幼なじみ
「くぁ……。」
寝ぼけ眼の俺はやっと仕事が終わって、ゆっくりと屋敷に帰るとベットに身を放りこんだ。
長すぎる前髪を留めているバレッタを乱雑に外しては棚の上に軽くほおり投げる。
体が酷く重くてだるい。
「くそ、最近体力落ちたかな……。」
そんな中瞼が重くなってきて、ゆっくりと眠の底に落ちようとした時。
「あっ!ギラー!!」
眠気をとことん追い払うような、今聞くととても、物凄く、耳障りな声。
くそ、なんでいつもお前はこんなタイミングにくるんだよ……!
ゆっくりまぶたを開けると、やはりそこにはいた。
真っ黒な髪に真っ黒な目、そして仕事帰りなのかなんちゃって制服を着ている。
「シン、……見ろ、俺は今疲れてる。」
シンという黒が似合う俺と同い年の男性。人間年齢からするともう大人だが何百年も生きている。彼はカラスだ。
そして、警察をしている。警察のくせにひょうしょうとしていて制服も自分流の制服を着るしもうめちゃくちゃだが、それでもその仕事をやっているのは警察としてとても活躍しているからだ。
カラスに変身したあとなのか体のあちこちに黒い羽根が乱雑にあちこちにへばりついている。
「……そ、そうやけど、あっその、ごめんな…?」
関西訛りがよく似合っている男だ。
カラスの癖にしゅん、と犬の耳が垂れているのが見える。
長年幼なじみをやっていると、何を考えているか分かるから。
「ったく……、別にいいんだけどよ。仕事は終わったんだよな?」
「……!おん!」
ぱあっと顔を輝かせる。
ちなみに俺の仕事は医者だ。
レラ嬢さんと同じ髪色に灰色の目、そしていつも白衣を着ている。
そして頭にネジがぶっ刺さっている。
これで俺がどんなバケモンかは予想着いたよな。そうだ、フランケンシュタインだ。
「はぁ……まぁ、俺も疲れたからといってそのまま寝んのはよくねぇな。飯食いに行くか。」
食堂行くぞ、と声をかけるとシンは嬉しそうに俺の後ろを着いてきた。
カラスっぽくないな。
ほんとに犬だ。
廊下を歩いている時、何故かさらっと寒気を感じた。
風邪か?医者が風邪?
マジ勘弁してくれ、と思ったがそういう寒さの類では無いことに直ぐに気づく。
この寒気は、誰かの気配。
そしてある1種の殺意。
こんな館の中でこの殺気を感じるなんて、理由はあいつらしかいない。
となると、狙われるのは馬鹿なカラス野郎に決まってる!
俺は歩きながらはっ、となって「シン、危ねぇぞ!」と叫ぼうとして遅かった。
振り返った時にはシンは「ぶわぁっ!?」と悲鳴をあげていて、なんと俺が運良く避けた地面に着く重力トラップに引っかかり盛大に転んだ。
「遅かった……。」と俺は呆れ顔に溜息する。
「なっ、なんやなんやなんやねん!!」
「あっはははー!やっぱりシン兄引っかかったー!」
「引っかかったー!」
どこからともなく現れた2人に、やっぱりなとまた溜息した。
ここにたまにルゥ嬢さんが入ってくる時があるから勘弁して欲しい。
疲れる、俺が。
「こっこらぁ!俺に何するんや!」
「引っかかる方がわるいんだもーん。」
「だもーん!」
シンは館の中での警戒心が薄すぎる。
外に出るとそれはそれはもう警戒をしまくってトラップや罠なんか引っかからないのに、この館の中だと常にリラックス状態だ。
少しは警戒しろアホ。と言ってやりたくなる。
でもそれほどこの館の住人を信頼しているのだなと思うとそんな心無い事は言えないのだ。
「おい、おまえら。」
俺が注意をしようと2人に声をかけたら、「きゃー!」なんて楽しそうにその場を逃げ去った。
なんて足の早いヤツら……信じられねぇ。
俺は気を取り直してシンに手を貸し立たせてやる。
「もー…、元気な子やなぁ。」
呆れながらもとても優しそうに笑うシンに俺はふ、と頬を緩ませた。
何をしたってこいつは許すんだ。
心がありえないくらい広くて、例え大きな間違いをしたとしてもこいつは許す。
それは強さなのか分からないが、俺はこいつのそんな所が大好きなのだ。
「お疲れだな、シンさんよ?」
「はぁっ!?さっきまで自分があんなに眠くて無理やぁ!とか言うとったくせにぃ!」
「ほら、食堂行くぞ。」
「人の話聞けや!!」
ふ、と俺はまた笑う。
やっぱり疲れてもこいつに会うと元気がでる。
それが改めて分かっただけで、また疲れはすっと消えていったから。