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日が完全に沈んでしばらく経ってから、泉を害そうとした人達はあっさりと捕まった。自ら尋問を行ったアルマンによれば、二人は王都に住む侯爵家の者に依頼されたとの事だった。

アルマンはその事をその日の夜のうちにブルーフォンセ家の人々に伝えた。彼の話を静かに聞いていたシメオンだったが、終わりの方には苦悩の表情を浮かべていた。


「シメオン?具合が悪くなったのですか?もう夜も遅いですから早く部屋に」


レジーヌがそう言ったのを遮るようにシメオンは話し出した。


「違うんだレジーヌ。心配をかけてすまない。泉に危機が訪れたのは私のせいかもしれない」


シメオンはそう言って、自分の考えをみんなに話し始めた。シメオンの婚約は既に王都にも伝わっていて、毒を盛ったのとは違う別の女性が、レジーヌに嫉妬して泉を穢そうとしたのだろうという考えだった。


「レジーヌ、それからブルーフォンセ家方々よ。すまない。私がレジーヌに求婚しなければこんな事には」


「シメオンのせいではありません。まだ推測でしかありませんし、そうだとしてもその女性が悪いでしょう?貴方が責任を感じる必要なんてありません」


レジーヌは必死になって言った。


「それでもこうなってしまったからには」


「泉は守られた」


大きな声が響いた。シメオンの言葉を遮ったのは意外にもアルマンだった。


「もしかしたら本当に貴方が引き金になったのかもしれない。でもこうして手遅れになる前に泉を守ることができた。事前に知れたのはレジーヌのおかげで、この完璧な策を考えたのは貴方だ。だからそんな暗い方に考えないで、胸を張ってください。聖なる泉を守ったのだから!」


アルマンは力強く真摯な態度で言い放った。

シメオンはそれを聞いて衝撃を受けた。好意的ではなかった彼から、元気付けられるような言葉を貰うとは思わなかったからである。


「とにかく、まだ調べる事は沢山ありますから、詳細は追ってお伝えします。今日はご協力ありがとう御座いました」


アルマンはそう言って他の騎士団員と共に引き上げて行った。レジーヌ達は感謝の言葉を騎士団に伝えた後、もう真夜中だったので、自分達もそれぞれ休む事にした。


「シメオン、泉を守ってくださってありがとうございました」


「いや、私は準備を手伝っただけで、実際に捕まえてくれたのは騎士団の人達だ。・・・でも、泉が守られて良かった。レジーヌも怪我する事がなくて本当に良かった」


「そうですね。貴方のおかげです。本当に良かった。シメオン、体調は大丈夫ですか?今日は色々な事がありましたから、とてもお疲れでしょう」


「私は大丈夫だ。だがレジーヌも疲れただろう。今日はゆっくり休もう」


シメオンはその夜、体はとても疲労していたが、なかなか寝つけずにいた。自分はレジーヌに相応しくないのではないかという考えに支配されていたためである。

初めてずっと一緒に居たいという女性に出会えたものの、彼女と彼女の周りを傷つけてしまうかもしれないと考えたらとても怖くなってしまっていた。

このまま身を引いた方がレジーヌのためになるかもしれないと思いながら、やっと寝ついたのはもう日が昇ろうとしている頃だった。



次の日、いつもより遅く起きたレジーヌは、一人で泉まで歩いて行った。


「妖精達よ、昨日は私に教えてくれてありがとう。おかげでこの美しい泉を守る事が出来ました」


レジーヌは妖精に感謝に言葉を伝えた。彼女は妖精の姿が見えないので、普段妖精の声が一番聞こえる泉の近くに行けば妖精がいるだろうと考えて、この場を訪れたのだった。


『可愛い、可愛い、レジーヌ。守ってくれて、ありがとう』


妖精は歌うように言った。レジーヌはしばらく妖精達の歌を聞いてから屋敷に戻った。

それからレジーヌはシメオンの元へ赴いたが、体調が優れないからゆっくりしたいと言われ、心配そうに彼の部屋を出るのだった。それから数日同じ事をシメオンに告げられ、ますますレジーヌは不安と寂しさで心が苦しくなっていった。


アルマンは事件が起こった日以来屋敷には来なかった。主謀者が侯爵家の者という事で、取り調べ等に時間がかかっているのかもしれないとブルーフォンセ家の人達は考えていた。


シメオンは部屋から出てレジーヌと顔を合わせるようになったものの、以前とは違って更に重たい空気を纏い、レジーヌと共に過ごす時間は少なくなった。

彼はレジーヌと共に居たい気持ちと、彼女達のためにここから去った方がいいという気持ちで混迷していて、未だにはっきりと決断出来ない状態だった。

レジーヌはシメオンから向けられる目が、自分に救いを求めていると分かっていた。しかしその目とは反対に、シメオンはそっけない態度をとってくるので、控えめな彼女は積極的になれるわけでもなく、彼を救う事は出来ないでいた。



「姉さん、最近いつにもましてどんよりしてるけど大丈夫?原因はシメオン様だろう?」


レジーヌは弟にそう声をかけられ、身体を強張らせながらぎこちない笑みを浮かべた。


「何言ってるの。私がどんよりしてるのはいつものことでしょう?いつもこれくらい暗いのよ」


「僕に嘘はつかないで。姉さん、悩んでるなら相談に乗るよ?あの人が嫌になったのなら婚約を解消してしまえばいいんだ。」


「解消なんてしない、したくない。私はあの人がいいの」


「でも最近あの人姉さんに冷たくない?もう姉さんの事飽きちゃったんじゃないの?他にも良い男は沢山いるんだからさ。姉さんは美人だから、仲を取り持ってって色んな人に言われてるんだよ。明日にでも紹介しようか?」


「駄目よ!そんな事しないで。私はシメオンと婚約しているわ」


「じゃあ僕がシメオン様に聞いてきてあげるよ。姉さんをどうするつもりなのかってね。姉さんは早く結婚したいんでしょ?あの人に結婚するつもりがないなら、さっさとふってもらわないと、姉さんが次に行けないからね」


そう言って立ち上がったルノーを、レジーヌは慌てて止めた。


「待ってったら。私が、私が聞いてくるわ。・・・だって私の婚約者ですもの」


「そう、じゃあ早く行って来なよ。姉さんの性格は控えめなの知ってるけど、こういうのは早く行動した方がいいんだよ。急がないと他の婿候補連れてくるからね」


「・・・分かったわ。行ってくる」


レジーヌは重い足取りで部屋を出ていった。


「全く、控えめなのも美徳だけど、どっちもそうだと周りは苦労するよなあ」


ルノーは独りごちて姉の健闘を祈った。


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