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売れっ子ブイチューバーは崖っぷち!? ~陰キャ声優の苦難~  作者: 縁藤だいず
2章 転生、にこたまブルーム
34/85

2-13 カズの役割

 同日夜。

 ホライゾンから帰ってきた紗々がキッチンに駆け込んでくる。


「ただいまっ! カズくん、配信見てくれましたか!?」

「見たよ。リスナーの反応良かったな」


「はい! 叩かれたらどうしようかな、って思ってました」

「大丈夫に決まってるだろ。いいから先に手洗ってこい」


「わかりました……わあ、今日はステーキですか!?」

「ネギトロもあるぞ。お前、好きだったろ?」


「大好きです! 今日はどうしたんですか、お祝いですか!?」

「そりゃお祝いだろ。紗々とブルームの新しい門出の日なんだから」


「嬉しいです、ありがとうございますっ!」

 紗々が俺の腰に腕をぎうっと回す。


「……いいから手を洗ってこいって」

「もう、カズくんは照れ屋さんですねっ」


 そう言うと逃げるようにスタコラと洗面所に去っていく。

 俺はそんな紗々の様子に口元が緩ませる。



 ――少し前、三厨さんと電話をした。


 その時に俺は、とある任務を厳命されていた。

「さーちゃんをね、たっくさん甘やかしてあげて欲しいの」


「……俺が、ですか?」

「それが出来るのは次元くんだけだからね」


 三厨さんは迷いなく言う。


「さーちゃんはこれからが一番の売り時になる。きっと怒られることや、理不尽なことがたくさん起こると思う。その時にさーちゃんが愚痴を吐いたり、支えて売れる人がいて欲しいの」


「それは……三厨さんでもいいんじゃないでしょうか」

「私はダメだよ。あくまでも仕事付き合いだし、立場も違う。さーちゃんの演技にリテイクを出し、厳しいことを言うのは私なんだから」


 先日の出来事が頭を掠める。

 実力で選ばれてないといぶかった紗々に「当たり前だ、甘えるな」と灸をすえた。


 ――あの問答は三厨さんから出された条件だった。

 ユーグレラを使ったブルームの復活劇は、三厨さんと打ち合わせて決めたことだ。


 だが、タダでオーケーしてもらったわけじゃない。

 紗々に本気でやる覚悟が見えない場合、ユーグレラには絶対に出演させないという約束だ。


 ホライゾンのディレクターも、降魔のアシスタントも三厨さんは本気でやっていた。だから生半可な気持ちで重要な役どころはやらせない。そこは頑として譲らなかった。


 三厨さんはプライドを持ったクリエイターだ。

 中途半端な覚悟でその仕事を任せるわけにはいかない。


「わたしもさーちゃんのことは好きだし、仲良くしたい。でも私はあくまで関係者、そんな立場の人間が励ましてもウソくさくなる。だから支えたり愚痴を吐けるのは一歩離れたところにいる人……次元くんなんだよ」


「そんなこと、俺に出来るでしょうか……?」


「出来るよ。クソデューサーにボロクソ言われた時だって、次の日にケロッとしてたじゃん? あれは次元くんがやったことだよ」


 小清水に会った日。

 癇癪を起こしただけの俺に、紗々は自分のために怒ってくれたと喜んだ。


 そして自分を甘やかしすぎだと怒り、俺のことをカズくんと呼んで、笑顔を見せるようになった。


「だから次元くんこそ、自分に自信を持って。それは夢見くんじゃなくて、君にしかできないことだよ」




「はい、ブルーム! わたしの代わりに食器の配膳をしてください!」

「え~、なんでこういう時だけボクに体を譲るのさ」


 ご機嫌だった紗々がダウナーなテンションになっている。

 どうやら体の主導権はブルームに移っているらしい。


「ブルームだって食べたいでしょ、ネギトロ丼。持っていったら今日は長めに体を貸してあげます」

「う~ん、まあそういうことなら……」


 渋々といった様子で、紗々《ブルーム》が俺の隣に寄ってくる。


「……よっ」

「おう」


 ブルームが少し照れ臭そうに挨拶をする。

 先ほど俺の前で涙を見せたのだ、少し気恥しいのかもしれない。


「どれ、持ってけばいい?」

「ステーキは俺が切ってから持っていくから、紗々……じゃなくてブルームは冷蔵庫からネギトロとサラダを出しといてくれ」


「はーい」

 ぶっきらぼうな口調で淡々と配膳を手伝ってくれるブルーム。

 その光景を見ていると……なぜだか少し暖かい気持ちになった。


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