ルシフェル
昼食会は立食形式で、入れ替わり立ち替わりの挨拶合戦で、あまりゆっくり食事も会話も楽しめなかったが、僕達への関心と期待は凄く伝わってきた。
皆んなはまだ知らないけど、僕はこれからが戦いの本番だと知っている。身が引き締まる想いだった。
昼食会が終わり晩餐会迄、自由時間となった。ユイリ達は王都校の生徒達につかまり、クラスメイトは王都校生と交流中だ。僕も王都校生に捕まっていたが、王都を散策の誘惑に負け、頃合いを見計らい隠密結界で抜け出してきた。そこに同じく抜け出してきたレイラがいたので、一緒に王都を散策することにした。
「やっぱりテレキャスとは全然違いますね」
「テレキャスは栄えてると言っても地方都市だからな、国の首都である王都には敵わないさ」
確かにレイラの言う通り大都市であっても首都との差は大きい。それは日本でも同じだ。
通りを進んでいくと一際大きな人集りを見つけた。
「何があるのですかね?」
「何だろうな、何か催し事かもしれんな」
近付いて行くと人集りは、体躯の良い男達が大半だった。
「おい!そんなヒョロヒョロに負けんなよ!」
「当然だ!」
「勝ったら奢れよ!」
「おう!任せとけ!」
「レディーーゴーーーー!!!」
何かと思えば腕相撲で盛り上がっていた。参加料5千エンで、勝てば10万エン貰えるらしい。
(そりゃ盛り上がるよな……)
主催の男は僕と似た様な体付きで、強そうに見えない。対戦相手は見るからに力自慢のマッチョ。
聞けばこの主催者の男、さっきからこのタイプのマッチョ相手に、連戦連勝しているそうだ。
「ぐぐっ……」
「おい押されてるじゃねーか!」
「こいつマジ強ええええ……」
「ぐあぁぁぁぁぁぁっ」
主催の男の連勝記録が伸びた。
「おーい誰か挑戦しないか?」
「あいつが負けたんじゃな……」
先ほどの男の敗北で皆んな尻込みしているようだ。
「ん、兄ちゃんどうだ?背格好も俺と似てるし、やってみろよ」
「え」
ご指名を受けてしまった。
「面白そうじゃないかアル、やってみてはどうだ」
レイラも同調する。
「えーでも……」
(ステイタス1万倍がなぁ……)
「まあ、いいではないか」
「彼女もそう言ってるんだし、ここはやるしかねーだろ?」
「そ、そ、そ、そうだぞ……わわわ私も見てみたい!!」
彼女というセリフにレイラがわかりやすく動揺した。
(退きにくくなっちゃったな……)
「わかりました」
「お、そうこなくっちゃ!」
対戦台は酒樽だった。
僕達はガッチリと組み合った。
「…………」
(うん?……)
「誰か掛け声頼む!」
「レディーーゴーーー!!!」
開始前まではステイタス1万倍をどうしたものかと考えていたが、対戦が始まった瞬間その考えは頭から消えた。
(くっ!!!!強い!!!)
手加減している余裕なんてなかった。体勢を立て直すの必死だ。
(なっ…何者だ!?)
「だぁっっっっっ!」
僕が渾身の力を込めると、取り組みはイーブンに戻ったが、対戦台の酒樽が木っ端微塵になってしまった。
「あはは、なんだお前、凄げーな」
「まさか、こうなるとは……思いませんでした…」
「引き分けでいいよな?」
「はい」
「2人とも凄いな……」
「ほらよ」
「ん?」
「引き分けだから半額の5万だ」
「いや、それはいいですよ」
「遠慮するなって」
「いいから、いいから、貰っておけって」
「そうですか…」
「なあ兄ちゃん、その代わりと言っちゃ何だが、ちょっと飯でも食いながら話ししねーか?」
「いえ、そう言うことならお返しします。僕はもう済みましたし、連れもいますので……」
「彼女も一緒でいいじゃないか」
「わた、わた、わとあしはまだ彼女ではないぞ……」
盛大に噛んでます。
「細かいことは置いといてさ、行こうぜ」
「今日は、この後もまだ予定がありますので……」
「久し振りなんだから、いいじゃねーか」
「えっ」
「お前クロノスだろ?」
「え」
「あ……あなたは?」
「ルシフェルだ」
(ルシフェル……ルシフェルって確か僕の世界では……魔王サタン?!)
「わかりました、行きましょう」
「レイラごめん、僕、ちょっと彼と話があります」
「私も行って良いのか?」
「ルシフェル、いいですか?」
「いいぜ、クロノス」
「だそうです」
「クロノス?アルのことか?」
「そうみたいですね」
「悪りーな今日は店仕舞いだ、また今度な」
酒樽の片付けを済ませ、僕達はルシフェルに連れられ王都の中心にあるオープンカフェに来た。
「ここでいいか?」
「僕は別にどこでも構いません」
「私も構わぬ」
「酒でいいか?」
「はい、お洒落な店ですね……」
「だよな、俺も何となく気に入ってんだよ」
「私は、その珈琲にしておく……」
乱れるからですね。
オーダーはルシフェルが通してくれた。
「早速ですが、単刀直入に聞きます」
「おう」
「ルシフェルは魔王サタンですよね?」
「ああ、そうだ」
「まっ魔王だと!」
「レイラ、静かに」
「あ、う、うん」
魔王というワードで騒がれるのはよろしくない。
「あなたの復活は、5年後だと聞いていましたが?」
「情報通だな、それも間違いじゃない、5年もあればフルパワーになるだろうからな」
「な……なぜ、魔王がこのような所に居るのだ!」
「レイラ……しーっ」
「レイラちゃんに分かるように教えてやれよクロノス」
「恐らく…安全だから…ですよね?」
「ご名答、流石、クロノス」
「今、俺とクロノスが戦えば、どちらが勝っても王都が消滅するからな」
「王都そのものが人質なのですね……」
「なっ……なんだと」
「そういうことだ、まあ昔のクロノスなら、それでも仕掛けて来ただろうがな、今のお前には無理だろ?」
「よくご存知で」
「俺は時が来るまで、ここでのんびり過ごしてる」
なんだか想像していた魔王じゃない。ギャップが激しい。
「ルシフェル、あなたの目的は何ですか?」
「うーん」
「ぶっちゃけな、俺個人としては目的なんか無いんだわ。だからお前らとこうやって、馴れ合ってるのも別に嫌ではない」
「え」
「言っとくが、パズズやアバドンは俺に許可を得ず勝手に動いただけだからな、俺は世界征服にも興味は無い」
「なんだと……」
「それは、同じ道を歩めるということでしょうか?」
「残念ながらそれは無理だ」
「なぜですか?」
「全てを無に帰すことが俺の役目だからな」
「全てを無に……だと……」
「…闇魔法ですか?…」
「なんだクロノス、お前色々賢くなったな!」
「それはどうも……」
「まあ、元々お前は話しするタイプじゃなかったしな」
「そうなんですね」
「厄介な堅物だったんだぜ……だがクロノス、一つ訂正しておく」
「何でしょうか?」
「俺がフルパワーになるには5年かかるが、1年後には、お前との決着をつける」
「え」
「な!」
「いや、だってな、5年経っても持久力がつくだけで強さは今とそんなに変わんねーんだわ……流石にそこまでは待てねーからな」
「待てない?」
「お前、本当に白々しくなったな……もう分かってんだろ?」
「闇魔法はもう完成しているのですか?」
「そうだ……お前は悪知恵が働くようになったんじゃねーか?」
「いやぁ……僕は元からこんな性格ですよ」
「まあそれだけじゃないが、1年待ってやるからその間に、その中途半端な状態をどうにかしろ」
「中途半端?」
「またかよ、また分かってて聞くのか?」
「いえ……これは……」
「マジなやつか……」
「そうだな、お前がクロノスであることは間違いない。さっきの腕相撲でもクロノスの神力をビンビンに感じたからな」
「だが、お前達は分裂している。ひとつの魂じゃない」
「分裂?……」
「俺が待ってやる最大の理由だ、クロノスは時間を支配する神だ。半身のお前だけを倒しても、もう半身のヤツに時間が戻されるかもしれん。そうなると俺もジリ貧だ。」
「それ僕に有利な情報だと思うんですが……」
「かも知れん、だが、さっきも言った通り俺に目的はもう無い」
「…………」
「今度こそ決着をつけるぞ、クロノス」
「はい……」
「ルシフェル、かなり今更なのですが、僕のことはアルと呼んでください」
「本当に今更だな……おい」
「いや、自分の事じゃないみたいで、話しが入ってき難いんですよ」
「わかった、でもそう言うことは早く言えよアル」
「今度からそうします」
「俺はずっと王都にいる、猶予は1年だ。戦える準備ができたら、俺を探すか、呼び出してくれ」
「念話でいいんですか?」
「ああ、お互いを認識した神同士ならできるはずだ」
「わかりました、では1年後に決着をつけましょう」
「おう」
「あの……それまでに不明な事があったら聞いてもいいですか?」
「俺が魔王サタンだって事を忘れない程度にしてくれよ」
「それは助かります。事情を知っている数少ない人ですからね」
「まあ当事者だからな」
「今日は、後の予定もありますので、この辺で失礼します」
「おう、またなアル」
「またです、ルシフェル」
僕とレイラはカフェを後にした。
「大変な事になりましたね」
「というか……私は理解が追いつかん……」
「日を改めて皆んなが居る時に、じっくり話しますよ」
「そうしてくれ……」
魔王との対決が1年後と決まった。もし僕が間に合わなかったら、世界が滅びてしまうかもしれない。




