悪役令嬢のススメ
今書いてるお話のちょっとした息抜きです。軽く読んで下さい。あんまり自信がないんです。
悪役令嬢の何が悪いんだろう。本気で分からない。
使用人を殺しまくったりしたらそれは悪役じゃなくてただの人殺しだからここでは除外する。そんな悪役令嬢がヒロインに会ったらその場で無礼討ちにするだろうし、お話にならないとはこの事だ。
「と、言うわけでお嬢様には悪役令嬢になって頂こうと思います!」
「何が『と、言うわけ』なのよ! 貴女が何を言ってるのか分からないわ!」
お嬢様は公爵令嬢であり、ツインドリルヘアで猫目の見るからに悪役令嬢なのですが悪役令嬢は嫌と仰います。一メイドでありハウスキーパーですらない私がお嬢様に意見するのは間違っているとは思うのですが、私は悪役令嬢が本物の悪だとはどうしても思えないのです。
例えば庶民の血税を使って贅沢する、これの何処が悪いのですか?
税金が高すぎると言うなら分かりますがその税金を一切使うなと仰る?
使わないお金を搾取する方が意味が分からないレベルで極悪なのでは?
使ったお金は庶民に落ちるんです。それの何がいけないんでしょうか? 使わないと経済は回りません。
「だからドレスだろうが市井の者が作る屋台の料理だろうがどんどん買うべきです!」
「食べ過ぎたら太るしドレスも似合わなくなるでしょうが!」
「そこは使用人に回せば良いのです!」
「それが本音でしょう!?」
お嬢様は経済と言うものが分かっていません。確かに流通を拡大するために道路を作ったり教育や農地拡大や、貴族がお金を使うところはたくさん有りますが、大切なのはお金を使いきることです。貯めるのは悪です。目的がある積立てなら良いのですが、ただ貯めるお金は動脈硬化と同じこと。血流が十分に流れることで人は健康でいられる。それは経済も同じなのです。
「太ればダイエットに金を費やせば良いのです。逆に聞きますが貴女は貴族が平民よりみすぼらしく節制して暮らしていても平気なのですか?」
「そ、それは別に平気なのでは無いかしら? 虚飾にまみれた貴族って私も嫌いだし」
「もちろん限度は有りますが、自分達の主人がみすぼらしいのははっきり言って私たちが無能だと思われる原因になります。最低でも私よりは着飾って頂けないと下手したら私が主人を脅してお金をせしめていると思われます。民にしても同じです」
「流石に民は贅沢しやがってって恨み言に思うんじゃないかしら?」
「それは現実が見えてないからですよ。だって良い暮らしをしている人がこの世に居なかったらどんな気持ちになりますか?」
「みんなが貧乏でみすぼらしい世界ってことね……。死にたい」
「お嬢様は想像力有りすぎですね。まあ概ね間違っていませんが」
お金持ちがいない世界なんて夢も希望も無いじゃないですか。貧乏人だって月に一度、年に一度でも贅沢はします。贅沢は良いものなのです。じゃあ何が悪いのかと言えば搾取です。搾取してるわけでなく税金は一律、経済の活性化は金持ちも貧乏人も助かることです。なのに何故か節約とか節制と言う言葉が尊ばれる。おかしいと思いませんか?
宵越しの銭は持つべきでは無いのです。
「だからお嬢様は私に羽毛布団を買うべきです」
「だからそれはあんたの欲望でしょうが」
「過ぎたる欲望でしょうか?」
「しゃくにさわるけどまあ買ってあげるわよ。最近寒いものね」
中世から近代まで実は小氷河期で民は飢えていました。貴族や王族が悪かったわけじゃ無いんです。だからお嬢様が処刑される未来などおかしい。
「そう言えば私もそろそろ隣国の王子様に輿入れしないと駄目なのよね。でも最近学園では王子様につきまとってる平民上がりの女がいるのよね。現在は辛うじて男爵家の養女ではあるのだけど」
「王子に失礼が有ってはいけませんのでその娘は厳しく仕付けましょう」
「それは私が虐めてるように見えないかしら?」
「見えるでしょうね。でも権威を得たいと言いながら義務を放棄する者は死ぬべきです。種を蒔かぬ畑に恵みは産まれません」
「小難しげに言ってるけど要するに働かざる者食うべからずってことね」
実際貧しい人間ほど勘違いしてしまいますが金持ちは働きます。だいたいはみんなが嫌いなデスクワーク。でもそれこそ金持ちを労働から守る法なんか有りません。好きでやってるんだから。しかも責任も義務もたくさんある。何も知らずに生まれ、権力を得た子供にしてみれば堪ったもんじゃない。
「あのさ、貴族令嬢辞めたくなってきたんだけど。王子様の婚約者とか教育も義務も制約も厳しくって私でも無理に感じるレベルなんだけど、あの庶民上がりの娘に譲っても良い?」
「まあ確かに大変なんですよ、権力者って」
最近は新聞なる物が出てきて注目を集める権力者は恥を掻かされっぱなしだったりします。新聞に文句を言ったら駄目なんですよね。言論に自由なんて最初から有りません。言論の自由を盾に言論を封殺出来るのだから。口の回る商人が金を稼ぐのが現実です。
まあ貴族に商人がいないとは言ってません。なのでお嬢様はそのままで良いのです。
「なんか悪役令嬢の話じゃなくて経済の話になってない?」
「悪役令嬢の話に戻すならやはりヒロインを虐めるべきと言うところでしょうか?」
「いや、なんで虐めなきゃ駄目なの?」
「ぶっちゃけ恋愛脳な女が権力を握ると国が滅びるからですね」
「飛躍しすぎじゃないの?!」
いや、現実に恋愛なんてそう出来るものではない。国家が恋愛至上主義になればあっと言う間に人口は激減するだろう。愛情が有っても子供を五人産むのはキツい。でも恋愛至上主義だと結婚して子供を産む人は最悪二人に一人まで減るだろう。好きになる人が一人に好かれる可能性は少ない。つまり恋愛に打ち破れる人は多いのが決まっているからだ。更に女性は純潔を重んじるので恋に破れたから次の恋にと考えがたい。
むしろ誰にも好かれない私みたいな人を好きになる人出てこいや。
恋愛至上主義は現実逃避だ。これでは種の存続など不可能。二人の間に一人しか生まれなかったら人口は半分以下になる。純粋な算数の問題でしかない。現実には苔の一念でも貫けない物があるのだ。
「なのでお見合い結婚や政略結婚で仲睦まじくなる方が国としては良いのです! どんどんお見合いするべきなのです!」
「うーん、でも恋愛を否定する気にはならないのだけど。私も政略とは言え王子様が好きだもの」
「そこが問題です。つまり政略だろうが見合いだろうが愛は生まれるところには生まれるのです! なら尚更お見合いが悪いはずは無いのに最近はお見合い婆はお節介焼きと言う風潮が生まれ、縁談が殆ど無いのです!」
「あのさ、邪推かも知んないけどあんたが縁談が、結婚の話が出ないから言ってるんじゃ無いよね?」
「うぐっ……、五十代の人はいましたよ!」
「え、えー。流石に十六で五十代の人はキツいわね。恋すれば歳は関係ないとは言うけれど」
「それは現実が見えてないからですよ。だって五十代の人と結婚したら愛がなくても辛いけどラブラブなほど辛いじゃないですか」
「あ、うん。共に過ごせる時間が少ないものね……」
「切ない」
お金目当てに結婚するなら有りですけどね。所詮私は俗物です。
「そう言うわけでお嬢様は悪役令嬢がお似合いなのです」
「う、うーん、今一だけど悪役令嬢が必要なのは分かったわ。必要悪と言う奴ね」
「あ、それも間違いです。必要だから悪が許されるはずが有りません。それは法整備に穴が空いていると言ってるのと同じです。世が世なら不敬罪で死刑です」
「そんなに問題!?」
だってお嬢様は正義の執行者です。阿呆な王子に断罪される謂れは無い。だからお嬢様は堂々とするべきだ。悪役なのは阿呆なヒロインと王子なのだから。
「だから私に天蓋付きベッドを!」
「流石にそこまで突拍子も無い要求されるとただの貴女の詭弁じゃないかと思うわよ?」
てへぺろ。
でもまあお嬢様は王子様の婚約者に一番相応しいんですよ。私程度に翻弄されていますが馬鹿では無いんです。そして厳しい義務も役割と思える責任感をお持ちです。
たぶん滅茶苦茶にしんどいはずです。
どうですか、貴女には悪役令嬢は無理でしょうか? 国の未来のために阿呆な恋愛脳と戦って愛の無い不幸な結婚をして子供をたくさん残す。そんなの不幸でしかないけど、倒さなければならないドラゴンの門番と同じく、乗り越えなければならない問題なのです。ドラゴンは倒すと美味しいのですけどね。
そもそも女だけ我慢しないと駄目と言う下心が透けて見えませんか?
でもそんな状況を理解しながら許容している責任感の強い悪役令嬢を私は愛しています。幸せになって欲しい。
彼女の苦しみは分かるのです。一人に責任を負わすのはあまりに鬼畜。だから貴女が彼女の代わりに悪役令嬢になってみませんか?
私? 嫌と言うか、無理です。だから私は彼女を敬愛しています。
誉めたのでエアコン魔道具の設置もお願い致します。あとデザートも増やして欲しいし温泉旅行もしたいです。
……解雇は勘弁して下さい済みません。
天蓋付きベッドの利点は蚊に食われないことですね。説明するまでもないですが蚊は血液に関する病気、マラリアなども含め、あらゆる病気を媒介しますので。蝿もネズミもあらゆる害虫がそうですが小さい生き物は病を広げます。天蓋付きベッドならそれを防げるんで有り難い。日本の蚊帳と同じ概念ですね。
ちなみに今も氷河期らしいです。温暖化効果で辛うじて暖かいのだそうです。