいた痛覚が抜けていく。


 当事者である感覚を失ったオレは、しがない傍観者へと戻っていき……




 ――”俺”は感覚を取り戻す。


 まだ、体内ではなにかが暴れている。


 第三者の考えが流れ込み、脳に軋むような痛みが走り続けている。


 ……でも、手に握っている物だけは離さなかった。


 そこに俺のすべてがあるからこそ、離すことができなかった。



 あの日、拾うことがなければきっと俺は自分をあきらめていた。


 誰に必要ともされず、誰にも知られないまま、擦り減っていくだけの存在として。


 でも、俺は拾った。

 まだ自分を見捨てたくなかったから。


 そして同じように大切にしてくれる人がいることを知った。


 もう二度と離すことは、できない。

 この小石には二代目《俺》を形作る、魂の記憶が刻まれているのだから。




「はあっ、はあっ……!」


 その場で深呼吸をし、体内を暴れまわる降魔を抑え込む。


『……奪い返されるとか、マジかよ』

「お前とはこの世に対する執着が違うんだよ」


『なわけあるかっ!』

 殴りつけるような怒声が耳に響く。


『オレだって死にたかったワケじゃない! その体にどんだけ未練残してると思ってんだ!?』


「じゃあ、どうして周りの忠告を無視したんだ」


『なに?』


「いつも言われてただろ、徹夜明けのツーリングなんてやめろって。……それを無視して、事故ったのはどこのどいつだよ!?」


『……』


「お前は周囲の人間を雑に扱かっただけじゃない。その助言を無視し、自分をも雑に扱った。その結果がこれだろ?」



 降魔は自分勝手な行動の末に事故に遭った。


 その結果起きたことに責任を持たず、未練だけを叫ぶなんて都合が良すぎる。


 もしこいつが次元和平を続ければ、また身を削るような生活が始まるのだろう。


 誰の声をも聞かず、自分本位な生活を。

 そしていつの日か同じようなことが起こり、また周囲を悲しませる。



『……だからって、事故に遭うなんて思わねーだろ』


「思えよ、免許取ったんなら教習所で色々習ったんだろ? 俺は知らんけど」


『あんなの真面目に聞いてるヤツなんていねーよ!』


「人の忠告を聞かないからそういうことになるんだ。お前は天才かもしれないけどな、周りの人を見下していいわけがない。それに降魔はどんだけ周りに愛されてるかを……」


『うっせーな! おかーさんみたいなこと言ってんじゃねーよ!』


「おま……お母さんって」



 言われて、ふと我に返る。

 確かに俺の話、なんか説教くさいな。


 というか降魔も降魔で、さっきから言動が子供っぽい。


 ……そうか。

 思えばこいつは十七歳の誕生日を迎える前に、事故に遭ったんだ。


 だとしたらこいつの精神年齢はそこで止まってるのかもしれない。



『オレは面白いマンガを書くのに特化してんだよ、創作極振りなんだよ! そーいうチャチなこと気にしてたら、チャチな大人にしかなれねーだろ!?』


「……ま、お前のマンガは確かに面白かったけどな」


『お前、DS読んだのか!?』


「読んだよ、DSもユーグレラも」


『ユーグレラ!? ……そういえばチラっと見たな、ユーグレラがゲーム化するなんて情報。あれは二代目の仕業か?』


「このままじゃ勿体ないしな。イヤだったか?」


『……いや。せっかく書いた作品だ、出たほうがいくらかいい』


「じゃあ俺に感謝するんだな」


『あ? 調子乗んなよ、無才能が』


「うるせ。お前こそなにが夢見降魔だ。厨二くさいペンネームでクソ偉そうに」


『う、うるせーな。デビュー当時は中三なんだから、仕方ねーだろ……』



 なんだ、厨二くさい自覚はあんのか。

 そう思うと、ふっと笑いが零れた。


 ……なんか、不思議だな。


 俺にとって降魔は、越えることができない神のような存在だった。


 そんな相手といま、こうして軽口を交わしている。


 この状況が不可解で、少し楽しくもあった。




「……ていうか、この激痛いつまで続くんだ? このままだと気でも失いそうなんだが」


『ひとつの体にふたつの魂は抱えられない。オレかお前、どちらかが消えるまでこのままだ』


「じゃあ降魔には早々に消えてもらわないとな」


『そうだな、消えるか』


「…………やけにあっさりしてるな?」


『仕方ねえだろ。その石、捨てられねえんだろ? なら仕方ないじゃねえか』


 それと、と降魔は付け加えるようにぼそりと言う。


『本当は簡単に奪い返せる予定だったんだけどな……』


「予定?」


『メッセージだよ。四次元存在から来てただろ?』



 四次元、存在?

 どうして、いまその名前が出てくるんだ?



『ま、細かいことはいい。ともかく体は取り返せなかった。それがすべてだ』


「お前は、これからどうなる?」


『還るんだよ』


「還るって、どこに」


『ん~、あの世みたいなとこかな』


「そんな簡単にあきらめられるのか?」


『ハハ、なわけないじゃん。……でも、どうしようもねーし』



 降魔の笑いは、どこか空虚だった。

 ひとことで言えば、あきらめようとしているように思えた。


 なぜ四次元存在の話が出てきたのかはわからない。こうして語り合える状況も説明がつかない。


 でもひとつだけ確実に言えることがある。


 ……こいつは体を取り戻すのを、楽しみにしていた。


 十七歳、当時は高校一年生。

 若くしてマンガ家という夢を叶えた、将来有望な少年だ。


 だが志なかばで事故に遭い、望みのすべてが断たれてしまった。

 その悲しみ、苦しみは俺が語れるようなものじゃない。



 だからこの体を譲ろう……とは思えない。


 刹那の憐憫で気前よくプレゼントしてしまえるようなものじゃない。


 いまだって紗々を待たせている。薫のことだってなんとかしてやりたい。


 でも降魔だって、同じだ。

 夢半ばで倒れてしまった一人だ。


 それに俺が降魔――次元和平の二代目として生まれなければ、紗々を救うことも知り合うこともできなかった。


 ……だったら、俺は。






「降魔、ひとつ頼みがあるんだ」


『頼み? これから消えるオレに、できることなんてないぞ?』


「かもな。だから交渉だ」


『だから言ってるだろ、オレはもう消えるんだって』


「…………二年、貸す」


『あ?』


「俺が今日まで生きて来た二年間。それと同じ分だけ、体を貸してやるって言ってるんだよ」


 降魔は、その話を聞いて黙り込む。


「さっき奪い返せる予定とか、魂が定着とかわけわからんこと言ってただろ? だったら魂同士で体の貸し借りみたいなこと、できないのか?」


『……できないことは、ない。けどいいのか?』


 逆に降魔が心配するように聞く。


『オレがその二年で魂を体に定着させれば、今度はお前が体に戻れなくなる。それでもいいのか?』


「俺の話はいい、やるのかやらないのか聞いてるんだ」


『……それなら、乗るけど』


「よっしゃ、じゃよろしく頼むわ」


『待てよ! お前はそこまでして……オレになにをさせたいんだよ!?』


「リテイクだよ。ユーグレラ、いまから書き直してくれ」


4章はここでおしまいです。

ここまで読み進めていただき、ありがとうございました!


最終章となる5章は9/7より更新再開となります。

応援のほどよろしくお願いします!



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