3 実母
「さらに、重要なのはここからだ。お前の、実の母のことだ。お前の実の母の名は……
シャーロット」
お父様の口から出てきた名前に私は聞き覚えがあった。
「お父様、その人ってもしかして……」
「ああ、お前の思っている通りだ。『銀龍』の二つ名を持ち、今は亡き、エマリス王国第一王女シャーロット・オル・エマリス。彼女がお前の実の母親だ」
シャーロット様は、クイナの前の主であり、バルドルが仕えた人だ。そして彼女は十三年前に死んだと聞いた。……ん? ちょっと待って。
「お父様、それでは、つじつまが会わなくないですか? シャーロット様は十三年ほど前に亡くなっているのに私は十歳。私が生まれた十年前にはもう彼女は他界してるということになるのですが」
「確かに一般的に知られている情報を信じればそうなるが、実際、お前は、私と彼女との間に生まれた子供だ」
「ですから、それでは……」
私が続きを言おうとしたときお父様は手を突き出してそれを止めた。
「少し、昔の話をしよう」
そういうとお父様は、どこか遠くまるで、昔を実際に見ているかのような眼差しをされた。
「昔、亡くなる前のエマリス王国の国王は、愚王として有名だった。民たちに思い税を課し、自分に歯向かうものは容赦なく断罪し、自分に都合のいいように政治を行っていた」
何よその国王はホント聞いているだけで、うんざりするような話。私、私利私欲しか考えない人は大っ嫌いなのよね。
「そこに第一王女として生まれたのがシャーロットだった。シャーロットは、真っ当に育った。自分の父親の姿が反面教師になったのだろう。民に寄り添い、勉学に励み、己を鍛えた。そして、彼女が初めて、武勲を挙げたのは十五歳の時だった」
十五歳で武勲を挙げたということは戦場に出たということよね。十五歳でそんなことができるなんてすごいわ。しかも女性の身でありながら。
「その後も多くの武勲を上げ、エマリス王国最強の武人の証である、『龍』の称号を与えられることになった。彼女の二つ名の『銀龍』はこの『龍』と彼女の髪の毛の色の銀からとったものだ」
私も銀色の髪をているからそこだけをとってみると私とシャーロット様が親子だっていうことには納得できるわね。
「しかし、それに快く思わなかった者もいた。実の父である国王だ。実は、彼女の『龍』という称号は戦場で、彼女の戦いを見たものが勝手につけだしたものであって、そのまま民たちなどの勢いに押されて、渋々与えたものだったからだ」
自分の実力を認められたのにそれで実の父親に疎まれるなんて、シャーロット様も大変だったのだろう。
「そして、彼女は『龍』の称号を与えられたのと同時に今、都市同盟カグヤとなっている土地の管理を任された。実質的なエマリス王国、王都からの追放だ。それでも彼女は与えられた土地を豊かにしようと必死に努力した。そして、あの出来事がおこった」