本能解放の真実
『本能解放の真実』
レラは疲れ切っていた。
というのも、毎日毎日人間を食べるのが生命を続かせるための義務と言っても過言ではないが、今日は酷く疲れていて狩りにいくことができない。これでは今日は無理か、と思い人間を買いに行くことにした。
普通化け物たちは人間は狩らなくちゃいけないが、もし借りに行くことができなくなった場合人間を買って食べる。
そういう商店があるのだ。
レラは生まれながらに高き存在、そんなものが買うなんて行為は酷く恥だが仕方ない。
食料を買いに行こうと、屋敷を出た。
商店街は意外と近い。
レラのの住む場所は唯一生と死の狭間にあるようなあやふやな場所にあるために、ここに迷い込む人間も少なくはないが最近迷い込むものはいない。
舌打ちしたくなるけれど我慢して商店に向かった。
レラが向かうだけで周りの人達は目を逸らすものがいればむしろ興味深そうに眺めるものもいる。
ご令嬢なレラは強く、その幼いながらも漂わせるカリスマは誰もが憧れるものなのだ。
商店に着けば、売りの人は目を丸くする。
「レラ様、こんな場所までどんなご用意で。」
「あいにく悲しいことに今日の狩りは行けそうにないの。ここで人間を買うわ。恥さらしだけれど、お金はたくさん出すわよ。」
「おお、恥さらしだなんてものがあるはずか。レラ様感謝致します。」
檻の中には生きたままの人間が何人もいる。
捕えられた人間は生気を失うものや暴れるもの、しくしくと泣いているものばかりだ。
そんな中、1人だけ無邪気に笑う者がいた。
こんな絶望にまみれている人間ばかりの中に、異常なほど楽しそうな人間。
レラはその姿を確認する。
真っ黒な髪に赤い目、小さな女の子のようだった。
レラが手招きをすると、女の子は嬉しそうにこちらに駆け寄ってきた。
「……貴方、とても楽しそうね。」
女の子は嬉しそうに笑った。
「だって!ここ、いっぱい人がいるの、檻の外はけむくじゃらのおっきなわんちゃんとか、羽が綺麗な人とかいるのっ。おねーさんも、羽綺麗!」
両方に輝く白の結晶のようなレラの羽。
それを見てキラキラと目を輝かせた女の子に、レラは大層気に入ったのだ。
こんな中、こんなに笑っていられる女の子は至って極めて珍しい。
さらにこの赤い目が気に入ったのである。
「ねえ、この子。」
レラは商店に言いながら、言い値よりも大きなお金をだした。
商店の人はその大金に目がくらむも、頬を真っ赤にしながらその子をおりの外へだした。
「お買い上げっありがとうございますっ。」
この子をどう料理してやろうか。
なんて思ったのだけれど、家に連れ帰った時にその気持ちはなくなった。
レラはなんとその女の子に対して、愛情が芽生えてしまったのだ。
今までの人間はレラを見たら怯え叫び自分の死を察して絶望した。
しかしこの女の子はそんなことは無かった。
女の子は、なんとレラに懐いたのだ。
人間に懐かれるなんてまるでない、そもそもレラ自身に懐くものなんて化け物すらもいない。
それが、この子には。
おかげで食べるために買ったはずなのに、レラは可愛がって育ててしまったのであった。
そして自分の専属メイドとして働かせた。
可愛い可愛い私の子。
あの時、疲れてしまったことに感謝した、じゃなければこの子に会えなかったから。
名前は、ルウラ。
でもルウラは人間だった。
そう、寿命がレラ達よりも直ぐに歳を老いてしまうのだ。
レラより小さかったルウラは、もうレラより大きくなっていき、直ぐに大人の女性になり、直ぐに年老いて、……死んでいってしまった。
たったの、80年で。
レラはその時初めて気づいたのだ。
人間の儚さを。
尊さを。
美しさを。
今まで躊躇わず食べてきた人間達、それがこんなに短命で、そんな短命だからこそ必死に健気に生きようとしていて、なのに私達はそんな命を無情に散らしていたというのか。
レラは後悔した。
人間が短命なのは知っていた。
でもここまで短命だとは思わなかったの。
辛かった。
もう、あの子にはあえない。
「……っ、あ、ぁぁああ……っ!!」
あの子の墓の目の前でレラは、大声で泣いた。
泣くことなんて今まで無かったのに。
こんな感情をくれたのは、あの子。こんな感情を持っているのは人間だけ。
空を見た。
涙で濡れた視界に、真っ暗な空は歪んで見えた。それなのにキラリと何か光るものがしゅん、と流れていった。流れ星だ。
きっと、あの子は星になって私に会いに来てくれたんだ、とレラは涙を拭った。
それから、レラは人間を大切にしようと考えた、いや。
人間になりたいとすら思ったのだ。
あの美しい生き物になりたい、と。
人間は綺麗だ。
どんな感情だって人生を彩る綺麗な色だ。
化け物にはないその色を、あの子はレラに教えてくれた。
「……本能を、抑えましょう。」
本能解放が作られた瞬間であった。
レラを親しむ屋敷の住人も、その事に頷いた。彼らもルウラを愛していたから。
愛を知らないはずのレラ達はあの子を愛することが出来た。
少しの償いとして、彼らは少しでもと。
誓を立てるのだ、