4-4 傍観者、三厨天使
ということでやってきました、カラオケボックス。
対して向き合いますのは左手に次元くん、右手におわしますのはイガちゃん。
司会を務めさせていただきますのは、私こと三厨天使!
早くも両者……いえ、イガちゃんサイドが負のエネルギー爆発させています。
対して次元サイドは冷静……いや相応の覚悟をしてきたということでしょう!
しかぁし!? 次元くんはこれでいて流されやすく、すでにさーちゃんにも尻に敷かれている受け身体質!
そんな彼がイガちゃん相手に、どう立ち向かっていくのでしょうか!
……って、マジでどうなっちゃうのこれ!?
「今日は二人っきりで遊ぶんじゃなかったんですか。しかも声優の話とか聞いてないし」
イガちゃんが怒りを隠さず、次元くんを睨み据える。
「それは本当にごめん。でもこんな話、電話じゃ絶対断られるって思ったから……」
「実際に会っても、返事は同じだし!」
先ほど次元くんから、経緯説明が行われた。
今日の呼び出しは夢見降魔(実質本人)からの『夕暮れ、彼らは』の出演要請。
そしてユーグレラのあらすじと、配役アズサについての説明。
だだ最後までイガちゃんの表情は変わらない。
徹頭徹尾の般若面、それが傍目に見ていても恐ろしい……
「和平さん。かおるの話聞いて、泣いてくれたよね?」
「ああ。薫の気持ち、痛いほどわかったから」
「じゃあ、どうして? なんで和平さんまでかおるに過去を追わせようとするの?」
「過去の話じゃない、これは未来の話だよ」
いや、どういう意味だよ。
私にゃ全然わからんちんだよ。
そもそも次元くんがイガちゃん泣かせたって、二人はいつのまにそんな青春展開繰り広げたん?
つーか、あれっすね。
この歳になると「気持ちが痛いほどわかる」とか「過去を追わせようとする」とか、ちょっとキツイものがありますね。
二十歳になっちゃった、ヒャッハー! ……と騒いで早四年。
青春会話には第三者視点でしか見れないね……歳は取りたくないものだな、まったく。
「かおるには、もう声優の未来なんてないよ!」
「そんなことない。また踏み出すのが怖いだけなんだろ?」
「怖いよ、当たり前じゃん! だってかおる失敗したんだもん、干されちゃったもん! もう誰もかおるを使いたいなんて思わないよ!」
「だからチャンスを掴んで欲しくて誘ってるんじゃないか」
「そんな同情、嬉しくないよ! しかもブルーム主演の作品で脇役なんて……みじめにもほどがあるよ!」
まあ、そうだよね。
私たちも最初から気にしてたとこだ。
さて、次元くんはどうやってこれを丸めこむのかな。楽しみ~。
あ~もうお酒飲みたくなってきちゃった、勝手におっ始めたら怒られるかな?
「薫、言ったよな。挫折を知って成長したって。自分は特別な人間じゃなかったって、気づいたんだよな?」
「言ったけどさ……なにもみー先輩の前で言わなくたっていいじゃない。恥ずかしいし……」
あ、横にいたの覚えててくださいましたか。
ていうか、そのセリフ恥ずかしいんだ?
そこは普通に殊勝でかわいいな~って思ったから気にしなさんな。
でも、二年後くらいに今日の会話も全部黒歴史になるから覚悟しとき?
「だから今の薫だったら、どんな役でも真摯に受けてくれる。そう思ったから頼みに来たんだ」
ああ、そういうことね。
イガちゃんはもう謙虚なコになったから、みじめに思わずなんでも受けてくれるだろうと、そう言いたいのかな?
でもねえ、次元くん。
話のロジックは成立しても、人はなかなか理屈で動ける生き物じゃないよ?
女の子なんて特にね?
「そんなあげ足取りみたいなこと言わないでよ……あの時は褒めて欲しかったから、カッコイイことを言ってみただけだし」
「でも本心だろ?」
イガちゃんは少しだけ頬を染め、むすっとした顔をしている。
なに、イガちゃんって男の前で拗ねる時、こんなかわいい顔できんの? 鼻血出そう~!
「……でも実力で呼ばれたわけじゃないじゃん。和平さんが夢見降魔だから誘ってもらったって、そんなのなんかズルいよ」
「そんなの、紗々だって一緒だ」
おっと、そこでさーちゃんの名前を出しますか!
でも展開は見えてきたよ。
ただ、次元くん?
相手を論破しても意味ないよ?
問題はどう納得してもらうかだ。
さあさあ、腕の見せどころだよ!?
「あいつも最初は断ろうとしてたんだ。……ですよねっ、三厨さん!?」
オイ、ちょ待てよ。
このタイミングで、私に振るなよ。
……アレか、アレ言えってことか?
私がさーちゃんに説教したセリフ、もっかい言えってことなのか!?
そんな「お姉さま、あれをお願いします」みたいな目で見ないでよ!
私はお姉さまじゃないから「ええ、よくってよ」なんて、ノリノリでオッケーしたりしないからね!?
でも場は完全に私の発言待ち。
イガちゃんもそわそわと私の発言を待っている。
……めちゃくちゃ重たい口を開き、仕方なくあの時の言葉を復唱する。
「う、うん、言ったよ? ライバーと声優の仕事は全然別物、でもビビってチャンスを蹴るようなら成長はない。だから勇気を出して一歩を踏み出してみよ? って」
……改めて口にし直してみると全然シマんないなあ。
あの時はビシッとカッチョよくキメた気がしたけど、思い返してみるとお前何様感ハンパないな?
ともあれ、場は動き出したようだ。
私に恥ずかしい思いをさせたんだ、後は頼むよ次元くん……。
「紗々だって自信はないけど主役を受けた。いまでも声優に向いてない、なんて弱音も吐く。でも必死に頑張ってる。もし薫にも負けたくない気持ちがあるなら……薫にもチャレンジして欲しい」
さあ、話の筋は通った! イガちゃんはどう出る?
……って、なんか睨みに壮絶さが加わり始めてるんですけど!?
「和平さん。一ノ瀬さんの弱音とか聞いたりするんだ?」
「いや、まあ、一緒の家にいればそんな機会も……」
「住んでる!? こないだ一人暮らししてるって言ったじゃん!?」
「あ、いや一人暮らしだけど、いまはわけあって……」
「ウソつき! ホントは彼女なんでしょ! そんなの知ってたら一緒にホテルなんて行かなかったよ!」
は、え、ちょい待ち、ホテル!?
なになになに!?
この二人、いったいどういう関係なの!?
「かおるのお風呂だって覗いたくせにっ!」
「だからあれは覗いたわけじゃないって……」
「もう、最悪っ! やっぱり和平さん、チャラ男なんじゃん! みー先輩だってどうせモノにしてるんでしょ!」
おい!?
どうして私はオチてる前提なんだよっ?!
「そんなこと、どうでもいいだろ!」
えっ、どうでもよくないでしょ!?
まずは否定してよ、話はそれからじゃん!?
だが心の声は届くことなく、二人は真面目な話をする流れになっていた……
「かおるからも聞かせてください、和平さんはイヤにならないんですか?」
イガちゃんが落ち着いた声音で問い質す。
「言ってましたよね、昔の自分は嫌いだって。……でも和平さんはいま、自分から夢見降魔《過去》を振りかざすようなことしてます。そこに嫌悪感はないんですか?」
「……もちろん、あるよ。まんま虎の威を狩るキツネだし、なにも持ってない自分に嫌気がさす。でもそれを扱う資格があるのも俺だけだ」
「やりたくないなら、やらなくていいと思いますけど」
「やるよ。それが誰かの助けになるんだったら」
「なんですか、それ。自己犠牲のつもりですか」
「ただの自己満足だよ。それに俺は眠ってた名作、掘り起こしただけだし。そう考えればいいことをしたまで。……そうだろ?」
次元くんが冗談交じりに言うと、イガちゃんは大きくため息をついて頭を抱える。
「……はあ、おっかしいなあ。和平さんといれば、イヤなこと忘れさせてくれると思ったのに」
「イヤなことは忘れるんじゃなく、根本的に解決させたほうがいいと思うぞ?」
そう言って次元くんが、小さな袋を差し出す。
「ユーグレラの試作ディスクと、アズサの台本だ。読んでから決めてくれていい」
「……まだ受けるって決めたわけじゃないですからね!」
そう言って差し出された袋をひったくる。
――今日は、こんなところだろうか。
予想より、だいぶいい結果だった。
正直、話し合いにすらならないと思っていたのに。
事務所を辞める時なんて、もう誰の言葉も届かないほどに塞ぎこんでいた。
でも、そんな彼女が立ち上がるきっかけを手にしてくれた。……こんなの嬉しいに決まってる。
でも、期待をかけすぎても負担になるだけだ。
ここは少し引いてあげることも大事だろう。
「……無理は、しなくていいからね? 仕事とかそういうこと抜きに、私たちはイガちゃんの力になりたいと思ってる。だから困ったことがあったらなんでも相談して?」
そう言うとイガちゃんは少し照れ臭そうな顔で「……はい」と口にしてくれた。
「これで、和平さんの話は終わりですか?」
「ああ。……それとごめんな? 呼び出すためにウソついちゃって」
「それはもういいです。久しぶりにみー先輩と会えて嬉しいですしっ?」
そう言ってイガちゃんはわたしの隣りに腰掛け、肩を寄せてくる。
あ~懐かしいな、この感覚。
遠慮なく距離を詰めてくれる、人懐っこい昔のイガちゃんを思い出す。
「じゃ、もう仕事の話は終わりですねっ♪」
イガちゃんはフロントに繋がっている受話器を取る。
「あ、すいませーん。ポテチキふたつに、マルゲリータ。それにオレンジジュースひとつ。みー先輩はなに頼みます?」
「じゃ、烏龍茶で。っていうか食べるの?」
「はい。きっとかおるを騙したお詫びに、奢ってくれる人がいるっぽいんで?」
「……はは、お手柔らかに」
次元くんは覇気のない笑顔を浮かべている。
まあ、これは自業自得だけど。
「っていうか、二人ってどこで知り合ったの?」
「聞いてくださいよー、かおるナンパされちゃったんですよ、ナンパー」
「えっ、マジ!?」
「あ、あれはナンパじゃないって言っただろ!?」
――ようやく、肩の力が抜ける。
その後は食べて飲んで歌っての、普通に遊ぶだけの三人組になった。
私たちはデタラメな計画を立てたバツとして次元くんをイジり倒し、彼に魔法少女の主題歌や、聞いたことのない洋楽を歌わせてバカ笑いした。
イガちゃんと会ったのも半年ぶりだったし、久しぶりに積もる話なんかも出来て、とてもいい時間を過ごせた。
……だから私は忘れていた。
これから次元くんに相談したいことがある、なんて話をされていたことを。




