4 十三年前
「今から十三年程前のことだ。
その年、シャーロットの元に父王からの命令が下った。その内容は、タリア王国北部、つまり我がアクシス公爵家領への侵略だ。
父王の命令は絶対。彼女は渋々ながら、侵略の準備をし、我が領に侵攻をしようとした丁度その時エマリス王国王都では、王族が全員死亡するという大事件が起きていた」
私もそのことについては本で見たし、リリアの授業で知っている。何者かによって王族が一夜のうちに殺されてしまったという大事件だ。そしてその事件がきっかけとなって、ボスマン帝国の侵攻を許して、エマリス王国は滅亡した。
「その情報をいち早く、手に入れた、彼女はエマリス王国が滅亡することを悟った。
彼女のもとにいた密偵は優秀で、エマリス王国王都だけでなく、ボスマン帝国の不穏な動きを知っていたからこその予測だったのだろう」
お父様の言っている優秀な密偵って絶対クイナのことよね。多分……
「しかし、そのボスマン帝国の動きに対処しようとしても、すでに彼女の軍と我が国の軍が睨み合いを始めてしまっていた。板挟み状態に陥っていたのだ。
そこで、彼女は大胆な方法を考えた。敵である我が軍に、自分の命と引き換えに停戦を求めてきたのだ。当時、国軍の大将として戦地に赴いていた私は驚いたよ。敵の総大将が命と引き換えに停戦を申し入れてきたのだからね。しかも『銀龍』と呼ばれていた猛将がだ。
彼女は、このまま戦って勝ったとしてもボスマン帝国に攻められたら、結局負けるだろうと悟っていた。その時、自分が命を落としてしまうだろうということも。そして、彼女が大切にしてきた、土地の民たちも守れないと思っていたんだ。
だから、自分の命を引き換えにして、停戦し、自分の軍を引き返させて、民たちを守ろうとしたんだ。彼女の軍は彼女を抜きにしたとしても強軍だと言われていたからね」
自分の命を引き換えに民を守るとてもいい人だったのねシャーロット様は。
「私は、彼女の提案をほぼ受け入れた」
私は、お父様の言葉に違和感を覚えた。
「ほぼというのはどういうことですか?」
「言葉通りだ。私は彼女の提案をほぼ受け入れ、両軍は停戦し、彼女は死んだ。いやこの表現は適切ではないな。死んだという風に公表した。
私は、彼女を死んだということにして、捕虜にした。彼女は戦場に立ってはいるが、実際王女という身分だ。その立場はいろいろと外交交渉で役に立つからな。私は捕虜としてとらえた方が益が大きいだろうと考えたのだ。
まあ、その後すぐにボスマン帝国によってエマリス王国が滅んでしまったからね。結局、利用できなかったけどな」
お父様、考えていることがゲスいですよ。
「その後、彼女は屋敷で秘密裏に生活し、生きながらえていた。まあ、その後いろいろとあって、彼女は私の侍女として仕えることになり、何というか、いろいろとあって私の妾となってお前を産んだのだ」
お父様って意外と破廉恥な方だったのですね。