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売れっ子ブイチューバーは崖っぷち!? ~陰キャ声優の苦難~  作者: 縁藤だいず
3章 陽キャヒロイン、五十嵐かおる!
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3-14 拗らせ男と、肉食系女子

「和平さん、もう逃がしませんよ?」


 妖しく光る、薫の瞳。

 蛇のような毛先が胸元を撫で、暖かな息が鼻にかかる。


 半端に巻かれていた帯はだらりと垂れ、バスローブに包まれていた肌が露わになる。


「ふふ、そんなに怖がっちゃって。……かわい」


 喉の奥を掴まれたように言葉が出ない。

 魔法でもかけられたかのように全身から力は抜けていき、指先が体を這う様を眺めることしかできない。


「かおる、男の人に泣いてもらったのなんてはじめて。……本当にうれしかったんですよ?」

 瞳を細めた薫が、眉を寄せて微笑む。





「とても優しい和平さん。それなのに自分を好きになれないなんて、かわいそう」



 ――昔の自分も、いまの自分も、好きになんてなれない。


 同じ体に選ばれた魂なのに、なにひとつ降魔に敵わない。

 心の奥底には劣等感が横たわり、忘れた頃に心を冷たく撫で上げる。


 降魔を知る人はみんな俺に降魔を求めている。

 そして俺自身が降魔でないことに罪悪感を抱いている。


「だから決めたんです。かおるがその分だけ好きになってあげるって」

 ……薫の言葉はとても優しく、甘美な響きがした。


 いつも明るくて面白くて。

 恨んでもおかしくない人を許せるほどに寛容で。


 過去の幻影に追われる辛さは、唯一理解できる感情で。

 好意を向けられる理由に納得できる、無二の人。


「吐き出していいんですよ? やつあたりしていいんですよ? かおるだったら全部受け止めてあげられますから」

「どうして……?」


「決まってるじゃないですか、かおるが和平さんを欲しいからですよ?」


 薫は許してくれる、求めてくれる。

 こんな弱い俺を受け入れてくれる、俺の悲しみをわかってくれている――




 ……本当に?




 たった数回しか会ってない俺を、どうして求めてくれるんだ?


 ……なにか理由がある?

 求める理由、優しくする見返り。


 でも俺はなにも持っていない。

 だったら理由なんてひとつしかない、それは――




「俺が、降魔だからか……?」





「……違うよ」


 薫はつまらなさそうにため息をつき……俺の手首を離した。


「あ~あ、冷めちゃった。」


 そのまま俺に背を向けてバスローブを脱ぎ、私服に着替え始める。


「……なにやってるんだ?」

「かおる、帰ろうと思って」


「帰るって……もう終電、ないだろ?」

「だって、仕方ないじゃん!」


 薫は不機嫌そうに……というか怒ってるよな、これは。

 ……さすがに怒られるようなことを言った自覚はある。


 あそこまで言ってくれた人を撥ねつけたんだ。

 そんな男と同じ場所にいたいとは思わないだろう。


 でもこんな時間に、女性ひとりを歩かせるわけにはいかない。


「だったら俺が出るよ。気分悪くさせてごめんな」


 そう言って立ち上がる――が、不意に強い立ち眩みに襲われる。

 体のバランスを崩し、倒れそうになったところを……薫に支えられてしまった。


「なにやってるの、まだ本調子じゃないでしょ?」

「でも、しょうがないだろ。嫌われるようなことしたんだし」


「……別に、嫌いなんて言ってない」

 薫は拗ねたように、唇を尖らせる。


「なら朝までは一緒にいてくれ、このまま帰すのは心配だ」

「言い方。……勘違いするような言い方、しないで」


 涙目でむくれながら言う。

 その表情を見て――俺は本当に薫を傷つけたのだと実感した。


「……その、ごめん」


 薫は謝罪に応えない。

 不満そうな顔は浮かべつつも、袖は握ったまま放さない。


「かおる、まだあきらめたりしないんだからね」

「え?」


「かおるのために泣いてくれる人なんて、いないもん。そんな簡単にあきらめたりしないんだから」

「……あまり、オススメはしないけど」


「いいの、あきらめるの苦手だし」

 薫は少しだけ笑ってから深呼吸をし、真面目な顔を作る。


「かおる、応援してるから。和平さんが自分を好きになれるように」


 ――その言葉に、心が揺さぶられる。

 薫は俺の一言で、なぜ断わられたのかすべて理解したんだ。


「自信のない自分を好かれても……困るよね? かおるもそうだったのに焦っちゃった。……困らせてゴメンなさい」

「謝るなよ、俺が悪いんだから」


「ううん。悪いのはかおる。それに年上がいつまでも駄々こねてたら、おかしいよね?」


 ……メンタル、強すぎかよ。

 俺が女だったら違いなく惚れてるな、これは。


「それにしても和平さん、だいぶ拗らせてるね?」

「ぐ……うるさいな」


「でも、そのほうがちょっと燃えるかも。攻略のしがいがあるし」

「俺は乙女ゲーの攻略対象じゃねえ」


「わかってますって~! ……それより朝までなにします?」

「え、普通に寝るんじゃないのか?」


「なに言ってるんですか、もったいない! せっかく和平さんを独り占めできるのに!」

「独り占めって、あのな」


「それともナンですか~? かおるに赤っ恥をかかせた和平さんに、選択権があるとでも思ってるんですか?」

「いえ、失礼しました。仰せのままに……」


「わかればよろしい」



 薫はふんすと鼻を鳴らし、胸を張る。

 ……俺はもう薫に頭が上がらないのかもしれない。


「じゃ、大富豪でもしましょうっ!」

「部屋にトランプなんてあったか?」


「アプリですよ、アプリ。ネットで知らない人もまぜれば複数人でできるし」


 ……なるほど。

 いまの時代、スマホがあれば本当になんでもできるな。


「あ~ホムラのアカウントで入るとマズイか、一回アプリ消そっ」

 薫はひとりでぺらぺらと喋り、いそいそとスマホを操作する。


「昔はリスナーとでもやってたのか?」

「そ、視聴者参加型。かおるは一ノ瀬さんと違って、ゲーム配信ばっかりだったし?」


「そうか。一ノ瀬さんと、違って…………」



 一ノ瀬さん。



 ホテルに宿泊。



 午前一時。



 着信履歴、六件。



「あああああああああぁぁっ!!」



「うわ、なに急に叫んでるんすか。ビビる……」



 マズイ、マズイ、マズイっ!

 紗々に、なにも連絡してないっ!!

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