賢者ナビ ver.なろラジ大賞
そこは森の中だった。
ヒキニートだった俺は、異世界に転生した。
死んだかどうかは記憶にないが、気付いたら目の前に女神がいて、気付いたら別の成人男性の身体でこの森にいたのだから転生でいいだろう。
別の身体だと判るのは、前の自分が自堕落な生活に比例したデブだったからだ。今は贅肉らしい肉はなく、程よく筋肉が付いて身体が軽い。
「装備はゼロかよ。本気で特典だけなんだな」
俺は舌打ちする。一人なので、思っただけなのか口に出したかは判らない。
「全裸でも、前の身体のままでもないので充分恵まれていませんかね?」
声が聞こえたかと思うと、森の茂みから一人の少女が現れた。
小柄な身体に大きな丸い帽子を被り、背丈より長い杖を持っている。RPGで見かけることがある様相だ。
「お前は?」
「初めまして、賢者です。貴方のナビゲート係です」
何もない森の中に放り出されたかと思ったが、サポートはあるらしい。
賢者と名乗った少女はこてりと首を傾げた。
「さて、貴方は一体何を望まれたのですか?」
女神からの特典を問われ、俺は即座に答えた。
「世界最強の魔法使いだ!」
「そうですか」
俺のどや顔宣言を、賢者はさらりとスルーした。
「では、申し上げます。貴方が魔法を使うと世界が滅びます」
「は?」
「だって、攻撃魔法を使う気でしょう?」
「当たり前だ。敵を倒して名声を稼いでなんぼだろう」
そうでなければ、何のための異世界転生だ。何のための女神特典だ。
「はい。なので、敵どころか世界が滅びて。貴方は焦土の中でぼっちになります」
一瞬で世界が変わる、と賢者は事もなげに言う。
「どうして判るんだ」
「賢者ですから」
端的に答える賢者。
「理由は?」
「赤子から転生されていないので、魔力制御が身についていません。世界最強、でしょう?」
世界滅亡の威力で初回は暴発する、と予告されてしまった俺は頭を抱える。
「それ、どんな魔王だよ……」
「いえ、勇者すらいなくなるので、ただのぼっちになります」
元ヒキニート相手にぼっちを連呼するな。地味にダメージが来る。
俺の頭の中には、転生した時点であらゆる魔法の呪文や魔法陣の知識がある。それをすべて試してみたかったのに、出鼻を挫かれた。
「……魔法使えねぇじゃん」
「はい。その方が私も家が壊されなくて助かります」
にこりと賢者は笑った。
「では、まずは私の家で会話のリハビリからしましょうか」
どうやら俺が思っているほどちゃんと話せていなかったらしい。