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ファイアが使えない。  作者: そうさん
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第1話

真夏の深夜。

じめじめというよりも、「じとじと」と表現したほうが良い熱帯夜。

一人の紳士が一本の蝋燭を前に真剣な面持ちで正座をしている。

手には革張りの本があり、何やら怪しげな記号、図形などが描かれている。

紳士は何度も繰り返すように開いたページを上から下まで読むというより眺めている。

それもそのはず。

紳士は飽きるほど、本が擦り切れるほどに何度も読んでいるため、ページを開かずとも内容は暗記していた。

自嘲するような笑みを浮かべ、宝物でも扱うかのようにそっと本を閉じ、正座をしている膝元へ置いた。

そのとき、革のブックカバー(革張りではなかった)がハラリと落ちる。

その宝物のタイトルが露わになった。


【誰でも出来る魔法入門】


タイトルの下にはデフォルメされたかわいらしい魔法少女がおり、傍らには某アニメで契約を迫ってくるような動物も描かれていた。

紳士は愛おし気に宝物を撫でると、まなざしは真剣なものへと変わり蝋燭を見つめる。


気合を込めるかのように深く息を吸い込む。

蝋燭へ向かって手を剥ける。

いや、某漫画に出てくる野菜のような名前の御方が使われる「ビッグ〇ンアタック」のような構えだ。

紳士は一度スッと目を閉じ、神経を集中した。


しばらくの時間が流れ、カッと目を見開く。


「ファ〇ア!!!!!!! ファ〇ア!!!!!      ああぁぁぁぁっぁぁぁああああ!!!」


大音量にビリビリと窓が揺れ、音の流れなのか蝋燭の炎もゆらりと揺れる。

喉が裂けるのではないかと思われる声量で「ファ〇ア」と叫び続けた紳士は、やがて力尽きたかのようにがっくりと肩を落とした。


「なぜ・・・なぜ使えんのだ!!! 私は〇の戦士じゃあないのかあああ!!」


絶望の淵に立たされたかのように床へと崩れ落ちる。

いや、まるで駄々っ子のようだ。


「うるせぞ!!!」


隣あう部屋の住人からありがたいお言葉を頂戴した。


「すいません!」


毎夜繰り返されるファ〇アの叫び声。

同様に繰り返される壁ドンと叱咤激励。

近所の子供からは「ファ〇アおじさん」と親しみを込めて呼ばれ、親御さんから高貴なものに道を譲るかのように距離を開けられる。

ときより「しっ! だめよ!」といったような励ましの声が聞こえるが、紳士はその声援に温かい微笑みを向け、颯爽と歩き去っていくのだ。


今こうしている間にも〇の戦士を求める世界は混乱と恐怖に陥っているのだ。

それを考えると紳士は居てもたってもいられなくなる。

未だ発現しない力に己の無力さを感じるが、それでも諦めることは許されない。

彼が諦めることで世界の破滅が確実に訪れてしまうのだ。


紳士は決意も新たに何でも読んで擦り切れた宝物を再び手に取った。

内容は覚えている。

しかし、見落としがあるかもしれない。

紳士は再び深い世界へと沈んでいく。


紳士こと「アラマキ ハルタ」(35歳)は、明日も〇の戦士になるべく修練を続けるだろう。




~~~~~~~




ハルタが寝入ったすぐにあと。

何もない空間が突如夜の黒よりも暗く深い、闇と表現すべきものが現れる。

ずずず、という嫌な音と共に闇から白くほっそりとした手が這い出てくる。

腕、肩・・・と続き、やがて艶やかな黒髪が現れる。

闇からの使者とは思えないほどの天使のリング。

きちんと手入れされた黒髪は素晴らしいキューティクルを誇っていた。


やがて頭もすべて出てくると這い出てきたものはおもむろに顔を上げる。

残念ながら顔には黒子のような幕が降りており、その相貌をうかがうことはできない。


「なんでわたくしがこのような奴の為に・・・」


ぶつぶつと文句を吐きながら、這い出ている腕をハルタに向けた。


「こんな腐れた考えの持ち主に素養があるなんて考えものね。 だけど、残念だけど。 あなたは〇の戦士じゃあないわ。 どちらかと言うとあなたは闇の戦士よ。 思い描いた立場ではないかもしれないけど、望む世界には連れて行ってあげる。」


黒子はハルタの腕を掴むと細腕とは思えない力でずりずりと闇へと引き寄せる。

普通は起きそうなものではあるが、修練によって精魂尽き果てたハルタはダイ〇ンに吸い込まれるゴミのように何の抵抗もなく闇の中へと消えていった。

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