5 ヒルリア・ウル・タリア
「ここまでが、十三年前の話だ。何か聞きたいことはあるか」
何か聞きたいことといわれても、うーん。何かあるかな?
あ、そういえば……
「お父様、滅亡したとは言え、敵国の王女との間に子供をもうけるのはどうだったのでしょう」
「う、それは……」
お父様も少し悪かったと思っているのだと思う。
「それに、王家にばれたらどうしたのですか」
「ああ、それについては大丈夫だ。我が家は昔より王家に多大なる恩を売っていたからな。そこまで言われることはなかったし、国王は私の親友だったからな」
アクシス公爵家は建国当時より王家を献身的に支えてきたという歴史があるのだ。だから、王家も強く言えなかったということだろう。
「ただし、絶対に裏切られないという保証が欲しいということで、国王の姉であるヒルリアが嫁いでくることになったが」
お養母様の嫁いで来る前の名前はヒルリア・ウル・タリア。現国王の姉であり、アクシス公爵家と王家の距離はお養母様が嫁いできたことにより、格段に近くなったのだ。
そして、私の弟のロスタはお母様の実子であり、国王の甥ということになる。
「なるほど、ですからお養母様が嫁いでこられたのですね」
「そうだ。ついでに、お前についてもらっている侍女のリリアもヒルリアが嫁いできたときに一緒にわが家にやってきたのだ」
「つまり、リリアは元々お養母様に仕える侍女だったのですね」
「そうよ」
答えたのはお父様ではなくお養母様だった。
「他に聞きたいことはないか」
「あ、では、今、私の実母である、シャーロット様はどこに?」
お父様は私の質問を聞いて悲観そうな顔をした。
「シャーロットは死んだ。お前を産んだ時にな」
なるほど。私は、心の中でうなずいた。
「分かりました」
「つらいことだろうが、我慢してくれ。死んだ人は戻ってこないからな」
お父様はなだめるように言った。
「お父様、この話を知っているのはこの部屋にいる五人だけなのですか」
「いや、国王もしている。後は公然の秘密になってはいるが、屋敷に仕えている古参の使用人もだな。だが、あまり言わないようにしてくれ」
「分かりました。ところで、一つ気になったことがあるのですが、お聞きしてもいいでしょうか」
「なんだ?」
「イリスのことです。なぜ、イリスはこの話を知っているのでしょうか。お母様の侍女であったリリアはまだわかるのですが、公爵家に仕えていた一、使用人がここまでのことを知っているとは思わないのですが」
気になったのはイリスだ。イリスだけが、この中の立場として一番弱いのに真実を知っていることになる。
「そうだな。そのことについて言っていなかったな。イリスは、シャーロットの侍女なのだ。シャーロットが、捕虜となったときに一緒についてきたのだ。イリスは、シャーロットが幼いころから仕えていて、一緒に成長してきたから、剣の腕もそこそこあって、学もある。だから、お前の侍女にしていた」
「そういうことですか。分かりました」
私は、納得したようにうなずいて、
「お父様、嘘はダメですよ」
と言った。