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世界  作者: 、
6/7

ギラの昔と相棒

『忌み子』



俺は忌み子だった。

というのも、俺はフランケンシュタインという種族なのだが、フランケンシュタインとは必ずしも誰かに作られて生まれるという類のものだった。

しかし、俺は違ったのだ。

なんとお腹の中で育ってしまったらしい。

腹の中で育ったフランケンシュタインは将来このフランケンの街に災難を起こすだろうと言われていて、忌み子だと罵られ殺されかけた俺は幼い頃に逃げ出していた。

俺はなんで忌み子だと言われているのか分からなかった。

ただ大人達が怖かった。

生まれることがいけないのとは、本能的に違うといっていたから。

「はぁっ……おなかすいたよお……。」

名前もなかった俺は、雪の降る寒い冬に裸足とボロい白の福でさ迷っていた。

あれからどれだけ歩いたんだろう。

どれだけ食べていないんだろう。

ここがどこだかもわからない。

自分が何者なのかもあやふやになってきた。

こんな、こんなことって。

俺は1歩踏み出したその時に力ががくっとなくなるのを感じて、そのまま雪に埋まり体がぴくりとも動かなくなってしまった。

母の温もりを知りたい。

父の笑い声を知りたい。

そんなこと、生まれただけの俺にはもう叶わないんだ。

そうおもって、もう命の灯火が消えるだろうと察して諦めたように笑った時。

「あっれ!?!?誰かたおれてるっ!!」

元気な誰かの声が聞こえた。

なんだ、……俺か?

その時いきなり誰かに上半身を起こされて、なにか暖かいものに包まれた。

俺は目を見開かせて固まる。

暖かい何かはこいつの服の上着のようだった。

「こんな寒いとこでなにしてるんや!?あかんで!!」

真っ黒な目に真っ黒な髪、幼い顔つきとその服装からはどこかの貴族のように思えた。

俺は疲れ切っていて声を発することも難しかった。

あたたかい、あたたかい、から。

「……す、……、た、……」

「ん?なんや?」

「おなか、……すい、た、」

ぼそっと死にかけで呟いた。

するとそいつは目をぱちくりさせてニカッと笑った。

「なんやなんやそんなことか!ええで!オレの今日のご飯あげたるわ!」

バックから何かを取り出した。

それは、俺も見た事のあるパンだった。

「……っ。」

俺は震える手でそれを受け取り、小さく小さく口を開けてゆっくりと食べた。

あ、美味しい。何だこのパン、美味すぎる。俺はあまりにも久しぶりの食べ物に震えながら涙を流して食べていった。

そいつはそんな俺をしっかり抱きとめながら、全部食べ終わるまで何も言わずにいてくれた。

全部お腹の中に入った。

もう俺は、感謝の気持ちしかない。

「……俺、そ、の、あり、……ありが、と。」

「ん?えーよえーよ!なんならもっとパンとかあるで!」

ニカッとまたもや太陽みたいな顔で笑いながらバックの中からたくさんのパンを出した。

「……!すごい、」

「オレな、この辺の貴族なんやで!」

「え、」

やっぱり。

「だから俺があんた助けたる!」

……え???

「オレはシン!あんたの名前は?」

「え、あ、お、おれ、」

残念ながらオレには名前が無い。

忌み子である俺に名前など与えたら不幸だと言われ、いつもあの子、やあいつ、と呼ばれていた。

歯切れの悪い俺の言葉にシンは首をかしげた。

「なんや?名前ないん?」

「そ、……その、」

「なんやそんな事か!オレが決めたる!」

「は、え!?!?」

「んー、そーやなぁ。」

ジロジロと俺を見つめるシンと名乗ったそいつに恥ずかしくなる。

綺麗な黒の瞳がこんなみずぼらしいオレの姿を見て変に思わないでくれるといいな。

なんて思ってるうちに。

「あんたの名前はギラや!」

「……へ?」

「カラス語で、雪いうんやで!あんた、真っ白な髪に真っ白な目、真っ白な肌で、なんか雪みたいに綺麗やからや!」

曇りのないその笑顔に俺は胸が締め付けられた。

こんな、忌み嫌われた白の色を褒めてくれるのはこいつが初めてだったから。

「……ぎ、……ら、……ギラ。」

「せやで!」

俺は胸元から暖かいものが溢れて、それは目元にまでやってきて目奥がじんわり暑くなった。

シンは笑った。

「あはは、何泣いとるんやー!」

「っぐす、ひぐっ、……えぐぅ、」

今まで温もりが欲しかった。

それが今、お前に。




「『ありがとう』」




「……ふぁっ?」

警察の制服を脱いだシンがこちらを向いた。

あの時と変わらず、その馬鹿面と太陽みたいなキラキラは変わらない。

「……なんでもねーよ。」

恥ずかしいな。

今になって過去を思い出したなんて。

それが尚更、あいつを見ていたら。

私服に着替えるシンを見、微笑んだ。

「お前は変わってくれるなよ。」

「……ふふ、あんたもな!」

やっぱり。


こいつが俺の、1番の相棒だ。

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