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売れっ子ブイチューバーは崖っぷち!? ~陰キャ声優の苦難~  作者: 縁藤だいず
3章 陽キャヒロイン、五十嵐かおる!
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3-7 二代目として生きるために

 スパイ大作戦から数日。

 俺たちは特に変化のない毎日を過ごしていた。


 小清水から聞けた情報は興味深くはあったが、これからの活動に役立てるようなものではなかった。紗々の入れ替え騒動は、五十嵐ホムラに固執した小清水の迷走とわかっただけ。


 今後の課題は、紗々が事務所で肩身の狭いを思いをしないこと。

 いわば同僚ライバーたちと、いかにうまくやっていくかという話だ。


 だが三厨さん曰く、紗々の立場はユーグレラの主演を機にだいぶ変わってきたらしい。



「改善ってわけじゃないけど、さーちゃんにちょっかいを出そうって考えるコは少なくなったみたい」


 紗々《ブルーム》の影響力は、もうホライゾンという事務所ハコに留まらない。


 夢見降魔とのコラボ、主演声優デビュー、そして白鳥本社の庇護。

 俺が揶揄したようなホライゾンという村社会で収まらない、大きな手が多数入っている。


 小清水主導で進めていた入れ替え騒動も、その煽りで吹き飛ばされたのは周知の事実。

 紗々に手を出せば、どんな蛇が出てくるかわからない――触らぬ神に祟りなし、といった状況らしい。


「だからさーちゃんに聞いてみたの。いっそのこと、みんなと無理に仲良くするのはあきらめない? って」


 ホライゾンの一期生は横展開コラボを始めとした、みんなで仲良く数字を伸ばそうというスタイルだった。

 しかしリーダー格となるホムラがいなくなったことで、紗々《ブルーム》への反感が生まれた。


 だがホライゾンに新たな風を吹かせた紗々が、その流れに乗る必要はない。

 ひとりでも十二分に活躍できるし、横展開コラボ前提の旧体制にこだわる理由もないだろうと。


 五十嵐ホムラの件は紗々が頭を下げることでもない、周りが最初から勝手に嫌っているだけ。

 ……だとしたら、もう嫌われたままにしてもいいんじゃないか? という話だ。



「紗々はなんて言ったんですか?」

「出来ればそうしたくないって。むしろみんなに実力を認めさせて、褒められたいんだって」


 受話器越しの三厨さんは、どこか誇らしげだ。


「プロデューサーも愛さんの前で言ってたでしょ、さーちゃんは天才だって。だからいつの日か直接認められたいんだって。そんなこと言われたら、背中を押すしかないじゃん?」


 前向きというか、かなり挑戦的な発言だ。


「ユーグレラの主演が決まってから、さーちゃんは責任感を持つようになったよ。……まあ私がそうなるよう仕向けたんだけどさ。とはいえ少し心配でさ、その点を改めて次元くんにお願いしたくて」


「わかりました。これからも立派に紗々のアシスタントを務めて見せますよ」

「はは、よろしく。……まさか夢見くんが誰かのサポート役に就くなんてね」


「俺は夢見くんじゃありません、誰かのサポートしかできない、二代目の次元和平です」

「ごめん、そうだったね。頼りにしてるよ」



 ――そんな話をした日の夜。

 早速、メンタルをやられたよわなめくじが帰ってきた。


「わたしには声優の素質がないのかもしれません……」

「なに言ってんだ。お前に素質がなければ、ほとんどの声優に素質なんてねーよ」


「カズくんはわたしを甘やかしてばかりなので信用なりません」

「ひざまくらしろと言っといて、ひどい言い草だな」


「これは別腹です」

 ひざの上に転がっているのは紗々の小さな頭。


 帰りは日に日に遅くなり、疲れもたまっているのだろう。

 今日に至っては家に着くなり、フローリングに寝転がり「ひざまくら」とだけ言って動かなくなってしまった。


 目にかかりそうな長い前髪を撫でると、気持ちよさそうに目を細める。

 髪の毛を振り乱し、ぐりぐりとひざに頭を押し付けるさまは小動物のようで愛らしい。


 だが口から出てくる言葉はネガティブばかり。


「もう仕事に行きたくありません」

「こら、そんなこと言うな」


「声優の仕事、思ったよりずっと大変でした」

「三厨さんも言ってたしな、ライバーとは全然違うって」


「あれは全身運動、いえ肉体労働です。クレバーな陰キャには最も向いてない仕事です」


「なに言ってんだ。声優になりたくないヤツが歌ってみた動画投稿したり、ライバーを始めたりしないだろ。俺はカッコイイと思うけどな、そうやって夢を掴んだお前のこと」


 紗々はくるりと顔を横に傾け、赤い耳を上に向ける。


「……運が良かっただけです。わたしの喉がたまたま世間にウケる形をしていたんです」

「じゃその幸運に感謝しないとな。ほら喉ケア」


 ポケットに詰めておいたハチミツのど飴を、紗々の口に放り込む。


「どうしてもつらい時は休んでいいだぞ? 体を壊したら元も子もないんだから」

「……休んだら周りの人に迷惑をかけます」


「いいんだよ、困らせとけ。お前がいなきゃユーグレラは成り立たないんだから」

「そんなわけにはいきません。夢見先生の作品を最高のものにするために、みんな本当に頑張ってるんですから」


「だったらあまり根詰めるな。もし体調が悪そうにしてたら閉じ込めてでも家から出さないからな」

「……! 白なめくじを監禁するつもりですか」


「ああ、監禁してやるとも。……手始めに、こたつに閉じ込めてやろうか?」

 紗々の表情が、驚愕に染まっていく。


「アレさえあれば俺が手を下すことなく、白なめくじからこたつむりへと進化を促され、二度と外に出ようとは思えなくなる」

「そんな、まさかっ。すべての生き物から気力を奪ってしまう、あの快楽拘束具をっ……!?」


「そうだ。あの快楽を味わった者は、二度と陽の光を浴びることはない」

「イヤですっ! わたしにはまだやらなきゃいけないことがあるのにっ!」


 紗々は両手で顔を隠し、いやいやと頭を振っている。

 それにしてもこのなめくじ、ノリノリである。


「冗談はさておき、本当にこたつ買ってくるか?」

「……ズくんが、いいんでしたら」


「家主はお前だろ、決めていいぞ」

「欲しいです。二人で入るなら空しくないですし」


 なにげない言葉に、胸が暖かくなる。


「……そしたらみかんでも買ってくるか、喉にもいいしな」

「はい、いまから楽しみです」


 なんか、いいな。こういうの。

 紗々との間に、暖かく穏やかな時間が流れていく感覚。


 もしかすると、こういう時間を人は幸せと呼ぶのかもしれない。


「さてと、そろそろ晩飯の用意をしないと。紗々は風呂でも入ってこい」 

 紗々の頭をぽんと叩いて体を起こし、俺は立ち上がってキッチンへ向かう。


「……あの、カズくん」

「うん?」


 廊下のドアから顔をぴょこんと出す紗々と目が合う。

 すると、紗々は少しためらいがちな表情で、


「こたつがなくても……カズくんがいれば、わたしはかたつむりですからねっ!」

 と言って、浴室に走っていった。



 ……は?


 なんだよ、いまの。


 いったいぜんたい、どういうことだってばよ……?



「あらあら、カズ~。だいぶママといい感じじゃーん?」

 いつの間にか、流し台の横に虚像のブルームが腰掛けている。


「お前にはいまの言葉の意味がわかったのか?」

「あたぼーよ、ボクを誰だと思ってんのさ」


「じゃ、どういう意味だよ」

「大好きってイミさ!」


 ……そうなのか?

 いや、なんとなく好意的な言葉だった気はするけど。


「まったく妬けちゃうよなあ~? ほら、そうとわかったらすぐに追いかけて壁ドンからのチューだ!」

「チューって、お、お前な。自分のママを襲うように仕向けるんじゃねえ!」


「バカはカズだろ!? ボクだってママとおしゃべりしたいの我慢して二人にしてやってるのに、カズがなんも起こさないんじゃ意味ねーだろーがぁ!」


 ブルームに言われて、ふと真顔になる。


「……よくよく考えるとさ、俺たちの会話って全部お前に聞かれてるんだよな?」

「そーだよ、いまさらなに言ってんの?」


「うわ……急にめっちゃ恥ずかしくなってきた」

「は?」


 唐突に頭の中を駆け巡る、恥ずかしいワードの走馬灯。



『紗々が右目で、俺は左目』

『頭の湧いた事務所に、大事な紗々を預けてなんておけねーよ』

『俺はいま、ひざまくらしたそうにお前を見ている』



「うおおお、死にてえ……」

「まったく情けないな~。世間の人々はもっと恥ずかしい言葉を囁き合って恋人になるんだよ?」


「マジかよ。黒歴史と恥辱の言葉を積み重ね、その上に成り立つ関係性。それが恋人……」

「卑屈すぎかよ。……ある意味、真理かもだけど」


 ブルームは引きつった笑いを浮かべながら「でも」と続ける。



「ボクはね、カズにも幸せになって欲しいんだよ?」

「なんだよ、急に」


「ママは夢に向かって歩み始めたけどさ、カズにはそういうのってないんだろ?」

「それはまあ……確かにそうだけど」


 この体に二代目として生まれて約一年。

 俺は特に目的のない毎日を過ごしてきた。


 四次存在から飛んでくる任務をこなし、日々を消化するだけの毎日。任務の対象となった人と交流を持ち続けたのも今回が初めてだ。


「カズ自身の生きる理由みたいなもの、見つけてみたら? そしたらつまんなさそーな仏頂面とか、生意気な言葉遣いも良くなるかもしれないだろ?」

「大きなお世話だ」


 ……でも、そうだな。


 確かに俺はその日の生活や、過去に起きたことにしか目を向けて来なかった。

 俺は才能をなくした降魔の抜け殻で、先に待つのは変わり映えのない毎日だと思い込んでいた。


 でもそんな思い込みをしているからこそ、そんな未来を引き寄せてしまうのかもしれない。もし、未来を変えようとするのなら、抗うことができるのは俺しかいない。


 暗い部屋で引き籠っていた紗々だって、いまや自分の力で歩み始めた。

 三厨さんだって降魔の引退を機に、マンガ家の道に蓋をしてVライバーのディレクションを始めた。


 みんな変わらずにいられない。

 だとしたら俺だって……このままではいけないのだろう。



「少し、考えてみるか。ずっと紗々にぶら下がってるわけにもいかないしな」


「……えっとぉ、それはそのままでもいいんじゃないかなぁ? ほら専業主夫をやりながら内職をするって方法もあるし! そうだカズもブイチューバーになろうよ、目指せバ美肉!!」


「イヤだよ、不特定多数と会話するなんてかったるい」

「ほらほらほら! そ~いうとこだよっ、他人にだってサービス精神を見せてかないと!」


「リスナーをディスりまくってるお前に言われたかない」

「しょーがないじゃん! ボクってばディスってもみんなに好かれちゃうんだからさっ!」


 きゃぴるん、っとウインクをしてブルームは姿を消す。



 ……さて、いつまでもボーっとしてる場合じゃない。


 とりあえずは今日の晩飯だ。

 もたもたしてたら姫がお腹を空かして暴れ出すからな。

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