4-3 困った時は大人にブン投げろ
「ということで三厨さん。薫をユーグレラに誘うので一緒に来てください」
「一人で行けばいーじゃん!」
「そこをなんとかっ!」
「だ~か~ら~! 前にも言ったけど、ユーグレラは私の仕事じゃないんだって!!」
電話越しに聴こえる、三厨さんのうめき声。
今日も今日とて残業確定な仕事量が、まだまだ残ってるらしい。
「っていうかさ。ちょっと見ない間に、なにイガちゃんと顔見知りになってんの?」
「それはまあ……すごい偶然なんですけど」
「偶然じゃ済まないレベルだけど。てかイガちゃんにやる気はあるの?」
「微妙ですね。なので一緒に説得をお願いしたいんです」
「……なにそれ、S級クエストじゃん」
「でもうまくいけば小清水に恩も売れるし、ホムラ復帰のキッカケになるかもしれません」
「言わんとしてることはわかるけどさぁ……役残ってるの?」
「一応、速水さんに言って一枠確保しました」
「へえ、どんな役?」
「国王軍の二番槍、アズサです」
「いい役じゃん。でもさーちゃんのサポート役かあ……」
――薫が担当予定の”アズサ”は、物語の中盤で登場する引き立て役だ。
透香は異世界転生した先で槍の能力を買われ、王国軍から突撃隊長に任命される。
だが、これまで軍の一番槍を務めていたアズサが異を唱え、二人は公式試合にて決着をつけることになる。
しかし試合の当日、試合前の検分にて透香の槍に毒が塗られていた。
アズサ派閥の取り巻きが、透香を失格にするために仕組んだ罠だった。
だがアズサ本人はあくまで実力勝負での決着を望み、その勝負でボロ負けする。
だがその結果を踏まえた上で、アズサはこのような発言をする。
「これほど力の差があって毒など仕込むはずがない、よってこれは第三の手の者による陰謀だ!」
敗者自ら、透香の無実を証明する。
これによって透香もアズサを信頼し、背中を任せられる戦友になる……という、アツいキャラクターである。
「イガちゃん、やるかねえ……?」
「透香のサポート役ってところが気にはなりますが、キャラクター的にはいい役どころですし、薫にあったアツいキャラだとは思います」
問題は透香――紗々の引き立て役である点だ。
そこに拒否感を持たれる可能性は十分にある。
「でも説得なんてどうするつもり? 私からの説明じゃクソデューサーの存在がチラつくだろうし、変な拒否感持たれそうだけど」
「それは自分から説明します。俺が降魔の名前で交渉してきたって」
「え、夢見くんの名前って……」
「つい口を滑らせちゃったんですよ、俺が元夢見降魔だって」
「は? そんなあっさりと??」
「その辺はちょっと長くなるんで、省かせてください」
「次元くんがいいならいいけど、なんかモヤっとするなあ」
「なにがですか?」
「だってさーちゃんには、まだなにも言ってないんでしょ?」
「それは……はい」
「言うつもり、ないの?」
「……そのことで、ちょっと相談したいことがあるんです」
「ん、もちろんいいよ。イガちゃんと会った後にでも話そうか」
三厨さんは軽くオーケーしてくれたが、話というのはもちろん降魔復活のことだ。
――クリスマスイヴまで、あと四日しかない。
少しずつ後ろを固めていかないと。
「で、薫ちゃんとはいつ約束してるの?」
「明日か明後日くらいでお願いしたいんですが」
「急過ぎるよ!」
「すいません、時間があまりないもので」
「まあ、明後日ならなんとか……」
「恩に切りますっ!」
「……ていうかさ。イガちゃんと仲良くて、夢見くんバレしてるなら私が行かなくてもよくない?」
「そこはまあ……様式美ということで」
「なんのこっちゃ」
三厨さんは困ったように笑い、仕事に戻ると言って電話を切った。
実際のところ、三厨さんが間に入らなければいけない理由はない。
だが三厨さんをこの件に噛ませておかないと――クリスマス後に薫の頼る人がいなくなる。
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そして二日後。
やや日が傾き始めた午後三時、忠犬ハチ公像の前。
俺と三厨さんは電車遅延で遅れている薫を、いまかいまかと待ち構えていた。
「あ~なんか久しぶりに都内に出たってカンジ」
「アキバも十分都会じゃないですか」
「あそこは都会じゃなくてアキバだよ。見てみなよ、この街の普通臭」
確かにスーツを纏った社会人の数が桁違いだ。なにより女性が多い。
さすがは渋谷と言ったところか。
だが……
『サクラはみんなに届けたいっ! 新発売、ハピラキヌードル!』
スクランブル交差点の先にある大型スクリーンで、天ノ川サクラが叫んでいた。
「……アキバと大差ないかもしれませんね」
「世間的にブイチューバーが受け入れられてきたのよ。首領の偉業に感謝しないとね」
三厨さんは手を合わせて、サクラに黙礼をする。
ブイチューバーの運営に携わる三厨さんにとって、ブイチューバーの始祖であるサクラは神のような存在だ。
「で、ひとつ聞きたいんだけどさ。どうしてこれからカラオケボックスに移動なの? 普通にスタバとかでよくない?」
「防音対策がしっかりしてないと困るので」
「そりゃ非公開情報もりだくさんだけどさ……だったら会議室とかで良かったんじゃない?」
「会議室じゃ薫は来てくれませんよ、今日は薫と二人きりで遊ぶって名目で呼んだんですから」
「……は?」
「それと三厨さんはサポートをお願いします」
「なに、サポートって」
「薫とは百パーセント揉めますので、店員さんへの説明とか、困った時の助け船なんかをお願いします」
「ちょ、ちょちょちょっと待ってよ。話が全然見えてこないんだけど……」
「頼りにしてますよ、三厨さん」
俺はできる限りの笑顔を作り、三厨さんの質問を封殺する。
その時、改札から手を振る薫の姿が見えた。
いつもと変わらない満面の笑み。
……だったのだが、隣にいる三厨さんに気付くと、困惑した引きつり笑いに変わり……話ができる距離になると露骨に不愉快そうな顔で言った。
「なんで、みー先輩が一緒なんですか!?」




