表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
売れっ子ブイチューバーは崖っぷち!? ~陰キャ声優の苦難~  作者: 縁藤だいず
4章 夢見降魔の浸食
59/85

4-5 残されるひとたち

「あ~、のどガラッガラ……」

「三厨さん、だいぶ薫に付き合ってましたからね」


「カラオケなんて久しぶりだったからね、テンション上がっちゃった」


 俺と三厨さんはまだカラオケボックス。

 薫だけは門限があるなんて言い、早々に帰って行った。


 どうやら先日の外泊が家族会議に発展したらしく、しばらくは門限を設定されたらしい。


 家族は放任主義みたいなことを言っていたが、どうやら愛娘の外泊は看過できなかったらしい。……なんか責任感じるな。


「でも良かったね。ユーグレラの件、意外と満更でもなさそうだったじゃん?」


「はい。きっと続けたい気持ち、残ってたんだと思います」


 それは先ほどのカラオケでも節々にうかがえた。


 薫は何曲か歌う内に興が乗ったのか、ノリノリでマイクを握り続けた。


 特に衝撃的だったのはホムラの声で演歌を歌い始めた時だ。


 上品なお嬢様テイストの声から繰り出される、暴力的なまでの声量。


 けれど囁くような声で艶のある表情を魅せたりと、完全に無料で聞いちゃいけない見せ物だった。いや飲食・場代は出したけど。


 まだ自分の声を活かしたいという欲求が残っているんだろう。

 マイクを握っている時の薫は、ホームランをかっ飛ばした時以上にいい笑顔をしていた。


「さてと、そろそろ私たちも帰る?」

「いえ、せっかくなのでここで話しちゃいましょう」


「話?」

「……やっぱり覚えてなかったんですね。言ったじゃないですか、話したいことがあるって言ったの」


「あ、ああ~、もちろん覚えてるよ~!」

「絶対、忘れてましたよね」


 三厨さんの言い訳に苦笑しながらオレンジジュースを飲み下す。


 氷が溶けて酸味はだいぶ薄くなっている。……あまり気付け薬としては使えなさそうだった。


「で、話って言うのはなに?」

「紗々のこと。……いえ、これからのことです」


 すると三厨さんは途端に色めき立つ。


「なになに、ついにさーちゃんとの未来を考えるようになった!?」

「……いえ、そうじゃなくて」


「じゃあ次元くんが就職する話だ! さすがに女の子にぶら下がったままはイヤだよね、いまから面接しよっか、はい合格ー! 明日から私の部下!」


「それも違います」


「え~、じゃなんだって言うのよ!」

 早口でまくし立てる三厨さんをたしなめ、咳ばらいをひとつして、言った。



「記憶、戻るみたいなんです。あと数日で」


「……え?」



 三厨さんの顔が、困惑が浮かぶ。


「記憶が戻るって……それって夢見くんの、ってこと?」

「そうです。三厨さんがアシスタントをしていた二年前の夢見降魔です」


「そっか。夢見くん、か……」


 三厨さんは呆然と中空を眺めていたが――急にハッとした表情で言った。


「いまの次元くんは、どうなるの?」

「きっと、いなくなると思います」


「いなくなる……って」

「俺は次元和平の中に生まれたバグだったんです。それが修復されて元に戻る。それだけの話ですよ」


「な、なに言ってんの? それじゃ、さーちゃんはどうなるの……?」

「その相談で、今日は来たんです」


 ――そう言うと同時、スマホが鳴り始める。


 発信相手は、あいにぃ。

 三厨さんに一言だけ断わり、通話に出る。


「おい和平~、そろそろ行ってもいいか? もうヒマでヒマでしょうがなくてさぁ」

「もういいよ、すぐ来れる?」


「十分くらいでいける、ウタヒロでいいんだっけ?」

「ああ。じゃまた後で」


 そう言って通話を切る。


「……いま電話してたのって、愛さん?」

「そう、あいにぃにも頼みたいことがあるから」


 俺が二人に話したいのは紗々のこと、これからのこと。

 言ってしまえば二代目としての身辺整理だった。



---



「私は絶対反対だよ。さーちゃんになにも教えてあげないなんて」

 三厨さんが声を震わせながら言う。


「紗々には悪いと思ってます、でも時期が悪すぎるんです」

「時期って……」


「ユーグレラの収録です。……自惚れかもしれませんが、俺が急に消えたと知れば紗々のメンタル、ひいては収録に影響が出るかもしれません」



 ――二人にはこう説明した。


 クリスマスイヴの深夜、次元和平は初代としての記憶を取り戻す。


 俺は事前に実家へ帰り、両親の前で記憶の復活を告げる。


 その時、あいにぃには側にいてもらい、降魔へ事情を説明してもらう。


 ユーグレラの発売までは新規の原稿発表、および公には姿を現さないで欲しいと。


 その代わり、約束を破らない範囲では好きに過ごしてもらって構わない。


 紗々にはあいにぃから説明、家庭の事情で俺がしばらく帰れない旨の説明。


 俺のスマホに連絡が来るかもしれないが……上手くやり過ごして欲しい。


 ユーグレラの発売が決まった後、紗々には説明して欲しい。

 ……初代の記憶が戻り、二代目の人格が消滅したことを。

 


「なにも知らせないまま、お別れするつもり……?」


「結果的に、そうなります」


「さーちゃんがかわいそうだって、思わないの?」


「……紗々にはすべて伝えるつもりでした。でもこうなった以上、収録が終わるまでなにも知らせないべきです」


「そうじゃなくてっ、私は次元くんがそれでいいのかって話を……!」


「――ミカちゃん」


 あいにぃが口を挟む。


「和平はサーシャの邪魔をしたくない、そういうことだよな?」


 俺は黙って、頭を縦に振る。

 でも三厨さんの言葉は止まらない。


「どうして、記憶が戻るなんて言い切れるの? 次元くんの記憶だって残るかもしれないじゃない!?」


「もちろん、その可能性もあります。……でも、そうならない予感がするんです。だとしたら用心しておくに越したことはありません」



 四次元存在や別人格の話をしても、受け止めてもらえるかわからない。余計に混乱させるだけだろう。


 あくまで俺と降魔の人格――魂は別物だ。

 別の人間が他人の記憶を思い出すことは、絶対にない。


 それはあいにぃや三厨さんの記憶を、自分の物にできないくらい当然のことだ。



「和平は、それでいいのか?」

 あいにぃが茶化したりせず、訪ねる。


「……いいよ、考えて決めたことだ」

「そうか。じゃあオレからはなにも言わねーよ」


「ちょっと、愛さん!?」

 三厨さんが批難めいた声で叫ぶ。


「ごめんな、ミカちゃん。悪いけどオレにとってはサーシャより、和平なんだ。こいつが《《遺言》》を残すってんなら、ちゃんと聞かなきゃいけない」


 三厨さんはそれを聞くと――顔面を蒼白にし、俺に頭を下げる。


「ご、ごめん。次元くんだって自分のことでいっぱいいっぱいなのに、私ったらなんてことを……」


「気にしないでください、三厨さんはそれでいいんですよ」


 そう、それでいい。

 三厨さんが心配するのは、紗々のことだけでいいんだ。


 俺がいなくなった後に紗々のケアができるのは、マネージャーだけ。


 仕事の多い三厨さんに対して任せてしまうのは気が引けるが……俺にはどうしようもない。


「あいにぃも、もし面倒でなければ紗々を支えてやってくれ」


「いいのか~、あんだけサーシャとオレを離したがってたのに?」


「しょうがないよ。……あいにぃが幸せにしてくれるなら、そっちの方が全然いい」


「バカ、真に受けんな」


 あいにぃはその瞬間、少しだけ憂いの色を見せた。


 ……よかった。

 ほんの僅かでも、俺にそんな表情を見せてくれて。



「話はこれで終わりです。……三厨さん。紗々のことお願いします」


 三厨さんは沈痛の面持ちで、俯いている。


「あいにぃも。面倒ばかりかける弟で、ごめん」


「気にするな、前もって言ってくれて助かる。……もう一人からはそれすらも聞けなかったからさ」


 ……そうだよな。

 降魔だってその日が境になるなんて、想像すらしなかっただろう。


 死とは前触れもなく、そしてあっけなく訪れる。


「和平の言ったとおりにする。……ただ考えが変わったなら、いつでも連絡しろよ?」


「わかった。それと、あいにぃ……」


 俺は体を向け、頭を下げて言った。


「二年間。俺の面倒見てくれて、ありがとう」


 すると俺の兄は相好を崩し、一言だけ「バカ」とつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ