10 国王と
「タリア王国を裏切るつもりはあるか」
私は陛下から言われた言葉の意味を理解しかねた。
「陛下それは、私にこの国を裏切る意思は、あるかということですか?」
「そうだ。君は、ジンバドの娘ではあるが、それと同時にシャーロット王女の娘でもある。つまり他国の王族の血も継いでいるということだ。
だから、私は君にこの国を裏切る意思はあるかと聞いている」
私に向けられる陛下の視線は真っ直ぐだ。
「ないです」
「ほう、理由を聞いてもいいか」
「私にこの国を裏切る理由がないからです。私の家族はこの国のにいますし、大切にしているものもこの国にあります。
それにもし、私がこの国を裏切っても誰にも得はないですし。別に私自身は国王になりたいとか思わないです。というか国王とか面倒です」
この国には私の大切なものがいっぱいある。そんな国を私が裏切って何の得になるのだというのか。
「そうか、それが君の本心か。なるほどな」
陛下は少し考えて、
「であればユリシア嬢、何のためならば、国王にお主はなる」
「そうですね。あえて言うのであれば『民』ですね」
「何故だ?」
そろそろ陛下の質問の意図がわからなくなって来た。
「国家とは、民たちの集合です。
民たちのための国家であり、王のために国家があるのではない。
王とは民たちをまとめ、導く者であると私は思います。
私が民たちにその者になって欲しいと言われれば私は王になるでしょう。王とは、民に認められた者であり、自身からなるものではないと私は思うからです」
民たちから認められない王が治る国は直ぐに傾いてしまう。そんなのであれば、国家としていまはない。
「確かに、ユリシア嬢の言う通りだ。では、この国に忠誠を誓ってくれるか」
「ええ、誓いましょう。私は、この国を守ると」
私は、この国に忠誠を誓った。陛下でなくこの国に。それはこの国の民たちに忠誠を誓うと言うことだ。
「ジンバド、いい娘を持ったな」
「はい、陛下。……ですが、娘は渡しませんよ」
「お、お父様」
流石にお父様の言葉に私は恥ずかしさ半分、焦り半分だった。
「ははは、分かっておる。お前の娘をとるつもりはない」
陛下は笑って言った。ただ、その後で、「お前からユリシア嬢を奪ったら何をするか分かったものじゃないからな」というのが聞こえた気がする。絶対気のせいだけど。