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第28話「岡村翔平は熟考したい」③

「よっ、翔平(しょうへい)


 食堂で大樹(だいき)と合流する。今日はいつもよりも寒いためか、大樹は秋用のコートを着用していた。丈の長いベージュのトレンチコートは、長身の大樹にばっちり似合っている。平均身長よりも低い俺では出せない魅力が出ていて、羨ましい。


「最近、めっきり寒くなったな」

「そうだね」


 メニューを注文して、二人がけのテーブル席に座り、いつもの様子で昼飯を食べ始める。俺がうどんで、大樹が定食だ。寒い日には、うどんの暖かさがありがたい。


「翔平、お前さ、」

「ん?」


 飯を食べ始めて数秒で、大樹は俺に何やら聞きたいことがあるような調子で会話を始める。


「お前さ、桜井(さくらい)に告られただろ?」

「ぶっ、ゲホッゲホッ!!」


 すすっていたうどんが変な場所に入り、むせる俺。いきなり、何を聞いてんの!? てか、何で大樹が!?


「何で知ってるの!?」

「いやー、それがよ」


 なんでも、俺たちの森林公園での一部始終を偶然立ち見してしまったらしい。それって、盗み見たってことじゃないか!


「趣味悪いな……。盗み聞きとか」

「いや、しょうがねぇだろ? オレたちが声をかけようとしたら、いきなり始まっちまったんだからよ。まさか、途中で声をかけるわけにもいかないだろうし!」

「まぁ、そりゃそうだけどさ……」


 それでも、盗み見ないで立ち去ってくれれば良かったのに……。まぁ、友人の告白シーンなんて、見始めたら気になるのはしょうがないけど……。


「んで、断ったと……」

「……まぁ、そうだね」

「もったいねぇな。何で断ったんだよ? お前と桜井って、結構お似合いだと思うけどな」

「それは……」


 理由を説明しようとして、言い淀む。なんとなく、言いにくかったんだ。付き合わない理由ってのは、言いづらい。再び罪悪感が浮かび、俺の口を止める。


「お前、あの時のことをまだ引きずってるのか?」

「……」


 嫌なことを思い出させてくれるな……。大樹は。


「別にそんなことないよ。もう終わったことだし……」

「終わってねぇだろ? 今のお前を見ていると、すげぇ影響出てるじゃねぇか」


 大樹に言われなくても、分かっている。モモと付き合うのに、自信がないことを俺は自覚している。けど、あれからもう何年も経っているんだ。それとこれとはあまり今、大きな関係はないはずだ。


「そんなの、分かってるよ。けどそれとは別に、友達として見てきたモモをどうも恋人に見られないというか……。だから告白だって断ったんだよ」


 自信がないという理由は言ってしまえば後付けみたいなもので、友人であるモモのことを改めて恋人に見られないというのが、第一の理由なのだ。なにも、自信のなさだけで告白を断ったわけではない。


「ふーん。今まで桜井とは友人だったから、いきなり恋人に考えを改められるわけない。だから付き合えないってことか?」

「そうだよ」

「友人から恋人になる。けどそれって、超普通のことじゃね?」

「え?」


 俺は、大樹の切り返しに素っ頓狂な声を上げる。大樹は、何食わぬ顔で定食のメインであるハンバーグを食べている。


「いや、友人と恋人じゃ全然違うでしょ!」

「そりゃそうだけど、友人から恋人に発展するケースなんて、恋愛の王道パターンじゃねぇか。むしろ、友人になりもしないで恋人になる方が難しいぞ?」

「え? あれ?」

「お前の読むラノベでも想像してみろよ? いきなり恋人にしたいってパターンも多いかもしれねぇが、大抵の漫画やラノベでは、まずは友人っていう段階から付き合うパターンが大半じゃねぇか?」


 言われてみれば確かに……。俺が読むラノベでも一目惚れとかのパターンは多いけど、それ以上に友人からの恋人昇格のパターンが多い気がする。恋人になるために、まずは友人になるとか、そういう序盤のテンプレも多い。

 そもそも、何で俺はそんな風に思ってたんだ? 『今まで友人だったから恋人にはなれない』なんて、どうしてそう思い込んでたんだ?


「お前さ、難しく考えすぎだよ。お前と桜井のパターンだって、いわゆる王道の展開じゃねぇか。それでも、桜井に女の魅力を感じないってなら理屈は分かるが、お前は一度も桜井を女として魅力的に思ったことはねぇのか?」

「そ、それは……、あるに決まってるだろ?」

「だろ?」


 何より、モモは俺との話すペースが合う。別に、ミド姉が合わないってわけじゃない。ミド姉だって、すごく会話が弾むし、一緒にいて楽しい。


 そういうことじゃなくて、モモとは、『話の速度』や『テンション』とでも言えばいいのか、それが俺と合う。ミド姉だと、突然話の流れがおかしくなったりすることがある。それはそれで楽しいのだが、自分の型に合った楽しさじゃなくて、新鮮さを感じる、飽きない楽しさの方が強い。


 対してモモとの対話は、話し方自体が似ているのか、単純に趣味趣向が合うからかは分からないが、心地よさを感じるのだ。自分の話すペースにモモが自然についてくる感じ。それを無意識に心地よいと捉えても不思議ではない。


 それに魅力の点で言ったら、意外と家事が得意だったりとか、恥ずかしがる時に見せる照れの表情なんかも女の子らしいと思う。それと、二つの大きな武器! あれが強力だ! プールで見たときとか、やっぱそう思った。


「だから難しく考えないで、友人から始まる付き合いってのも考えろよ。桜井だって、元よりそのつもりでの告白だったんだろうからな」

「そうか。俺は難しく考えすぎだったのか……」

「まぁ、それでも付き合うか付き合わないかは、お前次第だけどな。魅力を感じるからって、必ずしも女と付き合うわけじゃねぇし」


 口に含んだ米をもしゃもしゃしながら、今度は反対のことを言う大樹。


「もしかしたら、これからお前が桜井の魅力を知っていって付き合いたいって思うようになるかもしれないし、やっぱり友人でいたいって思うのかもしれない。それは分からないけど、いずれにしても、桜井の勇気ある行動には応えなきゃならねぇ。だから期限内に精一杯考えて、答えを出すんだな」


 すごいな、大樹は……。伊達に恋愛経験が多いわけじゃないよな、本当に。こういうことを真っ直ぐに、それでいて明確に言葉にすることができるのは尊敬する。


「そうだね、ありがとう大樹。ちゃんと考えてみるよ」


 俺は、大樹にお礼を言う。何より、俺とモモのことをきちんと想ってこういうことを言ってくれているということが、俺にはとても嬉しく感じたんだ。


「にしても、お前は自分のことに関しては鈍すぎるんだよ。お前、桜井がお前に好意を向けていることに全然気づいていなかっただろ?」


 と、箸をこちらに向けて呆れ顔になりながらそう言う大樹。


「うん、気づかなかったね……」

「ったく何で気づかないかね? もっと早くに気づいていれば、今こんなにお前が悩むことだってなかったんじゃねぇか?」

「うっ……。確かにそれはその通りかもしれないけれど……」


 俺が自然にモモの好意に気づいていれば、友人からいきなり恋人に見られないうんぬんの問題は、解決するわけで……。そう考えると、今回の恋の悩みというのは少なからず俺に原因があると言ってもいいのか……?


「まぁ、お前だけが悪いってわけじゃないけどな……」

「?」


 大樹がぼそっと言う。どうして小さめの声で言ったのかは分からないけど、大樹なりの気遣いだろうか? 

『俺だけが悪いわけじゃない』か。フォローしてくれるのは嬉しいけど、今回はモモに非はないわけで、これは俺が自分で招いた悩み事なんだと思う。


 だからこそ、俺はモモの告白に対してもう一度真剣に考え直す必要がある。今までが友人だったからどうとかじゃあなく、ただ一つのことだけを考える。すなわちモモと、『桜井桃果(さくらいとうか)と付き合いたいかどうか』ということだ。幸い、一週間の期限のうち、まだ一日しか経っていないので、考える時間は十分にある。


「とにかく、お前はもうちょい、お前を見ている女性の目を気にしろってことだ。そうすりゃ、見えてねぇものも見えてくるしな」

「けど、流石にモモ以外に俺を好きな人なんていないでしょ? 俺、女子の知り合いってそもそもそんなに多くないんだよ」


 あ、別に多くないわけじゃないか。最近だと、ミド姉、モモ、朱里(しゅり)緋陽里(ひより)さん、急速に女性の知り合いが増えたわけだし。

 すると大樹はため息をもらして、


「それがな~……。いや、これは今オレが言うことでもねぇか……」

「ん?」


 最初の方ははっきりと聞こえたが、最後の方はまたぼそっと言われた。一応聞き取れたけど、これだと、まだ俺に好意を持っている人がいるみたいな言い方だよな?


 もしかして、この四人以外の誰かとか? しゃべったことがある程度の同じ学科の知り合いとか、バイト先の常連さんとかかな? 容姿に自信はないけれど、こんな俺でもモモが俺に惚れてくれたという実例がある今、その可能性もないではない。限りなく低い可能性ではあると思うけど。


「いや、冗談だ。それよりも、桜井のことをちゃんとしろよ?」

「分かったよ。ちゃんと考えてみる」


 冗談か。嬉しいような悲しいような、だな。まぁ、大方いつも通りの大樹のからかい半分だろう。

 てか、『嬉しいような』じゃないだろ俺! 今俺は、モモの告白をある意味保留にしてしまっているわけで……。他の人の好意に嬉しがっている場合じゃないじゃないか!


 周りに目を向ける……か。そういえば、大樹だって、朱里の好意に気づいていないんじゃないの? 朱里の大樹へ好意を向ける目だって、大分分かりやすいように見えるけど……。

 やっぱり、案外自分に向けられている好意の視線っていうのは、気づきにくいモノなんじゃないか? そう考えると、俺が特別に鈍感っていうわけでもない気が……。


 そんな疑問を抱きながらも、俺は昼飯を食べ終える。ガヤガヤと色々な音が混じり合う食堂。人の声、椅子を引く音などがざわめき合う中、俺は先程の講義の時よりは前向きな気持ちになっていた。相談したことによって、心が軽くなったんだろうか?


 まぁ、モモと付き合わないことに決めたなら結局また断ることになるから、その時はまた気分が沈むんだろうけど、相談する前の暗い顔して行くよりは、断然今の方がマシだ。軽くなった心で熟考して出した結果ならモモも納得してくれると思う。


「さてと、お前は今日何限まであんの?」

「俺? 俺は今日、三限までだけど」

「んじゃあ、三限終わったらゲーセン行こうぜ! 久しぶりにカンロボの対戦しようぜ!」

「モモのこと、しっかり考えろって言っておいて、遊びには誘うんだね。まぁ、行くけど」

「別に遊びに行くくらいたいした時間取らねぇだろ? それに、こういうリフレッシュもしねぇといい考えもまとまらねぇよ」

「確かにそうかもね。じゃあ、三限が終わったら正門で……」


 ブーブー


「あ、ごめん。メッセージだ」


 大樹に断って机に置いていたスマホを見ると、メッセージの相手はミド姉からだった。


「ミド姉? 何だろう?」


 見ると、そこには『漫画の原稿、賞へ投稿できたよ!(*゜▽゜*)』という可愛らしい顔文字を使ったメッセージが!


「ミド姉、やった!」

「ん? どうした?」

「ミド姉の漫画、編集さんのお墨付きで漫画の賞に応募できたんだよ!」


 あまり期限に余裕がないとか言っておきながら、約一週間の猶予を残して投稿完了か! やっぱミド姉、すごいな! しかも、賞に応募できたということは、編集さんからオーケーが出たということだし!


「そりゃすげぇや! 流石ミドリさんだな!」

「本当にね! ん? まだメッセージが届いてる?」


 見ると、一番目のメッセージの下にも、いくつかメッセージが届いているようだった。


『それで、応募も終わったことだし、私、今日は大学に行く用事もないの』

『それで、もし良かったらなんだけど、』


 俺はスマホ画面をスクロールしてそれを見る。そして、スクロールができなくなった画面の一番下に書かれていた言葉は、



『この後、私とデートしない?』



「……へ?」


 モモとは別の女性からのデートのお誘いだった。


 第28話を読んでいただき、ありがとうございました。今回は、告白回の続きと次回へのつなぎです。

 桃果の告白を断ってしまった翔平ですが、大樹の言葉で、意識が変わったようです。大樹、本当にいい奴だなぁ。いつも不憫な目に合わせてごめんよ(笑)


 今回もそうですが、1話で完結はせず、次回に続きます。次回は翠と翔平のデート(?)回です! ではまた第29話もよろしくお願いします!

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