はじまり
ここは永遠に夜。
夜。
夜。
夜の群れ。
朝日など登らない、周りには枯れ木や墓地ばかり。
ここに迷い込む人間は、二度とリアルには帰れない。
そこは化け物たちが住む世界と人間たちのする世界の狭間でもある。
路地裏の扉からおいで。
真夜中に現れる路地裏の、突然現れる扉の中に入れば二度と帰れなくなるよ。
「遊ぼうよ、おいでおいで。」
「ガラスの声、キャンディーにして君にあげるから。」
くすくすと押さないその声に誘われて中に入れば終わり。
きっとあなたは食べられて……
──────
───
─
「ねえええお姉様っ意味がわかんない!」
「あら、どうしたの?」
「私たち人を食べたりなんてしないし誘ったりもしないよ!?」
眠れない日に、お姉様のところへ行ってお話をしてもらおうとしてもらったらこれだ。
わたしは頬をふくらませた。
たしかに。
たしかにここは化け物たちと人間の住む世界の狭間だし、ここはずっと永遠に夜で私たちは人間でいうばけものだ。
でもっでも!!!
「路地裏なんてないし、人なんか食べないもんっ」
「あら?これが私達本来の姿なのだけれと。」
「そうだけど違うっ!!!」
わたしはぅうっと唸った。
ここは世界のどこからでも下手をすれば入れてしまう場所であり、人々はここに迷い込んだりする。
多くの場合、人々の言うトリップやパラレルや異世界と呼ぶものがきっとこの世界なのだろう。
わたしたちは見つけたら食べないし、ちゃんと人間世界に返してあげている。
「お姉様の意地悪……。」
「わたしたち姉妹は、ここのお屋敷のお嬢様なのよ?少しはこんな威厳も持たなきゃ。」
「わたしと同じ幼女のくせして。」
「……心はお姉様よ。」
私たち、名門で有名な名高い悪魔である。
お姉様はレラ・シャルルという名前でわたしはルゥ・シャルルという名前だ。
シャルル家は代々悪魔として上級にいる、素晴らしい家系だ。 わたしはそれを自慢にしてるし、胸を張って生きていきたい。
シャルル家は大きな屋敷に住んでいて、そこには居候の他の者達が住んでいたりする。
その屋敷に住んでいるものは、周りの化け物達とは精神が違ったりする。
周りの化け物達は、人をとって食らうのが普通。
でも、このお屋敷に住んでいる者たちは違うんだ。
"本能解放"。
そういうものを持っていたりするの。
これは、化け物たちの本能を自ら抑えつけて封印して人間らしく振る舞うこと。
周りの化け物たちはシャルル家が落ちたなとか、人間らしく振る舞うなんて、とよく陰口を言われているがお姉様はそれでもカリスマ性に溢れたままその言葉を無視した。
わたしはそんなお姉様がかっこよくて、わたしもシャルル家がどんなに言われても自信をもてた。
これを決めたのはお姉様。
そして屋敷に住む居候のものたちには共通点があった。
人間らしく振る舞い、野蛮な真似をせずに。
儚い人間のようになりたい、ということ。
戦う時だけには"本能解放"を解放して化け物の本能を剥き出しにして戦うの。
だから私たちはこうやって人間らしくお話できるし、人間らしく嬉しくなれたり悲しくなれたりするの。
人間は、すてき。
だって人間は直ぐにしんでしまうけれど、しんでしまっても夜空のお星様になれるんだって。
しんでしまっても、あんな綺麗になれるの。
化け物たちは死ぬと、そのまま朽ちてしまう。
けれど人間はお上に上がれるの。
そして人間らしい感情は、とても胸に心地いい。
ばけものが感じることの無いこの感情は、素敵すぎて毎日が楽しいの。
嬉しくなったり楽しくなったり、はたまた悲しくなって涙が出たり怒ったり、胸の中がじんわりと暖かくなったり恋をしたり。
人間は毎日がこんな素敵な感情を感じてるの?化け物たちは本能ばかりに従うから見ていて凄くいやになるの。
人間は素晴らしい生き物。
すぐ死んでしまうけれど、壊れやすくて儚くて、素敵な感情を持っていてお星様になれる存在。
お屋敷に住むものは、人間に憧れてるの。
いつか人のお友達が欲しいな。
でも私たちのチカラは強すぎるから、きっと会ったら壊れないように優しく触ってあげたいな。
「お姉様、いつか人間みたいになれるといいね。」
「……そうね。」
お姉様は微笑んでいた。
わたしは、その微笑みに嬉しくなって微笑み返したの。