表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
売れっ子ブイチューバーは崖っぷち!? ~陰キャ声優の苦難~  作者: 縁藤だいず
4章 夢見降魔の浸食
55/85

4-1 夕日丘ホムラが望むもの

 さて、色々ありましたが明けて翌日。

 クリスマスイヴまで、あと六日。



 今後に向けての気持ちも固まった、今日この頃。

 先日聞いた話をムダにしないため、俺はひとりの二次存在を呼び出していた。


「おい、ちょっといいか?」


 スマホの画面にはバーチャルくノ一こと、夕日丘ホムラ。

 奇しくも一夜を共にすることになった、五十嵐薫のブイチューバー。


「……なんの用ですの?」

「お前の演者と会ってきたよ、五十嵐薫」


「そうですか。それがどうかしまして?」

「元気でかわいげがあって面白い人だな。お前とは似ても似つかないくらい」


「ひとこと多いですわ。……でも、そうですわね。あの方は誰にでも好かれる、キレイな心を持っていらっしゃいます」


 懐かしい思い出に触れ、ホムラがふわりと優しく微笑む。


「それでお前に聞きたいんだけど。……薫は声優に未練があると思うか?」

「なんですか。藪から棒に」


「俺さ――また薫に声の仕事をさせてやりたいと思ってるんだ」


 ホムラの瞳が驚きに見開かれる。


「薫さまが復帰したいと仰ったのですか!?」

「いや、そういうわけじゃない」


 ホムラは肩を落とし、ため息をつく。

「……でしたら、なぜ急にそんなことを?」


「薫、元気をあまらせてるし、ずっと失敗した過去を引き摺ってるからさ。逆に仕事を再開させれば前に進むんじゃないかって思うんだ」


 薫と俺は過去の成功が原因で、今の自分を見てもらえない悩みを共有した。


 でも、そこにはひとつだけ決定的な違いがあった。


 俺は降魔としての才能を持たない以上、自分から打開することはできないが……薫にはいまも変わらない才能がある。


 もし薫に再挑戦する気力さえあるのなら、自分の過去を越えることで乗り越えられるかもしれない。



「でもやりたくない人にやらせても、仕方ないのではなくて?」


「本当に、やりたくないと思うか?」


「……薫さまが本心ではやりたいと?」


「わからない。だから教えて欲しいんだ、一番近いところで薫を見ていた夕日丘ホムラに」


 先日の態度では、薫がどうしたいか聞くことはできなかった。

 でも続けたいという気持ちがあるなら、背中を押してやりたい。


 俺が二代目として生きていられるのは、あと少し。

 なにか残せるものがあるなら、残してやりたかった。



「薫さまのために協力して欲しいということですか。……それはつまり、ブルームの味方をやめて、わたくしたちの側につくということですか?」


「俺には敵も味方もない。ただこのままくすぶり続けるのは薫らしくない、そう思ったんだ」


「あら情熱的ですこと、まさか薫さまにホの字ですこと?」


「ちげーよ。……お前ら二人して、ホの字って口癖なの?」


 ホムラは「あらやだ」という顔で、口元を抑える。

 ……なんだよ、そのおちゃめな仕草は。かわいいじゃないか。



「で、ホムラはどう思う? 一番近いところにいたお前なら、少しは薫の気持ちもわかるんじゃないか?」


「どうでしょう。所詮は薫さまとパートナーになれない程度の絆でしたから」


「でもそうやってパートナーになれなかったことを悔しく思うくらいに、薫のことは想っていたんだろ?」


「人の言葉尻を拾うなんて、いい趣味してますこと」


「なんとでも言えよ、ただホムラだって薫が元気になったほうが嬉しいだろ。……小清水と悪だくみなんかするよりさ」


「あら、気づいてらしたんですね」

 ホムラは俺の含みに気付いた上で、あっさりと認めた。


 やっぱり――ホムラは小清水とパートナー関係だったんだ。


「薫は紗々を恨んでないのに、ホムラはブルームへの敵意を隠そうともしなかった。だから考えたんだよ、ホムラに同調して紗々《ブルーム》を恨んでそうなヤツは誰だろうって。そしたら一番最初に思いついたよ」


 魂の上書きを可能にする立場の人間であり、薫の引退に心を痛めた人物。


「ブルームへの恨みと、薫の復帰という点で結託。魂の上書きを使えば両方同時に達成できる……だろ?」


「お見事ですわね」

 ホムラはさして興味もなさそうな顔で手を叩く。


「素晴らしい計画だったのに、よくも邪魔してくださいましたわね?」


「邪魔するに決まってるだろ。魂を消滅なんてタチの悪い」


「そんなタチの悪いわたくしに協力を求めるなんて、変わってらっしゃるのね。貴方にプライドはありませんの?」


「そんなのねえよ。言っただろ、敵も味方もないって」

 ホムラはこちらを値踏みするように見つめ、少し考えた後にこう言った。



「でも背中を押す先は、演者ライバーの復帰ではなく《《声の仕事》》ですのね?」

「……あ、やっぱり気付く?」


「当然ですわ。薫さまが夕日丘ホムラとして復帰するのでなければ、わたくしにはなんのメリットもない話ですから」


 そうなんだよな……。

 薫は過去の失敗をだいぶ引き摺っている。


 それに元同僚からの連絡にも辟易しているため、いきなり演者ライバーに戻る提案をしても、きっと断わられる。


 だから今回は小清水の戯言として放置していた、薫をユーグレラに推す案を採用するつもりだ。事前に降魔おれが速水さんに聞いたところ、ギリギリ役は確保できるとの回答はもらっている。


 だから現時点でホムラに対する直接のメリットは提示できない。


「で、でもっ、声優としての仕事をきっかけに、ライバーのやる気も取り戻すかもしれないだろ!?」


「たらればの話なんて聞きたくありませんわ」


「でもホムラだって薫が立ち直ってくれたら嬉しいだろ?」


「もちろん。というか貴方、変なところで正直ですのね?」

 ホムラは呆れたように、くすくすと笑い始める。


演者ライバーの復帰をさせるから協力しろと言っておけば、楽してわたくしの協力を得られたのに」


「そりゃ、バレるウソついたってしょうがないし」

 いずれは演者ライバーへの復帰も出来ればいいとは思う


 だが物事には順序がある。

 まずはやんわりと、出来そうなことから勧めていけばいい。


「薫さまがホライゾンに復帰することがあれば、小清水さまや演者ライバーもブルームへの立場を軟化させるでしょう。次元さまの狙いはそこじゃなくて?」


「……ご明察でございます」

「ふふ、一石二鳥の作戦というわけですわね」



 今日のホムラは態度がやわらかい。

 以前と違い、いまの俺は薫を知った上で話が出来ている。これは雲泥の差だ。


 二人はパートナーではない。

 だが薫とホムラは次元じげんを超えた移し身だ。


 そんな相手には自分同様、幸せになって欲しいと思うものだろう。

 だから俺は軽い気持ちで、再度訪ねてみた。


「それで実際のところ、薫にやる気はあると思うか?」


「ふふ、なにを仰っているのですか。次元さま?」


「なにって、薫がスムーズに復帰できる道をだな……」


「協力するなんて、一言も申し上げておりませんよ」

 笑顔を携えたまま、当然のように言う。


「わたくし、魂の上書きを提案した時点でブイチューバーの復帰はあきらめておりますの。だってそうでしょう? 薫さまがブルームの演者になっていたら、夕日丘ホムラとしての復帰は未来永劫ありえませんもの」


 ……確かにそうだ。


 ホムラはブルームに復讐するため、演者の変更で魂の消滅を画策した。

 そしてブルームに差し出される新しい演者は、他でもない自分の移し身だ。


 もしこれが成っていた場合、薫がホムラとして活動を再開する可能性はゼロだ。


 つまり。

 ホムラはとっくにブイチューバーとしての復帰をあきらめていたということだ。



「次元さまはわたくしを敵ではないと仰いました。ですがわたくしは貴方たちを敵としか思っていませんのよ?」


 ホムラの浮かべている意味が、変化する。


 それは最初からそうだったのかもしれない。

 だが、俺には先ほどとは見える印象がまったく別のものになっていた……


「わたくしが望むのはブルームの消滅、ただそれだけです」

「……本気か?」


「はい。薫さまが許していようが関係ありません。やられたらやり返す、わたくしがやり遂げたいのはそれだけなんですよ?」


「やめとけよ、紗々とブルームは前より強い関係で結ばれた。もう魂の上書きなんて出来ない、そんな状況でどうやって復讐なんてするんだ?」


「別の方法を考えます。もう小清水さまとのパートナー契約も切れました。幸い、事務所ホライゾンにはブルームに反感を持つ方がたくさんいます。別のパートナーを探してもいいし、パートナーを持つ二次仲間をそそのかしてもいい。どんな方法を使ってでも――ブルームには必ず復讐します」


「そんなに、ブルームのことが憎いのか?」

「はい。一度目の死を迎えたわたくしは、無敵の人ですのよ?」



 真の敵対者は、そう言って無邪気に嗤った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ