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売れっ子ブイチューバーは崖っぷち!? ~陰キャ声優の苦難~  作者: 縁藤だいず
1章 陰キャ声優、白なめくじ
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1-9 ちゃらちゃらしてんじゃねーよ

 翌日、駅前のファミレスで紗々のマネージャーと会うことが決まった。


 身支度を済ませた紗々を拾い、マンションを出る。

 モノトーン調のブラウスに水色のロングスカート。


 派手さはないが目立つ外見は隠せない。

 どうしても集めてしまう注目に、伏し目がちで隣を歩いている。



「やっぱり紗々は目立つな」


「そんなの望んでません。わたしはもっとひっそりと生きたいです」


「でも声優にはなりたかったと」


「はい。あるアニメに影響されてから、自分の声で人に感動を与えるのが夢だったんです」



 そう話す紗々の顔は明るい。

 いままで見た中で一番いい顔をしている。



「でもブイチューバーになったら、アニメへの出演は難しくないか?」


 基本、企業系ブイチューバーは専属契約だ。

 ライバーとしてデビューした以上、他企業への出演はご法度のはずだ。



「別にアニメにこだわるつもりはありません。ブイチューバーでも感動は与えられますし……余計なこともついてきません」


「余計なこと?」


「あるじゃないですか。最近はアイドルみたいにライブしたり、顔出しをしてバラエティに出たり」


「ああ」



 確かに最近の有名どころは当たり前に顔出ししてるな。


 むしろそれをウリにしているようなところもある。



「人前に出るなんてわたしには無理です。それにアイドルみたいなちゃらちゃらしたことはやりたくありません」


「なんだよ、ちゃらちゃらって」


「ちゃらちゃらは、ちゃらちゃらです」


 真剣な顔で言う。

 が、あまり伝わってこない。



「だからわたしはブイチューバーになれて満足しています。それにブルームとも会えましたし」


「ボクも会えて嬉しいよ、ママ!」


 声を出したのは紗々のポーチに留めてある……ブルームの缶バッジ。


 ブルームはいま、缶バッジに意識を預けている。


 二次存在は自分の描かれた媒体グッズに意識を預けることができる。


 一枚絵、フィギュア、タペストリー、個人の落書き。なんでもいい。


 ブルームに水道が出しっぱなしと指摘されたのも、脱衣所にブルームのバスタオルが掛かっていたから。そこでブルームは水道を()()わけだ。



 俺が電気街通りを嫌うのもそれが理由。


 あの通りには無数のキャラクター広告が掲示されている。


 意識的に彼らの声をシャットアウトしないと、四方八方から話しかけられ頭が割れそうになる。



「……ていうか不親切ですよ、ツギモトさん」


「なんの話だ」


「ブルームの話です」


 紗々が不満げに言う。


「ツギモトさんが帰った途端、ブルーム視えなくなっちゃうんですもん。びっくりしちゃいました」


「俺も知らなかったんだよ。二次元のキャラクターが見えたの初めてだったし」



 紗々の話では俺が帰った途端、ブルームの姿は見えなくなってしまったらしい。


 元々、二人はパートナーなので媒体グッズを介して話はできるが、ブルームが虚像化するためには俺が側にいないとダメらしい。



「どういう原理なんでしょうね」


「まあ、はっきりとしたことは言えないけど……二人で同じ存在を視たからじゃないか?」



 俺の言葉に紗々は小首をかしげる。

 まあこれだけ言ってわかるはずもないよな。



「紗々、指を一本立ててくれるか」


「なんですか、急に」


「いいから」


 紗々はその場に立ち止まり、ひと差し指を立てる。


「そして指を片目だけで見てくれ」


 言われた通りに片目を瞑る。


「そうしたら今度は閉じる目を反対にして、そしてまた戻す。すると指の見える位置が少しだけ違うだろ?」


「はい」


 言いながらも紗々は何度か繰り返す。


「で、今度は両目を開く。すると目の前にはいつも見ている指が見える――立体的に」


 紗々がこちらに視線を戻す。


「細かい話は俺も詳しくない。でも二つの視点があって正しい姿が見える、立体視ってやつだったかな?」


「言ってること、わかります。片目だけでは奥行きはわかりませんが、両眼で見ると立体的に見える。科学の番組で聞いたことがあります」


「だから多分、俺たちは二人揃うことでブルームの虚像を知覚できるんだ。紗々が右目で、俺は左目って具合に」


 俺はすべての二次存在を知覚でき、紗々はパートナーとしてブルームを知覚できる。


 これが正解かどうかはわからない。

 だが、これ以上に納得いくような理由を思いつくことはできなかった。



「わたしが右目で、カズヒラさんが左目……」


 紗々は俺が先ほど口にした言葉を、熱に浮かされたように繰り返す。


 ……正直、クサいセリフだったと自覚しているので忘れて欲しい。


 この話は続けたくないので声優の話に戻そう。



「そういえばアニメに影響されて声優になったんだろ、なんのアニメだったんだ?」


 すると紗々は喜色満面、よくぞ聞いてくれましたと鼻息を荒げる。


「ふふふ、よくぞ聞いてくれました。わたしが声優を目指したアニメ、それはDimension Summonerディメンションサモナー、通称DSです!」


 ――え。


「わたし、DSの大ファンなんです! 二十五巻まで出てる原作は十七周、アニメは十二周も見ちゃいました。あ、これは通しで見た回数で、もちろん好きなシーンは別腹で見てますよ? 特に十一巻と二十二巻はたくさん泣きました。アニメの完成度は言わずもがなですね、声優の櫻木さん演じるアーデルハイドが本当にハマり役でっ……!」


 紗々がやたら早口でまくし立てる傍ら、冷や汗が止まらない。


 ……やべえよ、やべえよ。


 スタジオホライゾンのバックが白鳥出版って聞いた時は、縁って切れないなーとは思ってたけど。まさか紗々からその名前を聞かされるとは。



「そうだっ、しかもこの話には続きがあるんですよ!」


「まだなにか?」


「実は今日お会いするマネージャーはDSの作者、天才高校生マンガ家の夢見ゆめみ降魔こうま先生! ……のアシスタントをしてたんです!!」



「…………は?」

 マジで言ってんのか?


「すごいですよね!? でもご存知の通り、DSは無期限休載中です。夢見先生は交通事故に遭われた時のケガがひどく、いまも意識が戻らないらしいです」


「そ、そうなんだ」


「どうしたんですかツギモトさん、急に立ち止まって。それにすごい汗です」


「……ああ、ちょっとな」



 どうしよう、どうしよう、どうしよう……

 このまま紗々だけ行かせて、俺は帰ったほうがいいだろうか。


 でも紗々に全部任せるのは不安、というよりここまで煽っておいて「サラダバー!」はいくらなんでもヒドい。


 なにかいい方法はないものだろうか……と、俺は近くに爆安の殿堂があることを思い出す。



「そ、そうだ紗々! 時間まで少しあるし、ちょっと買い物に行かないか!?」


「別に構いませんが、どこに行くんですか?」


「爆安の殿堂っ! ほら、早く行こう! いますぐ行こう!!」


「わ、わかりましたからっ、手、手を握らないでくださいっ……」

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