第29話「花森翠は口づけしたい」③
「ここさ、私たちが最初に仲良くなった公園だよね」
「そうですね。『弟になって!』って突然言われて、その次の日に絵のモデルをしたんですよね」
あれから、もう半年が経つのよね……。充実していてあっという間に過ぎてしまった。翔ちゃんと過ごすのは、本当に楽しくて、それでいて自分の夢にも近づけて。
「ここまで、本当にたくさんのことがあったよね。絵を描いたり、喧嘩したり、即売会に行ったり、飲み会をしたり……」
今年度になって翔ちゃんと一緒に行ったことを思い出しながら挙げていく私。
「今年は、遊園地にも行けたしね。あれは、すごく楽しかったな~」
「そうですね。こんなに誰かと一緒にいることってあまりないので、賑やかに感じました!」
特にウォータースライダーなんて、何回やったのか覚えていないものね! 他のプールで遊ぶのそっちのけで楽しんじゃったもの。
「ありがとうね、翔ちゃん!」
「いえいえ、そんな。それならこっちだってお礼を言わないと。僕だって楽しかったんですから」
「ううん、違う違う。もちろん、それについてもありがとうなんだけど、」
翔ちゃんと、みんなと楽しく遊べたことも私にとってはかけがえのないことだから、もちろんそれについても感謝はしなきゃいけないと思うけど、私が感謝してもしきれないことは、他にあって……。何度お礼を言っても足りないと思っていることは、別にあって……。
「私が漫画を賞に応募できたのは、絶対に翔ちゃんのおかげだよ。まだ、受賞すらしていないけど、私にとってはとても大きな一歩だった。諦めかけた時もあったけど、翔ちゃんが協力してくれたから、私はここまで到達することができたんだよ」
これが他の誰でも、ダメだった。翔ちゃんだったから、私は前へ進んで来られた。あの時出会ったのが、翔ちゃんで本当に良かった。ブラコンになっちゃうくらい可愛くて、本当に好きになってしまうくらい頼もしくて、優しくて……。そんな翔ちゃんだったから、私は頑張れた。
「はい! どういたしまして。お役に立てて、良かったです」
嬉しそうに笑う翔ちゃん。何度も見てきたこの笑顔。私はこの笑顔が本当に好きだ。前も、今も、愛おしく思えてしまう。
「そんな翔ちゃんに、私の気持ち、受け取って欲しい」
私は前に出て、翔ちゃんに近づく。翔ちゃんは私が前へ出たことに一瞬驚いたが、私が彼を捕らえる方が早かった。腕を首の後ろにまわし、抱きしめる。
「ミ、ミド姉?」
「翔ちゃん……、好き」
そして私は、唇を彼に当てた。
静かな時間が続いた。たっぷり五秒以上、私は彼から唇を離さなかった。その間、私はずっとドキドキしっぱなしだ。近くにいるものだから、心臓の音が翔ちゃんにも聞こえているんじゃないかと思ってしまうほどに、私の心臓の鼓動は私の体内から、耳に響いていた。
しばらくして、私は唇を離し、翔ちゃんを見据えた。翔ちゃんは私の唇が当てられた部分を抑えて、目をパチクリさせている。
私に唇を当てられた、頬を。
「なななな! ちょっとミド姉、何してるんですか!?」
「えへへ。どう? びっくりした?」
私は咄嗟に思いついた冗談めかした言い方で、翔ちゃんへ笑顔を送った。こんな大胆な行動を取ってしまうなんて……、人間の欲求とは恐ろしい。
「そりゃびっくりしますよ! またこんな心臓に悪いことして!」
また……。私の地元からの帰り道にも私は彼にキスしたんだっけ。あの時とは、ちょっと意味合いが違うんだけれどね。
「ふふ。もしかして、唇にして欲しかった?」
「もっと心臓に悪いですから!」
翔ちゃんの顔はこれ以上ないくらい真っ赤っかで、激辛の唐辛子をいくつも食べたみたいになっている。本当に火が目や口から出てしまいそうな勢い。ふふっ、可愛いな~もう。
無理もないか。翔ちゃん、恥ずかしがり屋だもんね。この半年で私のブラコンスキンシップに慣れては来たけれど、まだまだ照れ屋なところは変わらない。
それに、今回のキスは、前回よりも大分、口寄りにしたしね。前回がいわゆる『ほっぺ』だったのに対し、今回は頬というより、『口の横』だったし。もう少しで唇に当たってしまう。
「まぁまぁ、いいじゃない。翔ちゃんも、嬉しかったでしょ?」
「……姉からのキスなんて、ただ恥ずかしいだけですよ……」
ぶっきらぼうにそう言って横を向いてしまう翔ちゃん。そんな翔ちゃんも、可愛い。
けれど、やっぱり『姉』としての認識の方が強い様子。前回みたいな、姉のスキンシップだと思っているみたい。
「これはね……ちょっと違うよ」
「え?」
想いを伝えることはまだできそうもない。けれど、少しでも女性として意識して欲しいと思う気持ちが私の口を動かした。
「これは、ちょっと特別なスキンシップ。ちょっと特別な口づけなの……」
はっきりとは伝えず、真相は隠す。告白とまではいかないけれど、それに近い表現を翔ちゃんに伝える。翔ちゃんは、訳が分からず私を見る。
「そ、それは……、どういう意味で……」
「それは内緒。自分で考えて……」
そう言って私は翔ちゃんから離れ、後ろを向く。自分が今、どういう顔をしているのか分からないけど、きっとだらしない顔をしているはずだ。翔ちゃんには見せたくない。
私自身も予想外の行動に驚いてしまったけど、翔ちゃん、少しは意識してくれたかな? 桃ちゃんも、流石にここまでのことはやってないわよね?
「それじゃあ翔ちゃん、帰ろっか!」
私は、顔の表情をいつも通りの笑顔に戻すと、翔ちゃんの方へ向き直し、翔ちゃんの横を歩いて並木道へ戻っていく。
「え!? ちょっと、ミド姉!?」
「どうせなら、丘の広場にも行ってみようよ! きっと見晴らしのいい紅葉が見られるよ!」
「いや、その前にさっきのがどういう意味か教えてくださいよ!」
「ほらほら、早く! 最近は陽が短くなってきてるんだから、早く行かないと日が暮れちゃうよ!」
翔ちゃんの質問を受け流し、先導して並木道へ向かう。翔ちゃんもしょうがなくといった様子で私の隣へ向かって小走りをし始めた。
以降、タイミングを失った翔ちゃんがこのことについて追求してくることはなかった。私たちは予定通り、丘の広場で紅葉を眺めたり、持っていたスケッチブックで私は軽く翔ちゃんを模写してみたりと、十分に秋を堪能した。
私自身も、翔ちゃんに行った口づけについて、無駄に気にすることなく、日が暮れるまでデートを楽しんだ。
口づけ……。口づけか~……。もう少しで、本当に唇同士だったのよね。
あと少しだけ、近づけても良かったかもしれないな~。
*
岡村翔平
「(結局、あれって……?)」
ミド姉と別れ、家に向かって歩いているときに、俺は思う。ミド姉との姉弟デート後半からごちゃごちゃした頭の中を整理しきれない。
『ちょっと特別な口づけなの……』
「(あぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! あんな意味深なこと言われて、平常心でいる方が無理だっての!)」
どうにもならないこの気持ちを発散するために心の中でだが、大声で叫ぶ。
「(え? もしかしてミド姉って俺のことが好きなの? 弟としてじゃなくて、異性として!? いやいや! ないない! だってあのミド姉だぞ!? 重度なブラコンを患っている弟バカのミド姉だぞ!?)」
俺の中では、ミド姉はブラコンな姉という認識が確立していた。だからこそ、ミド姉が俺のことを異性として好きだと考えることは、それこそ常識をひっくり返すようなものなわけで……。
「(けど、今日だって急にデートとか言って誘ってきたし、極めつけは、キ……キスもされてしまったし……。もしかして本当に……)」
なんなんだ! なんなんだこの気分!? どうしても意識せざるを得ないぞ!?
というか俺は、今モモの告白に対して真剣に考えなくちゃいけない時なのに……。大樹に言われて、恋について考えるハードルが低くなってしまったからなのか、ミド姉のあの行動に対して変な期待をしてしまっている。はっきりミド姉から告白されたわけでもないのに、モモに対する罪悪感が半端じゃない……。
それに、しばらく経った今でも、あのシーンを思い出すたびに鼓動が速くなる。もしかして俺、ミド姉のこと、すごい意識してない!?
分からない……。二人から受ける好意にどう対処していいのか、分からない!
助けて、恋の救世主!
そうして、俺はスマホを取り出して、大樹に助けを請うことになるのだった。
第29話を読んでいただき、ありがとうございました。今回は、翔平と翠のデート回でした。何だか翔平は、デートばかりしていますね(笑)美しく紅葉した木々の下を美人の年上女性と歩くとか、ご褒美すぎですね!
サブタイトルと内容についてですが、今回は露骨にサブタイトルをつけすぎたかな~と思いました。そのままですもんね! 翠の二度目のキスをくらって、翔平の頭はごっちゃごちゃなことでしょう。次回、またマチえもんに助けてもらいましょ!
今回のデートでは、遊び心で某大人気バラエティ番組のパロディを入れてみました(笑)めっちゃ面白くて私、好きなんですよね~。今回は作品内時系列が秋ということで、秋に関するネタを使いました。
けど、もっと好きな検証テーマとかあるんですよね! 一つは作品内にも載っていますようにウソ検証とか、最近だと、『ドッキリじゃなくてホント!』のやつとか爆笑しました!(^ω^)これからも面白い説を期待しております!
では、今回はこの辺で。二人の女性の好意に揺れ動く翔平のその後は。第30話に続きます。




