迷惑メールが運んだもの
カチカチとボタンを操作し、新着メッセージを問い合わせる。
紙飛行機が飛んでいって、読み込み画面が表示される。
‘新着メッセージはありません。
そうか。別にメールなんて来るわけねーか。
ケータイを買った。
電話がないと困るからだ。断じて、絵文字とか、デコメがやりたかったわけじゃない。
ほんとだ。
別に契約したからって、メールが楽しめると思った訳でもない。
メールする相手なんかいないことに、今更気づいたわけでもない。
ほんとだ。
カチカチと、ケータイのボタンを押していく。ひととおりの機能はわかった。
リスのアプリケーションを起動すると、音楽を聴けるようになる。
ネットに繋げると、お金がかかる。
パケホーなんて契約したら、高くなるからやめといた。
別にゲームなんて興味無いし、要らないだろ。
「俺さ、ケータイ買ったんだよ。ケータイから電話かけてる」
「おおやっと買ったのか。でもお前、連絡とる相手いんの?」
「お前がいんじゃん」
「いやいや、俺彼女いっから。別にお前とメールなんてしたくねーよ」
「俺はしたいのに...」
ブツッ。
電話が切られた。
あいつは、中学時代からのずっと友達で、なにかあるといつも相談してた。
また、真新しいケータイをカチカチと楽しんだ。
さをいじっていると、紙飛行機の画面が表示されて、'メールを受信中'と表示された。
メールをする相手なんかいないから、どうせキャリアからのメールだろうと高を括っていたら、知らないアドレスのようだった。
メールのボタンを押し、メールを表示させると、迷惑メールだった。
そうだろうな。キャリアでもなく家族でもないなら、俺には迷惑メールぐらいしかこないんだ。
「おめでとうございます!5億円が当選しました!詳しくはコチラから↓」
コチラ、という文字がデコメだったようで、チカチカと左右に動いていた。
テンプレのような迷惑メールだ。
こんなのに引っかかるやつなんているのか?
俺は迷惑メールに騙される哀れな被害者たちを嘲笑い、迷惑メールを消去した。
ん?俺何か登録したっけな?
次の日、コンビニにジャンプとポテチを買いに行くと、またポケットの中でケータイが震えた。
あのあとマナーモードを設定して、着メロが鳴らないように設定したのだ。
「5億円が当選したんですよ!詳しくはコチラ↓から」
相変わらずコチラという文字がチカチカと左右に行ったり来たりしている。
その次の日、俺はツタヤで映画を選んでいた。
ツタヤは結構人がいて、人気タイトルのコーナーはほとんど取り合いだった。
俺も探してた映画をようやくみつけて、(やっと...!)と思った矢先、ケータイが震え、確認しようとしたら、タッチの差で別の人が俺の見たかった映画を持って言った。
悔しさを噛み締めながらケータイを開くと、またあの迷惑メールだった。
今度は、手が込んでいて、
「どうせ疑ってるんでしょう?まずはみてみて!↓」こんどは「みてみて」という文字が点滅していた。
ひとまずテキトーなビデオを何本か借りてから、家に帰ってもう一度最近きた迷惑メールを眺めてみた。
こうなってくると、少し気になってくるのだ。
「みてみて!」の下のURLを押してみる。
「ようやく見つけた」というメッセージと共に、ダウンロードのローディングが始まった。
やばい。本能的に思った。
ウイルス?
必死にキャンセルボタンを押そうとするが効かない。一生懸命にMenuボタンを押すが効果なし。
やっちまった。
と思うとともに、ロード画面が出てきて、俺の中になにかが入り込んでくる感覚を味わった。
あれから、あの日持っていたケータイはガラケーと呼ばれるようになった。
手の中にあるのはスマホに変わり、仕事はいつのまにか日本を、世界を変える事になっていた。
あの日ケータイから飛び込んできたウイルスは、きっとそういうものだったんだと思う。