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青春死体

作者: 烏村そらまめ

智花(私)

吹奏楽部。部長。

優しいが、さばさばしていて物や人に依存しにくい。人によっては冷たいと思われることも。今は直人先生のこ

とが好きだが、気を紛らわすため、という理由で太一と付き合っている。頭が良く、しっかりしている。ひとか

らの信頼が高く、友達がたくさん居る。


愛子アイコ

空気を読むのが若干苦手。成績が3人の中で最も低く、よく夏美にノートを写させてもらっている。人一倍友達

思い。レズビアンでずっと智花の事が好きだが、3人の関係を崩したらいけないと思い、ずっと思いを秘めてい

た。太一は夏美の事が好きだと思っている。


夏美うち

明るくて元気だが、一方で思い込み、被害妄想が激しく、ネガティブになりやすい。そのせいで自分勝手に物事

を考えてしまうこともあるが、すべて無自覚。今は太一が好き。頭が良く、特に数学が得意。直人先生のことは

かっこいいと思っているが、それ以上の思いはない。


太一(俺)

智花の彼氏。愛子の事がすき。愛子とは幼なじみで妹のような存在。智花とは、お互い他に好きな人がいる上で、

寂しさを紛らわすという意味で付き合っている。同じ歳の人に比べて大人びていて、もてる。数学が苦手。夏美

のことは、好きでも嫌いでもない。


直人先生(先生)

学校中の人気者。数学教師。さわやかで人当たりがよい。優しい。誰にも言って居ないが、実は真面目な夏美の

ことが恋愛的な意味で好き。問題になった大変だという思いから、そのことを誰にも言っていない。しかし、そ

れを智花にはばれてしまっている。 

プロローグ

智花:それは、ある春のこと。

愛子:中学3年に上がったあたし達は、最初のクラス替えで大凶をひいた。

夏美:でも、最初はなんだかんだうまくいくと思ってた。

智花:私たちの友情は、そんな簡単なことじゃ崩れないと思ってた。

愛子:でも、ちがった。

夏美:仕方なかったのかもしれない。でも………


智花:まさか、こんなことになるなんて。

愛子:あの頃のあたしたちは

夏美:考えもしなかった。


 第一章

 クラス替えの紙が貼ってある。

夏美、愛子:(談笑しながら登場)

智花:(別方向から登場)

夏美:あ!智花―!おはよ−!

愛子:おはよー!!

智花:おはよ。春休み終わったばっかりなのに、なんか久しぶり感ないね。

愛子:そりゃね。一昨日も3人でカラオケ行ったばっかりだもんね。

夏美:そーだね。あ、そういえば愛子。あんた、課題終わったの?

智花:3年になったからがんばるって言ってたし、もちろん終わっているわよね?

愛子:ま、まあ、ちょっと残っちゃったけど……

智花:ちょっとってどのくらい?

愛子:ええっと…数学の問題集と、理科のレポートあと3枚と、国語の…

智花:ぜんっぜん終わってないじゃない。

愛子:だって春休み忙しかったんだもん…。

智花:忙しいって言ったって、どうせYUUTAのおっかけでしょ?なんだっけ、ビジュアル系バンドの…

愛子:ドリームキャストね。もう、本当にかっこいいんだから!!

智花:でもそれで宿題終わらなかったら意味ないじゃない。

愛子:う…おっしゃるとおりです…

夏美:はー、全く。しょーがないなー。あとでノート写させてあげる。

愛子:え、嘘!本当?!!

夏美:今回だけ、特別だからね。(鞄からノートを数冊出す)

智花:とか言いながら毎回貸してる気がするけど…

愛子:ほらほら、智花、そんなこと言わないの。(夏美からノートを受け取る)ありがとー!もう、夏美まじ女

神!


 クラス替えの紙が貼られたホワイトボードが直人に引かれて登場


直人:ああ、お前ら、おはよう。今日も仲いいな。

智花:あ、直人先生!おはようございます!!

直人:おはよう。智花は朝から元気だなぁ。夏美と愛子も元気か?

愛子:は、はい、まあ、そこそこ…

夏美:うちはいつでも元気だよー!!

直人:そうか、よかった。これ、クラス替えの紙だから、ちゃんと見て新しいクラスに移動するんだぞー

夏美:はーい!

智花:はーい!

愛子:は、はーい…


 直人、クラス替えの表を残してはける


夏美:どうしたの、愛子。直人先生とそんなに仲悪かったっけ?

愛子:いや、そんなことないけど…

智花:なんか直人先生と話してるとき元気なかったよー?去年は愛子も他の女子生徒にまじって、『直人先生、

かっこいー!』とか言ってたのに。

愛子:いや、直人先生はいまでもかっこいいと思うよ?ただ…

智花・夏美:ただ?

愛子:直人先生、数学の先生だから…

智花:ああ、そっか。数学のワークやってないのか。

愛子:そうそう。直人先生いつもは優しいけど、怒ると怖いからね…

夏美:そっか。じゃあ早く終わらせなきゃね。

愛子:うん、がんばる。がんばって智花の写す。

智花:別にいいけどさ、たまには真面目にやりなよ?

愛子:はーい

夏美:あっ、そうだ、忘れてた。クラス替えの表見なきゃ。

智花:そうそう!話してたらすっかり忘れてた。見なきゃ……


 表を見る3人。


愛子:智花は4組…あれ?夏美も4組だ。

智花:愛子は…2組……?

夏美:嘘、離れちゃったの……?しかも2対1で……


 間


愛子:ま、まあ、1組と4組じゃなかっただけましだよ。それにさ、アイコよく教科書とか忘れるじゃん?借り 

に行ける人が二人も居て、よかったよ。あはは…。

智花:そうそう。物事は前向きに考えなきゃね。

愛子:うん、だからアイコは大丈夫。

夏美:そ、そっか、なら、いいけど…

智花:あ、そろそろ朝のホームルーム始まっちゃうよ。夏美、そろそろ行こ。

夏美:そ、そうだね…


 夏美と智花、愛子が逆方向にはける



第二章


場所は愛子の教室。勉強をしている愛子のところに夏美が来る


愛子:あ、夏美。どう?新しいクラスには慣れた?

夏美:…

愛子:な、夏美?

夏美:ああああー愛子ーーーー(泣)

愛子:ど、どうしたの?!

夏美:聞いてよ、愛子…うち、クラスでぼっちになっちゃったんだよ…

愛子:え、智花がいるんじゃないの?

夏美:いるんだけど…

愛子:なんか大変そうだね。ここに座りなよ。ゆっくり話聞くからさ。


 夏美、椅子に座る。


夏美:最初は良かったよ。席も智花と近かったし、智花とも休み時間の度に話してたし。

愛子:うん、去年の私たちと同じだね。

夏美:でもね、最初の席替えをしてから智花はさっぱりうちと話さなくなった。

愛子:え?

夏美:智花って吹部の友達多いじゃん?去年は吹部の子みんな他クラスだったから休み時間は基本うちらにかま

ってくれてたけど、今年は同じクラスに吹部の子が智花を入れて3人もいるんだ。智花、休み時間の度にあの子

たちと話してて、うちとは全然話してくれないの…

愛子:ああ、吹部の子は仲良いもんね。

夏美:うち、嫌われちゃったのかな…

愛子:え?

夏美:ていうかそもそももともとうちのことなんかそんなに好きじゃ無くて、去年は吹部の子がいなかったから

仕方なくウチ等と仲良くしてただけで、今年はうちより全然仲良い吹部の子が同じクラスになったからもうウチ

らは必要なくなっちゃって…そもそも可愛いし優しいし頭も良い智花がウチらなんかと…

愛子:な、夏美、ストップ!!

夏美:はっ

愛子:もう、夏美、後ろ向きになっちゃだめだよ。夏美の悪いところはそうやって被害妄想が激しいところ。あ

んなに仲良かった智花が本当はアイコ達のこと嫌いなんて、そんなことあるはず無いでしょ?

夏美:そう、かな…

愛子:そうだよ。それにほら、他クラスだけど、アイコもいるでしょ?そんなこと無いはずだけど、もし智花が

夏美のこと嫌いになったとしても、アイコは絶対夏美のこと嫌いになったりなんかしないから!!アイコ、ずっ

と夏美のこと大好きだからね!!

夏美:あああああ…愛子…ありがとぉぉぉぉ…(愛子に抱きつく)

愛子:よしよし…。でも、現実問題、クラスにしゃべれる人居ないのは辛いよね…

夏美:うん…。もう最近、学校来るの辛くて…。去年は愛子や智花と会いに来るのを楽しみにしながら学校来て

たのに…。

愛子:んー、なんか夏美が学校来るの楽しみになること無いかな…あっ!

夏美:なに!?なんかあった?!

愛子:うん!夏美さ、今太一と同じクラスでしょ?

夏美:そ、そうだけど…?っていうか、なんで突然太一君が出てくるの?!

愛子:ふっふっふ。アイコのことだませたと思ったら大間違いだよ?

夏美:はぁ?

愛子:夏美さ、太一のこと好きでしょ。

夏美:そそそそそそそんなわけないでしょ!!あんな脳筋!!

愛子:素直になりなよ〜?去年からずーっと太一のこと熱っぽい目で見てたでしょ?アイコも智花も気づいてた

んだから。

夏美:誰にも話してないのに…。

愛子:夏美のこと見てれば分かるよ。何年の付き合いだと思ってるの?

夏美:一年…?

愛子:そう、一年。だからアイコは夏美のこと、ちゃんと分かるの。

夏美:は、はぁ…

愛子:だからさ、夏美、太一に告白して、付き合っちゃいなよ。

夏美:は……はぁああああああ?!

愛子:何?そんなに驚く事じゃ無いでしょ?

夏美:だ、だって太一君はきっと私のこと…

愛子:嫌いなんかじゃない。アイコ、太一君とは幼なじみだから分かるもん。

夏美:そう、かな…

愛子:そうだよ!去年3人で話してるときとかよくアイコ達の所来てたじゃん。絶対あいつ夏美目当てだって。

夏美:太一の幼なじみの愛子が言うならそうかもしれない…

愛子:そうそう。ポジティブに考えなって。だから、太一に告白して、ちゃんと青春しよう?夏美なら出来る!

アイコ、応援してる!!

夏美:…わかった、ウチ、太一君に思いを伝えてみる!!

愛子:うん!がんばって!

夏美:ありがとう!

愛子:じゃあこうなったら出来るだけ早くに告白した方が良いね。あまり時間おくと夏美の決心が揺らいじゃう

もんね。

夏美:え、出来るだけ早くっていつさ。

愛子:うーん…あ。


 太一登場


夏美:あ。

愛子:誰かと思ったら、太一じゃん!!なんてベストタイミング。折角だから今行っちゃいなよ!私、今日は先

に帰ってるからさ。じゃあね!

夏美:ちょ、待ってよ!!まだ心の準備が…


 愛子、手を振ってはける。


夏美:はあ…あいつ、なんであんなに急に…こんなの出来るわけ無いじゃん…。でもやらないと愛子、怒るんだ

ろうな…

太一:夏美?

夏美:でもなあ…もし断られたらどうしよう…

太一:なーつーみー

夏美:そしたら同じクラスだし、もっと学校来ずらくなるんじゃ…

太一:なーーつーーみーー!!

夏美:わっ、た、太一君?!

太一:なーにぶつぶつ言ってるんだよ。

夏美:な、なんでもない!!た、太一君こそどうしたの?ここ、他クラスだよ?

太一:あ…しまった。俺去年4組だったから教室間違えちまった。本当は2組に数学のワーク取りに行く予定だ

ったんだけど…。

夏美:そ、そうなんだ

太一:ういん、そう。あ、夏美、そういえば二次関数のワークの提出って明日で合ってるよな?

夏美:そ、そうだよ。

太一:そっか。今日は寝られないな。俺ぜんっぜんやってないんだ。しかも今の数学の授業全然わかんなくて…

夏美:そうだよね、二次関数難しいもんね。

太一:それなー。はぁ。まったく、誰かに数学教えてもらいてーわ。じゃ、俺教科書取って今日は帰るわ。じゃ

あな。

夏美:う、うん、じゃあね。


 太一、はけようとする


夏美:(独り言)だめ、だめだよ、夏美、今言わなきゃきっと後悔する…勇気を出して言わなきゃ…

夏美:た、太一君っ!!

太一:ん?どーした?

夏美:あの、数学教えてくれる人探してるんでしょ?ウチでよければ…


 暗転



 第三章


 場所は教室。夏美が席に座っている。そこに鞄を持ったアイコが走って来る。


愛子:あぁ、夏美、おはよう!!ごめんね!!昨日夜遅くまで数学のワークやってたら寝坊しちゃって、遅刻し

ちゃったよ。

夏美:……

愛子:これで新学期に入って遅刻10回目だって直人先生に怒られちゃった。しかもワークも結局全部終わらな

かったから直人先生にさらに怒られてさ…。今日中に終わらなければ明日から一週間居残りなんだよー…また誰

かにワーク借りなきゃなんないなー…はぁ。

夏美:……

愛子:っていうかさ、昨日夏美なんでメールに返信してくれなかったのー?太一のこと、すっごく気になってた

のに。

夏美:ふざけないでよ……

愛子:…え、夏美…?

夏美:(顔をあげ、立ち上がり、愛子の胸ぐらをつかむ)

愛子:な、なになに、夏美、どうしたの?なんか変…

夏美:あんたさ、本当は太一君がウチのこと好きなんかじゃないってこと知ってたでしょ?!

愛子:…は?

夏美:ウチあの後太一君と数学の二次関数のワークやってたの。その時ウチは太一君に好きな人聞き出そうとし

た。太一君は俺がこんな話してたこと愛子には内緒だよ、って言いながらずっと愛子の話してた。愛子が数学で

きてなさそうで心配だ、とか、愛子の部活が忙しくて最近全然話せて無くて寂しいとか…!!

愛子:ち、ちょっと、待って、じゃあ太一君には告白できなかったってこと…?

夏美:告白なんか…告白なんか出来るわけ無いでしょ!!太一君、愛子のこと好きなんだよ?しかも太一君、そ

の後に彼女居るって言ってた!!その彼女って愛子だよね!!それ以外居ないもんねぇ??!

愛子:な、何言ってるの!!アイコがそんな意地悪するわけ無いでしょ?!

夏美:うるさい!!しらばっくれるな!!

愛子:ひっ…

夏美:あんた、ウチが苦しんでるの見て楽しんでたんでしょ?!ウチが苦しんでるのを表面的な言葉だけで励ま

しやがって…!

愛子:……夏美…

夏美:なに?まだなんか言うことあるの?!

愛子:アイコは太一と付き合ってなんかいない…。アイコが夏美の苦しんでる姿を見ながら楽しんでたなんてそ

んなの夏美の被害妄想だよ…?

夏美:うるさい!!あんたの言ってることなんて…っ

愛子:でも…っ(夏美の手を払いのける)

夏美:えっ?

愛子:夏美さ、面倒くさいのは確かだよ?

夏美:…は?

愛子:いつもいつも自分の事ばっかり。くだらない被害妄想にいろんな人のこと巻き込んで。去年のクラスの女

の子、アイコと智花以外殆ど全員が夏美のこと嫌いって言ってたよ?うざい、面倒くさいって。だから夏美はア

イコと智花がいなくなったら本当に1人になっちゃうんだよ?

夏美:嘘…愛子、ウチらのことそんな風に思っていたの?

愛子:それだけじゃない。この前のことだって、よく考えてみてよ。たとえ『元』であったとしても仲の良い智

花っていう女の子と二人で同じクラスになれて夏美は幸せだよね。アイコは本当に一人なんだよ?!智花とかみ

たいに人望はないし、夏美みたいに頭も良くない。アイコは本当に一人なのに…

夏美:…ふざけんなよ……そんなこと思ってたらその時言ってよ…。あの時真面目に話してたウチが馬鹿みたい

じゃん……

愛子:もういい。あんたとはこれ以上仲良く出来る自信がない。もう二度とアイコの前に姿を見せないで!!

夏美:言われなくても分かってるよ。そんなことウチからも願い下げだから!!



 暗転



第四章


 場所は教室。夏美が一人でうろうろしている


夏美:あぁぁぁぁぁぁあぁ!!ウチの馬鹿!!愛子になんてこと言ってんだよーーーー!!


 間


夏美:あんなに優しい愛子が太一君のことについて嘘なんてつくはずがない。きっとなんか事情があったんだよ


 間


夏美:でも私はそれを聞こうともせずに一方的に愛子を…


 間


夏美:愛子、ウチのこときっともう嫌いだよね…。


 間


夏美:でも…謝らなきゃ。それでちゃんと、ウチのこと励まそうとしてくれたこと、お礼言わなきゃ…!!


 間


夏美:きっと愛子はまだ私の事好き。愛子、もっと前向きになれっていってたもんね。うん、ネガティブ思考は

だめ。…よし、早く愛子のこと探して、ちゃんと謝ろう…!


 暗転


 場所は教室。愛子が一人でうろうろしている


愛子:あぁぁぁぁぁあぁ…アイコ、夏美になんてこと言っちゃったんだろ…。被害妄想激しいこととか、自分が

面倒くさいこと、夏美はちゃんと自覚してずっと前から悩んでたのに…


 間


愛子:っていうか、太一の彼女って誰よ。全然知らなかった…。そんなことも知らずにあんなアドバイスしちゃ

うなんて…


 間


愛子:夏美のことだから、今回のことにショック受けすぎて不登校になっちゃうんじゃ……早く謝って、励まさ

なきゃ…。でも…


 間


愛子:夏美、もうアイコのこと嫌いになっちゃってるかも知れない…だから…


 間


愛子:とりあえず、智花と話して、夏美が今傷付いているからクラスで気を遣ってほしいって伝えよう!!…っ

て、あれ、これ、智花の声だよね…?あ、こっちに向かってくる…うう、久しぶりに話すから緊張するな…


 智花、太一と一緒に入ってくる。智花と太一は愛子に気づいていない


智花:ねー、太一、聞いてよ、最近夏美がうるさいのよ。

愛子:?!(物陰に隠れる)

太一:え、なんかあったの?

智花:クラスでぼっちだからって私に執拗に話しかけてくるし、うざい長文メールしょっちゅう送ってくるし。

太一:ああ、そういえば俺、この前千夏に勉強教えてもらってな…。

智花:え。そうなの?もー、太一ったら、私って女が居るのに浮気はだめよー?

太一:はは、浮気なんてしてねーよ。

智花:分かってるわ。冗談よ。疑ってなんかない。

太一:だって俺たちラブラブだもんなー

智花:ええ。…まあ、嘘だけどね。

太一:ったく、智花。それは言わない約束だろ?いつどこで誰が聞いてるかわかんないのに。

智花:分かってるわ。でも、お互い好きな人が居るのにその相手は自分たちのこと見てくれないからって慰め合

うために付き合うのはやっぱりたまに疲れるわ…。

太一:まーな。でも嘘でも付き合ってるって事でお互い心の支えになってるって所はあるから総合的にはプラス

だからいいじゃねぇか。

智花:まあ、そうね。

太一:あ…やべ、今日はもうそろそろ帰んなきゃ。

智花:あら、何か用事があるの?

太一:ああ、弟の幼稚園の迎えだよ。今日かーちゃんが仕事で遅くなるからさ。

智花:あら、そうなの。優しいわね。

太一:一緒に帰る?

智花:私は良いわ。少しここで自習したいから。

太一:そうか。じゃあな。また明日。

智花:ええ、気をつけてね。


 太一、はける


 間


智花:…愛子

愛子:?!

智花:愛子、居るのは分かってるわ。あなた、本当に隠れるのが下手ね。頭の先が出ているわよ。

愛子:(立ち上がる)ああ、と、智花、ごめんね。のぞき見するつもりはなかったんだけど、なんか出て行けな

い雰囲気になって隠れちゃった…。

智花:言い訳はいらないわ。

愛子:…ごめんなさい

智花:夏美の事でしょ?

愛子:え?

智花:夏美が太一に振られたからクラスで仲良くしてあげてね、このままだと夏美が不登校になっちゃうって言

いに来たんでしょ?

愛子:よ…よく分かったね…。さすが。

智花:そのくらい分かるわよ。

愛子:で…その、夏美のことお願いできるかな…?

智花:……(椅子に座る)

愛子:あの、智花…?

智花:…嫌よ。

愛子:え…どうして…

智花:だって私、夏美のこと嫌いだもの。


 間


愛子:え…ええ…なんで…去年あんなに仲良くしてたのに…

智子:だって夏実と付き合っててもデメリットしかないもの。

愛子:どういう、こと…?

智花:…んー、これ以上詳しく話しても良いけど、私が一方的に話すのはフェアじゃないわ。

愛子:ええ、じゃあ、どうしたらいい?ジュースでもおごる?

智花:うーん、それも良いけど、あまりジュースも気分じゃないわ。それに、情報の等価はやっぱり情報でなき

ゃ。

愛子:ええ、じゃあ、何を…

智花:じゃあ、愛子、あなたの思い人を教えなさい?

愛子:へ?

智花:だって去年から恋バナとか全然話してくれなかったじゃない?

愛子:別に、良いけど…

智花:なに?

愛子:なんか、子供っぽいなって。そんなので本当に良いの?

智花:良いって言ってるじゃない。私も恋バナの話し相手がほしいって思ってた所だから。ほら、話を進めるわ

よ。

愛子:はーい。やっぱり智花のそういうところ好きだな…

智花:え?何か言ったかしら?

愛子:い、いや、何でもない。で、智花はなんで夏美のことが嫌いなの?なんで好きでもない太一と付き合って

るの?なんで…

智花:もう、質問は一個ずつにして。分からなくなるわ。

愛子:ご、ごめん…

智花:なんで私が夏美のこと嫌いかっていうとね…

愛子:うん…

智花:私の好きな人の好きな人が夏美だからよ。

愛子:え…

智花:夏美が私になにか危害を加えた訳じゃない。夏美の性格が嫌いになった訳じゃない。夏美は何も悪くない

の。最低よね、私…。ただの嫉妬心なのよ…。

愛子:じ、じゃあ、夏美と仲良くも…

智花:それは無理。

愛子:な、んで…

智花:私は演劇部のあなたとは違うの。嫌いな人に偽物の皮かぶって話しかけるなんてできるほど私は器用じゃ

無い。それに、あんなに被害妄想の酷い夏美のことだもの、すぐにばれるわ。だから近づかずに距離をおいた方

が良い。

愛子:そう…なんだ。

智花:夏美はずるいわよね。対して努力しなくても頭良いし、スポーツだってできる。バレー部で2年生ながら、

エースらしいじゃない?

愛子:智花の…

智花:ん?

愛子:智花の好きな人…夏美の事が好きな人って、誰なの?

智花:んー…誰だと思う?

愛子:ううーん…誰だろう…吹奏楽部の細谷先輩?それとも智花の幼なじみの駿君かなぁ…

智花:ふふ、どれも違うわ。

愛子:ええー、じゃあ誰なの?

智花:正解はね…

愛子:ごくん…

智花:直人先生よ。

愛子:……へ?

智花:あら、意外かしら?

愛子:いや、意外っていうか…

智花:ん?

愛子:待って、頭の整理が着かない。智花って同世代じゃなくて一回り異常も歳が違う直人先生の事が好きなの?

それに直人先生は夏美のことが好きってそれ本当?

智花:ええ、そう。どちらも本当のことよ。

愛子:直人先生が夏美のこと好きだなんて、どうしてそう思ったの?

智花:見てれば分かるわ。太一と同じ。

愛子:太一と?

智花:ええ。

愛子:じゃあ…智子は直人先生のどんなところが好きなの?現実主義者の智花が一回り以上も年上の直人先生の

こと好きになるなんて…。

智花:んー、そうねぇ…特に理由は無いわ。

愛子:へ?

智花:女は右脳で恋をするって言うでしょ?人を好きになることに理由なんて無いわよ。

愛子:じゃあ…太一のことは?本当にあいつと付き合ってるの?

智花:ええ。付き合ってるわ。

愛子:でも好き同士じゃ無いんでしょ?

智花:ええ。お互い別に好きな人が居るわ。

愛子:えええ…どういうこと…?なんで好きじゃ無い人と付き合うの…?

智花:あら、愛子みたいなお子ちゃまにはまだ早かったかしら?

愛子:か、からかわないでよ!

智花:ふふ、悪かったわね。で、好きじゃ無い人と付き合う理由だけど…

愛子:うん。

智花:女の子にはね、1人につき3人の男の人が必要なの。

愛子:う、うん…?

智花:彼氏、お金を出してくれる人、好きな人。

愛子:…どういうこと……?

智花:彼氏は寂しいときに心のよりどころとなる人。あと、お金はないと好きな人や彼氏と遊べないじゃない?

相手に出してもらうのは申し訳ないわ。それよりは私のことが大好きで私がなんとも思ってない人にお金を出さ

せる方が良い。

愛子:だめだよ…アイコ、頭が付いていかないよ…

智花:男の人も同じ。彼女、性欲を発散する対象、好きな人が必要よ。こんなこと、クズの言い分に聞こえるか

も知れないけど、でも、実はそれが全員が最低限幸せになる方法なのよ。好きな人が何億人もいる女の中から私

のことを選んでくれる確立なんて0に等しいわ。私にとっても太一にとってもお互い寂しさを紛らわす、心のよ

りどころとして都合が良かったから私達は付き合ってるの。

愛子:そう…なんだ。

智花:ごめんね。こんな泥臭い話しちゃって。

愛子:だい、じょうぶ…。

智花:私ね、必死に一人にならないとうにって生きているの。なんか惨めよね。

愛子:アイコは…

智花:ん?

愛子:アイコはそんな智花のこと、好きだよ。

智花:あら、ありがとう、嬉しいわ。で、あなたが恋愛的に好きな人も教えて?

愛子:い、今言ったじゃん。

智花:え?

愛子:アイコが好きなのは智花。

智花:…え?

愛子:夏美と、智花と、アイコ。この関係を崩したくなくてずっと黙ってたけど、でも…

智花:…

愛子:気持ち悪いよね。アイコ、女の子のことが好きなの。昔から。

智花:私のこと、本当に好きなの?

愛子:うん、好きだよ。いつでも強く自分を持ってて、ずっと真っ直ぐ前を見てる智花の事が好きだった。それ

でね、今日、智花の弱い部分も知って、それで智花が近くなったように感じの。だから、智花のこと、もっと好

きになったよ。

 夏美、入り口付近に現れる

智花:私、あなたは夏美のことが好きなんだと思ってた。

愛子:違うよ。私は夏美よりもずっと……智花の事が好き。

夏美:(持っていた鞄を落とす)


 暗転



第五章


明転


場所は教室。夏美が一人で立っている。


夏美:(語り)やっぱりウチは1人だった…。いらない存在だったんだ…。愛子は優しいから、私の事大好きっ

て言ってくれた。でも、結局それは嘘だったみたい。愛子が智花に言ってるの聞いちゃったんだ。「夏美よりも

ずっと好きだよ。」って。智花のことも同じ。ウチ、「嫌われちゃったのかな」とか言っておきながら本当は智花

がウチのこと嫌いになるはずないって信じてた…。ホント、馬鹿だよね…。


 間


夏美:口から出るのは不幸自慢の被害妄想ばっかり。こんな面倒くさい人と1年も仲良くしてくれてた愛子と智

花はやっぱり優しいよ…。ウチ、こんな状態になっても2人のこと嫌いになれないもん。でも…でももう大丈夫。

2人に迷惑はかけないから…。


 夏美、水筒と薬を取り出す


 暗転


 明転


愛子:夏美が、死んだ…。ストレスで痛かったお腹のために持ってきていた薬を大量に飲んで自殺したんだって。  

あの日、教室から飛び出していった夏美のこと智花と二人で探してた。でも、最期まで見つからなかった…。  

下校時間になっても見つからなかったから、先生に相談したの。そしたら先生は、「きっともう先に帰ってるん

だよ、心配するなって言ってアイコ達を家に帰した。その次の日、薬物中毒で倒れた夏美が私の教室で見つかっ

たんだ…。


 間


愛子:アイコの…せいなんだ…。アイコが太一や智花のこと無責任に夏美にアドバイスしなければ…。でも、も   

う大丈夫。変なアドバイスして人のこと傷つけたりなんかしない。だってアイコ、もう死ぬもん。


 愛子、ポケットから縄を取り出し、自分の首に巻き付ける


 暗転


 明転


智花:私は人殺しだ…。私は親友2人を殺してしまったわ…。直接手を下した訳じゃない。でも、どちらにしろ

同じだわ。2人が傷付いているって知りながら自分勝手にのうのうと生きていた…。本当は私、2人のこと、好

きだったのに。いなくなってから、初めてわかった。ばかよね、私。それに、直人先生や太一も泣いてた。それ

もこれも、全部私のせい…。ああ、夏美、愛子、ごめんね…。2人とも、私のこと憎んでるよね。恨んでるよね

…。



智花:でもね…?私、もう耐えられないの。あなた達のこと、忘れられないの。あなた達のことを思って泣いて

いる直人先生や太一、2人の家族、友達のこと、見てられないの…。クズでごめんなさい。でも、私もそっちに

行かせて…?

 

 智花、ポケットからカッターナイフを取り出し、刃を手首に当てる。

 

 暗転


智花:(声のみ)ああ…3人で青春、したかったな……


 閉幕

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